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【絵とSS】絵は動いている  ━『猫の飼い方』━

ねこの飼い方
作者 YOKOZCO

*YOKOZCOさんの許可を得て画像を載せています。


『猫の飼い方』



「毎日中学校に行って帰って来るだけってつまんない。家で猫とじゃれあうだけが楽しみな私って、ほんと不幸よね。あーもう、何か面白いことなの」

 通学の途中、リタはぶつぶつ言いながら、板壁の古い家の二階の窓に目をやった。

「あれ、誰か引っ越して来たのかな?」

 しばらく空き家だったけど、男が片腕に白猫を抱えている姿が見えた。よく見ると、男は眼鏡を掛けて背中を丸め、困った顔で『猫の飼い方』という本を読んでいる。白猫も男の腕に挟まれて苦しそうだ。えっ、これから調べるの? リタは気になったけど、遅刻しそうでそのまま学校へ向かった。

 学校の帰り道、リタは古い家の前で二階の窓を見た。なんと、男はまだ白猫を抱えたまま本を読んでいる。

「うそでしょ。あれじゃ猫がかわいそう」

 思わず叫んだリタは、鞄からノートを取り出してペンを走らせていた。

『猫はムリに抱かれるのがキライです。自由にしてあげて! リタ』

 見てくれるかな? リタは書いたメモを男の家のポストに入れた。

 次の日の朝、リタはいつもより早く家を出て足早に歩いた。男の家に着き、そっとポストを開けると、『リタ様』と書かれた封筒があった。やった、見てくれたんだ。何て書いてあるかな? リタはドキドキしながら、急いで封筒を開けた。

『親愛なるリタ様。昨日はアドバイスをありがとう。貴女の言う通り猫を自由にしました。ですが、家中かけ回り困っています。どうすればいいでしょうか? 白猫の飼い主』

 そうかあ。リタはしばらく考えて、あらかじめ持ってきていた便箋を取り出した。

『猫のおもちゃで遊んであげると、満足してあまり走りまわらなくなるはずです。 リタ』

 これでどうかなあ。リタが手紙をポストに入れ、二階の窓を見上げると、まだカーテンが閉まっていた。

 リタは、その日の授業は朝から上の空。白猫は気になるし、会ったことのない人と手紙のやり取りをするのはどこかスリリングで、リタの頭の中は男と白猫の事でいっぱいになっていた。

 授業が終わると、リタはまっすぐ男の家に向かった。手紙の返事が入っているかも知れない。リタはワクワクしながらポストを開けた。

『親愛なるリタ様。貴女の言う通りにすると、猫がやっと落ち着きました。感謝しかありません。しかし、まだちっとも言うことを聞いてくれません。どうすれば、私に慣れるでしょうか? 白猫の飼い主』

 感謝だなんて照れちゃう。手紙も丁寧だし、飼い主さんってきっといい人よね。ちゃんと返事しなくちゃね。

『猫はムリに抱かれるのはキライだけど、甘えたいときには自分からよってきます。その時には、なでたり抱いたりしてかわいがってあげてね。そうすれば、飼い主さんにもだんだん慣れます。 リタ』

 これできっと大丈夫。この子が甘えてくれたら幸せだろうなあ、白猫って絵になるもん、いいなあ。二階を見ると、窓ガラスには西日が反射していた。

 今日は休日。いつもはのんびり寝ているリタだけど、軽く朝食を取って家を出た。手紙、なんて書いてあるかな?

 リタが男の家のポストを開けると、封筒の中に『どうぞ』とだけ書かれた手紙があった。

「どういうこと? 招待してくれてるのかな?」

 リタが困っていると、いつの間にか足元に白猫が座っている。

「あっ、猫ちゃん。飼い主さんとはうまくいってる?」

「ニャー」

 白猫が、機嫌よさそうな声で鳴く。

「そう、よかった」

 リタが白猫の頭に触れようとすると、すばやく身をかわされた。

「ニャー」

 今度は玄関の前に行き、振り返ってリタを見ている。

「そっか、開けて欲しいのね。仕方ないなあ」

 リタが玄関のドアノブに手をまわすと鍵が掛かっていなかった。家の中は正面に階段があり、物は少ないけどきちんと整えられている。へえ、こんな風になってるんだ。

「猫ちゃん、開いたよ」

 白猫が家の中に入ると、今度は階段の途中に座り振り返った。

「ニャー」

「おいでってこと?」

 リタは少しの間耳を澄ませてみたけど、人の気配はない。『どうぞ』って書いてあったもんね、いいや入っちゃえ。何かが起こるかも知れないという期待と不安で、リタの胸は高鳴った。

 リタが階段の下から上をのぞくと、白猫がドアの隙間から男が本を読んでいた部屋に入って行く。あの部屋はどうなっているんだろ? リタは、ギシギシと鳴る階段を上り、白猫の入った部屋の前で深呼吸をした。

「こんにちは」

 リタが部屋の中をのぞくようにドアを開けると、そこには大きさの違うたくさんの絵が並べられていた。ネズミの絵、犬とお酒の絵、鶏と男の絵……。どれもリアルで、人は誰もいないのに、リタは一斉に見られているような視線を感じ、背筋がゾクッとした。

「誰かいますか?」

 リタが部屋の中をグルッと見回すと、窓辺に白猫が座っている。

「なんだ、猫ちゃんに見られていたのね」

 リタはホッとして、何気なく猫の近くにあった絵に目をやった。

「えっ、うそ⁉」

 やだ、窓から見えていた白猫と飼い主さんは絵だったの? 白猫のそばでもう一度確認したけど間違いない。外から見ていたとは言え、リタは本物と勘違いした自分がだんだん可笑しくなってきた。

「どうして間違えたんだろ、笑っちゃうよね。まっいいか、こんなに面白かったことないもん。ね、猫ちゃん」

「ニャー」

 白猫は、甘えるようにリタの胸に飛び込んだ。

「きゃあ、かわいい! このままずっと抱いていたい」

 リタは白猫に頬を寄せ、永遠の幸せを手に入れた。

 *

ギィィィ

 二階の部屋のドアが開き、一人の老人が入ってきた。

「望み通りになったかな、リタ」

 老人は床に落ちていた『少女と白猫』の絵を取り、『男と白猫』の絵の横に置いた。

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