一般の人にM-1出たいから漫才台本書いてくれと頼まれた話①
「あのー、M-1に出たいので漫才台本書いて欲しいんですが。。。」というDMが来たのは去年の5月中旬のこと。全く面識のない一般人の山本(仮)さんから届いたその文面に思わず面食らったが、無下にするわけにもいかずやりとりを続けた。
それで分かったことは、
お笑い経験は一切ないが、友人とコンビを組んでm-1に出場したい
思い出作りではなく本気で決勝を目指したい
10秒に1回はボケて最後に山場を作りつつ斬新な設定で勝負したい
しかしネタを作れないので作家さんに書いて欲しい
作家さんの知り合いなんていないからとりあえず僕にDMしてみた
ということらしかった。ドン引きするくらい長いDMだったので一度読むのを中断したくらいだった。ただ、山本さんのツイートを見ているとかなりのラジオフリークでお笑い系のラジオを聴くのが趣味らしく、お笑い番組にもかなり辛辣なコメントなんかを乗せていた。
と今になれば分かるのだけど、当時はそんなことも分からずでやりとりを続けた。理由は、山本さんに間違いなく情熱があったからで、真剣だったからだ。僕は真剣さに心を打たれる時があるし、真剣な人間を小馬鹿にする人間が嫌いだった。
しかし問題は一つ。
僕は芸人さんの座付きを経験したことがないので、ガッツリ芸人さんとネタを作る経験をしたことがない。コントのような台本は何回か書いたことがあるが、漫才のような掛け合いネタを作ったことがない。ナイツ塙さんの「言い訳」を読んだくらいの漫才の知識しかない。
そのことを正直に告げて終わりになるかと思ったら山本さんの反応は違った。
なぜかそこに僕の可能性を見出すことになり困ったのだが、とりあえず会ってみましょうということになった。
山本さんは相当お笑い好きらしく、ネタを作るのはファミレスでしょ!とファミレスで会うことを指定してきた。そもそもまだネタを作るなんて言ってないし、とりあえず色々と話を聞いてみたいだけだったのにネタを作る気満々だ。なら自分で書けよ!と思うがそれを言ったら野暮なのだろうか。
山本さんに断るタイミングはいくらでもあったと思うが、これはこれで何だか面白そうだったので会うことにした。これがテレビの世界に足を突っ込んでいる人間の悲しい性分なのかもしれない。
会ったのは秋葉原のファミレスだった。読者の方は「山本さんは一体どんな風貌なのか」気になってるところだと思う。僕は性別も年齢も分からずある意味でめちゃくちゃ怖かったのだが、現れたのは普通の好青年だった。驚いたのは結婚していて娘もいるということだ。
目の前で思いっきり手を振られ、「山本さん、思ったより明るいな」とやはり面食らったが、もっと面食らったのは相方を連れてきたことだ。
山本さんとは打って変わって物静かな相方がぺこりと頭を下げる。牧瀬さん(仮)と名乗るその人は山本さんの大学の同級生だったらしい。
とりあえずファミレスのボックス席に腰をおろして、事の経緯を聞いた。もうすでにコンビ名やボケツッコミの役割なんかも決まっていて、「わあ、もうこれネタ書くの断れないじゃん」と思いながらドリンクバーのコーラを僕は飲んだ。
と突如山本さんが言い出して、「今度は何よ」と思いながら耳を澄ますと、どうやらお笑い経験がないというのは嘘らしかった。嬉しい嘘だな、と思ったが話を聞いてみると僕が想像してたのとは違った。
端的にいうと、
山本さんは落ち研に入っていたが一回もネタを披露することなく大学を卒業
そのことを今でも後悔しているようだった。
それで、そんな情けない過去と決別をするべく、m-1に立ってネタを披露したい。
隣の牧瀬さんもお笑いが好きだから手伝ってくれるし、貸した金チャラにするからで乗ってくれた
クソみたいな結成秘話だなと思ったが、そんなことは口にしない。
てか、実質お笑い経験は0なので嘘ついてないのでは?とも思ったがややこしいことになりそうだったのでグッと押し込む。
僕は時折、生返事とぎこちない相槌を繰り返しながら山本さんの一世一代の熱弁を聞き、最後に僕は言った。
山本さんは僕を見てからクッと微笑み、すごい大きな声で「なんでやねん!」とツッコミを入れた。そう、山本さんはツッコミを希望していたのだ。全然ボケてないし本心から言ったのに山本さんは満足そうに笑ってる。「今のでツッコミの腕はかってたんでしょ〜?」と牧瀬さんもゲラゲラ笑ってるしで、僕はもう家に帰りたくなった。
けれども、山本さんは真っ直ぐな瞳で
と言う。とりあえずってなんだよ。この人、本気で言ってるんだ、と思った。
その場で断れるような空気ではなかったので、こうして僕は山本さんと牧瀬さんのコンビ「チットベター(仮)」の漫才を作ることになった。
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