「Route 246」と乃木坂46のこれから

日本を代表する作曲家、小室哲哉さんを迎えた乃木坂46の新曲Route 246が発表されましたね。多くの方が既に指摘されていますが、小室サウンド満載ながらも歌い手の女性アイドルにも配慮したエネルギー溢れる意欲作となっています。
しかしこの楽曲には私は大きく失望しました。

歌詞が酷い

友情がテーマということでサビで連呼されるHang in there!に象徴される「逆境に負けず頑張れ」というのがおおまかなメッセージです。
復帰を決意した小室さんを筆頭に、乃木坂46、ファン、そしてコロナ禍を生きる全ての人々へのメッセージとも解釈できる単純明快な歌詞といえるでしょう。
J-popの英語歌詞は必ずしも英語として正しい必要はなく、雰囲気が伝われば良いのは十分分かっています。しかしわざわざ他言語を使う以上歌のコンセプトと矛盾する言葉を選ぶのは芸術でも技巧でもなくただの過ちでありそれだけで楽曲の価値を落としかねません。それは聴き手が過ちに気づかなければというものではないはずです。
問題箇所はHang in there, make a run for itの一節。
Make a run for itは「逃げろ」という意味の言葉です。仕方なく、戦略上逃げるというのではなく「とにかく逃げ切れ」というニュアンスが含まれます。これが果たして頑張ってほしい人にかける言葉でしょうか。「どうしようもない時は逃げるんだ」「逃げるが勝ち、って時もあるから」という解釈を許すほどこの曲は複雑ではありません。
満を持して人前に出した作品である以上この歌詞のミスからの言い逃れはできないと思います。「がむしゃらに走り切れ」とでも言いたかったのでしょうか。後述しますがこの楽曲自体が「逃げ」なので平気でこのようなミスが許されてしまうのも当然、とでも言うべきなのでしょう。
この一節にとどまらず、「小室節」に合わせたつもりの陳腐としかいえない歌詞が続いており、ここまでくるとこんな歌詞を背負わされた小室さんも気の毒です。WOW WOWが多すぎる以前の問題です。

乃木坂である必要なし

言葉を紡ぐ秋元康さんを筆頭に多くの才能が集められた結果、乃木坂46の楽曲はカップリングやアルバム曲に及ぶまでクオリティが高く、アイドルソングの中で確固たるブランドとして定着しております。そんなグループに小室哲哉さんのようなビッグネームは必要ありません。(そもそも今の小室さんがビッグネームなのかは各自の判断に任せます。私は化石だと思います)
一度は引退した小室さん、そして確実に衰退しつつある乃木坂の双方を救済したいという(大人の)思惑が一致した結果生まれた楽曲であり、話題一辺倒で作品としての魂が宿っていないどころか初めから放棄しているようにしか思えません。
かつて一時代を築いたベテランを迎えた新たな物語の幕開けに相応しい新しい試み、といえば提灯記事の良い見出しになるのでしょうか。
秋元&小室のタッグでメンバーもスタッフも気合いが入るし、話題にもなるし、売れるし、良いことばかりではないかという意見もあるかもしれません。しかし乃木坂でなければならない理由が全く見当たらない以上この楽曲に存在意義を見出すのは相当に難しいと思います。
私自身秋元さんや小室さんの楽曲がとても好きなだけに残念で仕方がありません。

迷走が続く乃木坂46

2018年から乃木坂はメンバー卒業が相次いでおり、新陳代謝といえば聞こえはいいもののグループ全体の雰囲気は確実に変わっており個人の伸びしろやPR作戦でどうにかなるものではなくなっています。
4期生楽曲の「I see...」は雰囲気が某男性アイドルに似ていると話題になり、「4期生すごい!世代交代できているね!」という極めて安直な意見が散見されます。確かに良い曲ではありますが、今後このような曲の量産を期待しているファンは果たして何人いるのでしょうか。作り手と歌い手の迷走という事実をファンは「新しい」「変革」「世代交代」などという綺麗な言葉を並べて見て見ぬフリをしているのではないでしょうか。
その流れからの「Route 246」。危惧していた流れは続いていました。
エースの齋藤飛鳥さんはまだ若く、キャラも立っており、存在感もありますが、同じグループに白石さんや西野さんなどの大物がいた中で形成されたイメージであって彼女自身が大物になってしまった今でもそれが通用するとは到底思えません。
秋元真夏さんは優しい先輩やバラエティー担当としては模範的かもしれませんがキャプテンを任されたこの一年で急速に老害になってしまったと思います。そこそこ好きだったメンバーなのでやはり残念です。
乃木坂46はあくまでグループアイドルであり、彼女たちの躍進は相乗効果の賜物であることが忘れられがちです。先輩の卒業は不可避なので若手メンバーには枠に捕らわれず積極的に活躍してほしいものです。そうすればいずれまた良い曲に恵まれると思います。

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