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smashing! おまえをきづかうおれにも

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。


なんか寒気するなあ、って思ってたら10月じゃんか。誰に話してるんだ、リビングで栗の皮を剥いていた喜多村は、キッチンで独り言を呟く佐久間を見やる。今週になってようやくクローゼットの中を秋冬物に入れ替え、重ね着しなくてもちゃんと温かいパーカーとロンTで作業する二人。衣替えの時期に妙な気温の変動があると、タイミングを見誤ったりする。まさにこの二人がそのタイプ。夜に野外で遊んだりする上着はちゃんと常備してあるのに。

伊達軍団からの秋の差し入れ、山のようにもらった栗を贅沢に使い、栗きんとんを作る喜多村。茹でた栗を剥くのが大変だが、砂糖を入れなくても甘くて美味しい栗なので作るのは難しくない。キッチンの佐久間は余った栗で、栗ご飯を仕掛けている。

伊達をはじめとした友人たちの分と自分達(特に佐久間)の分、そうだな今年は150個くらいあったら足りるかな、リビングに戻ってきた佐久間と一緒に栗きんとんを握り始めた。零れた破片をつまみ食いしながら黙々と仕上がっていく栗きんとん。

気温の変化に鈍くても、なんだかんだで季節ごとの愉しみはこうしてちゃんとイベントとして巡ってくるから、美味しいものを食いっぱぐれることのない生活はなかなか悪くない。でもあれだ、寒いのか体調があれなのか訳わかんなくなる前に気づいてやんないと、まあ俺もだけどな。喜多村は佐久間のふかふかロンTを眺めながら思った。

ようやく終わりも見え始め、リビング中に並べられた栗きんとんは圧巻。その眺めを撮って一斉送付も済ませた。これならすぐ取り来るだろうな。何か栗きんとん作ったら暖かくなったわ、そりゃ何よりだ。喜多村はいつも今ひとつ鈍い佐久間に笑いを堪えながら、これに合いそうなコーヒーでも淹れてこような、そしてキッチンに向かう。

佐久間の気づかないとこを自分がフォローして、その逆は佐久間に任せる。まあ俺はパーフェクトだから失念なんてないんだがな、誰もいないのにニヤリ笑いを浮かべながら、ぺたぺたとスリッパを引きずる喜多村の足元は、靴下が互い違いだったりするのだった。




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