連載「菌活ボーイがゆく」①
①いざ布菌活動
パリ五輪レスリング女子53キロ級の金メダルに日本が沸いた日。
さっちー師匠が、決意に満ちた顔でやってきた。
しかも、甘酒パウチの手土産持参。
どっかとソファーにくつろいで、
「わかってるよにゃ」
甘酒をドンとテーブルに置いた。
中身は硬く凍り、パウチの表面は薄い霜で覆われていた。
僕は喉を鳴らした。
キジトラ一門に入門して3カ月。
いよいよ、菌活の喜びを伝える「布菌活動」に乗り出すのだ。
「菌友を増やして世界を救うのにゃ~」
師匠の言葉に胸が高鳴り、体の毛が逆立った。
甘酒で祝杯だ。
ところが師匠は僕より素早くパウチをひっつかむと、
キャップをグイとひねり、天を仰いでグビグビ飲んだ。
お土産じゃなかったの?
あっけにとられつつ、豪快な飲みっぷりに度肝を抜かれた。
そして気づいた。
これがキジトラ流の飲み方なのだ。
「あとは、よろしくにゃ」
師匠が去った後のテーブルには、新品の甘酒パウチが置いてあった。
僕はキャップを握り締め、グイッとひねった。
まぶたを閉じる。
そうだ。
あの時、師匠の左手は腰だった。
口をつけ天を仰いだ。
重力に導かれ、こうじが全身に流れ込んできた。
いつもより甘く濃厚な、菌メダルの味がした。
(続く)
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