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【詩】キッチンにて猫は

一人暮らしの猫は
季節と会話できるようになった。

そりゃあ初めは
「人生のもっとも美しい時期」なんて
大袈裟なことに興味を持っていたけれど。
気付けば結局
昔と同じ飯を作っていた。

猫のキッチンには小さな出窓があって
夕飯はいつも 空と向かい合って食べる。
そうするうち
なんとなく通り過ぎてきた季節の表情が
ちょびっと分かるようになった。

今日の空がきのうと少し違って
あしたとも同じでないこと。
鍋をつついている途中にふと気が付いて
菜箸で沈む夕日をつまんだ。

それから、
キッチンのまな板には
季節の野菜が並ぶようになった。

つまりは何かが動いているのだ。
猫はそう思った。
けどよく考えれば、
猫じしんも動いていた。

気づけば猫も
夏の日に目を覚まし
どれくらいの汗をかいたかに驚き
秋の夜中にもぞもぞと
ウールの靴下を履いていたからだ。

永遠に続きそうな日常で、
猫は不思議な形の置き物に出会ったような気分がした。

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