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smashing! オレのいだくゆめと

大学付属動物病院獣医師・設楽泰司。週一で佐久間イヌネコ病院に出向している理学療法士・伊達雅宗は彼の先輩で恋人。伊達は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己とも恋人同士。

今週は平屋の家が拠点。広くて静かで、久しぶりに我が家に帰って来た感がありますねずっと実家暮らしを余儀なくされていたんで。実家の一部が修理終わってピカピカなりました、そう伊達さんに言ったら、また見に行かないとねえ、と嬉しそうな顔する。こないだの希少日本酒三昧がお気に召したのもあるな。

今日は二人とも普通のシフトで、夕方には帰って来て夕飯の仕込みして。それまで時間あるから伊達さんとゆっくりコタツやら風呂やらでイチャつこうかと思ってたら、台所で何やら始めたらしい。見ればボウルいっぱいの金柑と格闘している。

「伊達さん、それは」
「あーこれねえ昨日お向かいさんがくれたんよ!すげえ綺麗だよねえ」
「何か作るんですか?」
「金柑酒、ハルちゃんが楽しみにしてるんよ」

伊達さんの横で金柑のヘタをとって水気を取る。採りたてだとアク抜きいらないのが便利よね、それにしても瓶がデカイな瓶が。これ3Lですか?んや4L。そんなに焼酎ありましたっけ?ブランデーやらウィスキーの開けちゃってるやつ全部入れようと思うん。伊達さんのこういうアバウトかつワイルドな決断、嫌いじゃない。それにしても総額一体いくらするんだ。

氷砂糖の代わりにコーヒーシュガー。これしかなかった、伊達さんが笑いながら大量投入。交互だからこのくらいはね、最近更に甘党に拍車が掛かった気がする、ウチの伊達さん。交互に敷き詰める金柑のひとつ、ちょっとだけキズの目立つそれを口に放り込んで、甘みがあって美味いねえ、伊達さんから金柑が香りたつ。オレの胸元を引っ張り、口移しでくる。中身はほぼ種なんだけど鮮烈な柑橘系の、抗えないあの刺激がやってきて。

「金柑、今年初物だから食っといたほうがい」

伊達さんはあっさりオレから離れ、金柑酒の瓶を仕舞いにパントリーへ。下のほうにはこれまで漬けたいろんな果実酒。これなんて5年前だわすげえ何だろ中、しゃがんで瓶を覗き込む伊達さんのつむじ。この人3つあるな面白いな。そんなこと考えながら一緒に瓶を吟味。その中で珍しいのがあった。ブラックカラント、カシス酒ですか?これはねえ謂く付きのやつなんよ。

「呑むとなんと!願いが叶ったりすんの♡」
「…呪いの何かの」
「そんな怖いのじゃないよお、ただね…」

どの願いかは、おまかせで、ってやつ。上目遣いでオレの心を見透かすように微笑みながら、伊達さんはブラックカラントの酒の瓶を取り出し蓋を開ける。呑んでみる設楽?濃厚なカシスの香りに惑わされるように、オレは伊達さんに逆らえずただ頷く。

「お前のことだから    できますように、とかかねえ?」

ハイそうだけど全然構わないけど実はそうじゃないんだ、あんたとそして雲母さんも一緒に、混じり合い溶け合って一つの塊、所謂ハッピーコミュニティみたいで在りたい、そんな都合のいい夢を大真面目に、オレは抱いてたりするんだ。


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