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「影は移動するよ」と言ってみた。

ずいぶん前に宅地開発の仕事に参加していたことがあります。その流れで住宅販売会の企画もしていたため、販売会当日は会場をうろうろと見てまわっていました。

イベント会場として使っていたカフェの前に開発前のひろっぱがあり、木でできたベンチを置いて広いお庭のような塲づくりをしていました。
木の引き戸になっていたカフェのドアは、上半分がガラスだったので、中から外の様子がわかり、ドアを全開するとオープンカフェのようになる造りでした。

来場者が落ち着きはじめた午後3時頃だったと思います。そのひろっぱに幼稚園児くらいの女の子がポツンとしゃがみこんで、つまんなそうにしていました。ママかパパは、カフェの中で住宅メーカーさんとお話でもしていたのかもしれません。
女の子に「こんにちは」と声をかけてみましたが、つまんなそうにふりかえるだけ。近くに行ってその子に並んで同じようにしゃがみこんでみました。何を話しかけたのかは忘れてしまいましたが、その子は表情を変えることなく、つまんなそうにしていたのは覚えています。

しゃがみこんでいる女の子の足元にちいさくその子の影がありました。なぜそんなことを言ったのか覚えていませんが、わたしはふいに女の子に言いました。
「あなたの影が地面にうつってるね。これもう少ししたら横に移動するよ」 
その瞬間、女の子の瞳が輝いたような気がしました。わたしは続けました。「この影はね、太陽があなたにあたってできていて、太陽は時間とともに少しずつ動くから、太陽と一緒に影も動くの。おもしろいよね」
そんなことを言いました。
わたしが話している途中から、女の子の表情がみるみるかわりました。高揚したような、わくわくした目になっていったのを覚えています。

その時の印象がとても強くて、何気ない日常の、あたりまえのように見過ごしてしまいそうな大切なことを、ちゃんと子どもに語り、感じてもらうことって大切なんだなぁと、しみじみ思った記憶があります。

そののちわたしは、たまたまご縁をいただいた子ども関連のNPOの活動に参加しました。いまは年に1回、年会費を納めることしかできていませんが、子どもの学びに対する大切にしたいこだわりみたいなものの、ちいさな、ほんとうにちいさな炎のようなものが、心のなかにほんのりとあります。
そんなちいさな炎を言葉にすれば、子どもの想像力を大切にしたいということなのかもしれません。心で感じることを大切に育みたいという気持ちなのかもしれません。

風の肌ざわりや雨のにおい、土や植物に触れた時の気持ちよさ、おひさまのぬくもりを感じ楽しむ子どもが増えるといいなぁ。キラキラした目で何かを夢中にやっている子どもが増えますように。想像力いっぱいの子ども達に育まれますように。


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