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smashing! おいしいのことばとオレ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。この病院の税理士・雲母春己は二人の先輩である理学療法士・伊達雅宗と付き合っていて、そして伊達の彼氏になった設楽泰司も一緒に、三人で暮らしている。


最近ウチは配信も食事も韓流づいてて、ラーメンの麺に凝ったりキムチを仕込んでみたり。白菜の糠漬けとか、浅漬けをそのままキムチに仕立てるんですよ塩分には気を付けつつ。そうでなくてもオレの実家なんて昔からキムチ大好きで、樽で注文したりする程。漬けるの大変だから、そう言ってオレの母ちゃんは早々に美味い自家製を断念したんだった。大家族は人数に対しての供給が追いつかなさすぎる。

三人暮らしなら何とかなるかな、そう思って白菜漬け始めたけど、結構消費が激しい。キムチはニンニクみたいに次の日まで残らないから、皆好き放題食べる。伊達さんが黙ったまま目が据わってる時は相当美味しい時。キムチ手作り始めたらほぼ黙って平らげることが多くなった。免許皆伝みたいなもんかな気分的に、それでもやっぱり嬉しくなる。

みそチゲとキンパはかなり喜ばれたんでオレも調子乗って、それ系の食材店に通うようになった。伊達さんの平屋の近くにも規模は小さいけど品揃えのいい店を見つけて、雲母さんと一緒に買い出しによく行く。あそこは台湾のも豊富なんだ。

買い物行っていい牛肉が手に入ったらソルロンタンにして、専用の鍋も新調したい。そう思ってたら昨日、シンクの下の引き出しに新しいその鍋が入れてあったっていう。伊達さんがこっそり買っててくれたのかと思うと、俄然やる気が出てくる。

あの人に触れる時の浮わついた気持ち、浮わついたってのはあれか、とにかくふわっとした、甘く古めかしいやるせなさを、美味しい食べ物を差し出して、上がりすぎた気持ちをなんとか中和する、そんな代償を立てるような感じなのかもしれない。

美味しい、その言葉がもらえるのなら、オレは何でも作るし調達するし、なんならオレごと喰ってもらってもいい。結局はそこに行き着くのか、なんて。うまいこと漬かったねえ、伊達さんが嬉しそうにキムチの皿を覗き込むのを、オレの心はここからうんと離れたどっかで、その言葉にじわりながらただ陶酔しているんだ。


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