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smashing! ささいなこともトリガーに

「しだらあー、俺甘い紅茶」
「はい」
「あとねえテレビもつけて」
「御意」

朝から伊達さんの執事よろしく勤勉に働くオレ。土曜は面白いのやってるねえ、ペントハウス、リビングのコタツでソファーにもたれて伊達さんはのんびりとハムとチーズのサンドウィッチを食ってる。

雲母さんと伊達さんと三人で道の駅等散々楽しんだあと、雲母さんは仕事へ。伊達さんとオレは週明けまで休み。オレはようやく実家での手伝いが終わって伊達さんと一緒にペントハウスの方に戻って、戦利品を片付け少しゆっくり過ごした。伊達さんとくっついて座って、珍しく歌番組が見たいだなんて伊達さんが言うので、配信を探して一緒に観た。懐かしいていう年代がほぼ同じ、うそだあお前年誤魔化してん、いえ多分兄達の記憶とごっちゃになってるんだと、自分の記憶なんてそんなもん。自分のなのか他人のなのか、仲がいいほどどっちのかわかんなくなるもんだ。

あまり深く聞いたことがないけど、伊達さんは高校時代ほぼ留学してたらしくて、そのあたりの流行りの歌は全部英語なんよ、なんてちょっとカッコいいはぐらかし方をされる。大学行ってた時にだいぶ年上だったのはそのせいか。甘いマサラチャイを淹れて伊達さんの前に置く。ソファーに乗っかった顔がくるんとこっちを向いて、なんてのか、可愛い。この人は大人だし普段全然男らしいんだけど、オレにとってはもはや何でもかんでも可愛い。

伊達さんがこっから動かないのは、動けないからだ。何故ならオレは昨夜、伊達さんをああしてこうして、腰立たなくなるほどにしちゃったからなんですね御意。立てない、ってのは大袈裟だけど、しんどくて動く辛い、てのが近いかと。この人は際限なくオレを貪るわりに、そんなに体力は続かない。年みたいに言わないでえ、聞こえるはずのない声が聞こえるな。

手を伸ばして届く範囲のものでやり過ごそうとしてるのを、オレは先読みを駆使して飯や欲しい物やして欲しそうなこと、そんなのを自動換算していく。申し訳ない、そんな感情とは違うところで、この人の全てに同調したい、そういう意味合いで。

ふと目が合う、何も言われてないのに、少し熱を帯びたその色違いの目が、昨晩の記憶を蘇らせる。断片的、でも曖昧で辻褄は合ってない、ただそのリアルな感触だけが、オレの中に湧き上がって来て。

おまちょっと唐突なんよね、この人はオレの恋人、そう呼んで許される立場になれたオレには、どんな些細なこともこうやって、憎まれ口さえオレの燻った気持ちへのトリガーになるんだ。


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