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「子どもが環境を考えている裏で、大人が環境を壊している」環境問題に12年間取り組み続ける札幌市職員の原動力<後編>

「みんなの気候変動ゼミ・ワークショップ」は、「札幌市」、つまり自治体によって動いているプロジェクトです。しかし、そもそもどうして自治体が環境保全のプロジェクトを始めたのでしょうか。一体、誰のどんな熱意で走り始めたのでしょうか。

今回は、以前掲載したチーム紹介記事にも登場したオーガナイザー・佐竹さんに、当プロジェクトを始めたきっかけや根本的な想い、自治体ならではの進み方などについてお話を伺います。
(この記事は後編です。前編はこちらをご覧ください)

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─「みんなの気候変動ゼミ・ワークショップ」に限らず、佐竹さんは札幌市役所の仕事を通してどのような社会を作っていきたいと考えていますか?

何かをやりたいと思ったときに、誰かの支えを受けながら実現できる社会ですね。みんながみんなの背景を理解して、良いよ、やりなよと支えてくれる大人を増やしたいです。そして、そんな大人たちがどこにいるのかを若者が見えるようにもしたい。みんなが自由に動けるつながりがたくさんある社会が理想です。

─そう考えるようになったきっかけは。

中学校くらいのときに、僕は学校の先生になりたかったんです。大学生の時には塾講師も経験してみました。市役所でも子どもたちと関わってきて、その時代に彼らがどんなことを考えているかにはずっと興味がありました。

その中で、先生や社会への不満が見えることがありました。何かをやろうと思っても大人に潰されてしまう。でも、潰される原因が分からないと。これって大人と子どもの間に信頼関係ができていないから起こっているんじゃないかと思っていて。

子供を信頼しきれない大人は、たくさんいます。「大人の目の届かないところで悪いことをしてるんじゃないか」と疑い、「もし何かあったら大人が謝らなきゃいけないんだぞ」とプレッシャーを掛けてしまうような……。だから今は、「失敗してもいいからとにかくやってみよう」と言える大人たちを仲間に入れられるかが勝負だなと思っていますし、それは札幌ならできると信じています。札幌なら、そういう街にできる。それが子どもたちの魅力になって、例えば大学などで故郷を離れた若者たちが就職するときに札幌に戻ってきてくれれば、結果的に街のためにもなりますよね。これは様々な分野でアプローチできると思うのですが、僕は環境分野でやっていきたいと思っています。

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─信頼、つながりが生まれる社会のために、「みんなの気候変動ゼミ・ワークショップ」はどのように貢献するのでしょう?

今回は初めての試みです。本当に試行錯誤の中で動いているので、これから3年くらい続けたらいい形になるんじゃないかと思っています。このプログラムに参加して気候変動に取り組もうと考える人たちが3年ぶんも集まったら、それは大きなパワーになるんじゃないかと期待しています。また、中高生たちにもたくさん集まっていただいていますが、大きなうねりを作るためには大人たち、特に企業を巻き込んでいく必要があります。「環境意識の高い若者」と「リソースのある企業」が繋がったら、とても強力だと思いますよ。

─そこには、どんなはたらきかけが必要でしょうか?

やはり、まずはネットワークづくりですね。以前、電通やオラクルと気候変動ゼミについて喋った際、「学校の中では『意識高い系』と揶揄される人たちが話せる場所、つながれる場所かもしれないですね」とお話いただいて、そうかもしれないと思いました。

スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんがたまたまメディアに登場しましたが、あれから「上の世代の関心」と「若い人の力」が表面化したと思うんです。僕はこういう人たちを作っていきたい。だからまずは彼女のような人材とタッグを組めるようなネットワークが必要なんです。

─なるほど、ネットワークから。とはいえ自治体ですから、いろいろな壁があるように感じます。テクニックレベルで重要なポイントはありますか?

「札幌市で気候変動対策をやりましょう」という話になったとき、省エネの呼びかけや太陽光発電への補助など、すでに思いつく限りのことはほとんどやっていたんです。そのような中で新しい手段を提案しようにも、それを組織の上層部に上げれば上げるほど「何かあったらどうするの?」「成果出なかったらどうするの?」という意見が出てきますから、なかなか先に進まない。ですから、それをどう納得してもらうかが自治体としての攻め方になると思います。

その時に大事になるのは、実現性や将来性です。そこで僕は、「担い手づくり」をコンセプトに掲げました。SDGsや気候変動に関心の高い若い世代が既にいて、この「担い手づくり」の事業によって、埋もれている人材を発掘できる可能性が高いことを説明材料にしました。

「誰を講師にするのか」「広げ方はどうするのか」といった細かい部分についても、「実績を作れる人を呼べるルートがあります!」とか、「だめだったら自分が”ごめんなさい”をして、次の策を考えます。」という、自己責任の元、内部説明を行っていきました。さらに、若者の関心はここにあるんですここに価値を感じて付いてきてくれる子達がいるんです、と念押しするなど、とにかく説明材料をたくさん用意しました。大変ありがたいことに、今の職場はそのような可能性を信じてくれる部署だったのも実現に向けた後押しになりました。

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─環境問題への取組は、地球規模で働きかける必要がありますよね。この輪を大きくするために働きかけていることはありますか?

自治体は他の自治体の取り組みを参考にすることが多いので、札幌で実現できれば「ウチでもやりましょう」と言いやすくなるわけですが、そのためには我々が成果をPRしていく必要があります。まずはプログラムを実行してみて、その次にどう動くかも考えて。小さくてもいいので成功事例を作り、広げやすくしていこうと思っています。

─最後に、これからの札幌、日本、地球を背負って生きる若者たちにメッセージがあればお願いします。

僕は、状況が悪くなっていくのが明らかに分かっていながら、何もしないのが嫌なんです。そしてみんなの中にも、言葉にはなっていないかもしれないけど、「今なにができるか」を根底に抱えている人は少なくないのではないでしょうか。もしそうだったら、ぜひ僕たちの活動を覗いてみて欲しいです。

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「こども環境サミット札幌」の運営で涙を流し、環境に関する活動に人生をかけたいを考え始めたのが2008年。そこから約12年間、今もなお燃え続けている佐竹さんの情熱の集大成が、この「みんなの気候変動ゼミ・ワークショップ」なのです。

そして原動力となっているのは、「若者」「信頼」「ネットワーク」などのキーワード。これらは環境問題に限らず、持続可能な世界のために広い領域で大切にされるべきものではないでしょうか。

すでに環境分野で戦っている佐竹さんがいます。彼の背中から学びながら、私たちはどんな場所で、どんな戦略で戦っていきますか。

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