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smashing! はらごしらえはしっかりと

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗。彼は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己と、伊達の後輩・設楽泰司の恋人だ。


台所のほうから小さな物音がする。俺の部屋と続きになってるハルちゃんの部屋、布団の上でのんびりと脱力しながら、すっかり日の昇った窓の外を眺める。

あ、コーヒー淹れてくれてる。最近ハルちゃんは何でも率先して作ってくれるようになって、ちょっと残念な気もするけどすごく嬉しい。俺は何でもやったげたいタイプだからね。よっこいしょ、ふかふかの布団から起き上がって、襖開けて廊下に出ると、コーヒーの香りがもっと濃くなる。

丁度淹れたところなんです、ダイニングテーブルにマグカップが並んでる。そしたら、コーヒーのいい匂いに刺激されたんだろうか、すごく腹が減っちゃって。俺何か作ってもいい?ハルちゃんがすごく嬉しそうに、大きく頷いた。

いいパンがあるんだよ、昨日設楽が買ってきてくれた食パン。焼くと外カリ中モチタイプね。フレンチトーストしようかね。卵と牛乳と砂糖と。ちょっと漬け込む時間欲しいけど手早く出来て美味しい。コーヒー飲みながらガスコンロの側で、二人で昨日あったことやテレビの話をする。ハルちゃんは俺の手元をずっと見ながら、フレンチトーストは奥深いですね、真面目な顔してるけど眼鏡してないから勘で覚えてるんだなきっと。

居間にコーヒーのおかわりとフレンチトースト運んで。メープルも追加して、小口に切ったとろとろのパンをゆっくり味わいながら、僕もお腹すいてたんです、ハルちゃんの嬉しそうな顔。細いのにすごくよく食べるんよ、設楽に負けないくらいに。

口の端にとろけた破片、指先で撫でるとハルちゃんの唇がぱくり、俺の指を食んでくる。甘い味しますね、柔らかくて熱いハルちゃんの中は、いつも俺の心の底をざわつかせる。

軽く触れ合わせた唇がいつのまにか深く角度を変え、フレンチトーストの甘い香りとコーヒーが混ざり合って、間近に綺麗な長いまつ毛が瞬いて。僕このくらい近づかないと見えないんです、低く笑ってその指先が俺の髪を梳く。ああ、これ作ってよかったあ、だって。

始まりそうな一連の流れの予感、その前の腹ごしらえってほんと、必須だもんねえ。


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