NZ life|やけど
ニュージーランド生活56日目。
天気はれ。気温19度。冷房の要らない夏。とても涼しい。
またやってしまった。ソファの上に飲み物を置いてはいけないと、あれほどつよく誓ったのに、またやってしまった。
しかも今回はお湯。白湯にしようと思ってステンレスのマグに注いだお湯は、もうどうしたってお湯のままで、勢いよくソファの上に撒かれた。
よくなかったのが、わたしの右足にかかってしまったこと。
熱々のお湯が右足にかかり、一瞬つめたいような感覚に包まれたかと思えば、すぐさま足の甲が熱を帯び出し、その熱さで「ああ、火傷をしてしまった」と気づいた。
右の足の甲を、水で冷やす。
冷蔵庫を開けてなにか保冷剤の代わりになりそうなものを探すと、もらったまま放置していた缶コーヒーが見つかった。赤くなっている足の甲にそっと押し付ける。
幸いにも靴下を履いていたので、大事には至らなかったけれども、じんじんと熱を帯び、ひりひりと痛む。
火傷、火の傷と書いて、やけど。言い得て妙だなあと感心してしまう。
言葉の温度感もすばらしい。やけど。
「や」の辺りではなんでもないような顔をしているのに「け」の辺りで一気に緊張感が走る。かと思ったら「ど」だなんて、ちょっと間抜けな感じで終わる。
深刻にも、不深刻にもなり得る、危うくて、なんでもないような温度感。やけど。
足の甲を冷やしていると、部屋着のズボンが濡れていることに気づいた。
柔らかなベロア生地で、紫とピンクが混じり合った上品な深い色で、とても気に入っている。
ゆっくりと脱ぎ、濡れているところを触ると、ぴちゃりとつめたくなっていた。
さっきまでお湯だったものが、もう水になっている。
あんなにも熱く、冷める気配などこれっぽっちもなかったお湯は、わたしの知らない間につめたい水になって、深い紫色を、さらに深い紫色に染めている。
足の甲はまだこんなにも、じんじんと熱を帯びているというのに。
今日もすばらしく晴れた。太陽が燦々と降り注ぎ、ニュージーランド特有のつよい紫外線で、庭や家や車をじりじりと焦がしている。
芝生の上に広げた洗濯物も、ゆっくりと焦がされていく。
夕方になって取り込む頃にはすっかりパリッと乾いていて、気持ちがいい。乾かしたバスタオルに顔をうずめると、お日様のにおいというより、焦がしたバタートーストのようなにおいがする。
ベロア生地で、深い紫色のズボンを取り込む。
ちょうど右の足首が触れる場所をそっと撫でると、ふわふわと柔らかく、それでいてパリッとしている。
朝には水がかけられ、あんなにぐっしょりとなっていたのに、もうなんでもないような顔をして、紫とピンクを混じり合わせ、佇んでいる。
ベロアの生地には、お湯をかけられた熱さも、水になっていくつめたさもなくて、ただ、夕方と同じ温度がそこにあるだけだった。
右の足の甲はまだ、じんじんと痛むのに。
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