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smashing! かわらぬおまえのまんなかを

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。病院の経理担当である税理士・雲母春己。その雲母の元後見人はフリー弁護士・白河夏己。


大体週一で、家にハルが来てくれるようになった。身の回りのことは全然一人でできるのだけど、細かい諸々がどうしても、俺はことプライベートとなるといまいちツメが甘く、大事な会合の時に靴下が片っぽ違ってたりする。

家の中の物を全く動かしてないように見える丁寧さで掃除され、冷蔵庫に食材と常備菜が足してあって、ベッドに敷く薄い敷布団や枕が干してある。ダウンケットはふわふわ。ベッドまわりが一番感動するんだ毎回。夕方早く家に戻ったら、来た形跡はあるのにハルが見当たらない。早めに帰ったんだろうか。ひょっとして今日来るのではと思って買ってきた土産が無駄になっちゃったか。冷蔵庫に仕舞おうと扉を開けると、タッパーに入った「すぐ食べられるご馳走」がみっしり入っている。冷凍庫にも。

隙間を見つけてケーキボックスを突っ込み、着替えのために自室へ。出掛けに急いでて散らかしてたとこも片付いている。元々真面目で世話好きなハルは、献身的になる程に楽しそうに見える。楽しそう、というかな、幸せそう、というのが近いかな。

チンして食べるばかりの食事は助かる。ハルか伊達くんか信楽…設楽くんの手作りは、買ったやつより数倍美味い。それにしても今回のラインナップ、赤いな、全体的に。韓国料理だなこれヤンニョムチキンとチヂミだ。どうやらあの三人は韓流ブームらしいな。冷蔵庫のタッパーの一つ、それとビールと。

リビングで早速頂く。俺が知ってるどの店より美味いな。お世辞じゃなく。マッコリがあればよかった。そう思っていたら玄関から軽い足音。なんだハルお前帰っちゃったんじゃないのか?ちょっとお買い物に出てたんです、手にしたエコバッグには数本のマッコリが覗いている。すごいななんで呑みたいってわかったんだ。

差し入れのお料理、絶対このほうが合うと思ったんです。ちょっと得意そうに目を瞬かせるハル。残りのマッコリを冷やすために冷蔵庫を開けた途端、嬉しそうな歓声が上がった。先生これ僕の好きなチーズタルトですね!箱見ただけでよくお分かりで。いそいそと皿やフォークを手に戻ってきたハルは、ちゃんとマッコリの盃も持ってきてくれてた。

ハルが注いでくれた酒は格別なんだが、本人には言ってない。何がどう違うのか知りたがるからだ。教えてやりたいところだが、俺にもそのへんはわからない。俺には肉親がいないけど、血が繋がってなくてもハルがそれ以上の存在。

甘い物食べすぎると嗜められて、それでも付き合ってくれる。伊達くんというパートナーと暮らし始めても、その彼氏との同居が始まっても、ハルは何も変わらない。昔からこんなマメで真っ直ぐで綺麗な息子がな、なんでだか俺に与えられたんだよ。



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