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NZ life|フライパンと世界の終わり

ニュージーランド生活35日目。
天気くもり。気温17度。朝の寒さが少し和らぐ。夏に対して使う表現じゃない。


昨日のこと。
テラスにあるシャワーで、大きな鍋とかフライパンとかを洗った。

「テラスのシャワーと浴室のバスタブ、どっちで洗う?」と訊かれたので、外は風が気持ちいいだろうな、と思ってテラスのシャワーを選んだ。

フライパンといっしょにバスタブに入る人生は想定外なので、そっちでも良かったかもしれない。次はそうしよう。


テラスのシャワーでゴシゴシとフライパンを洗う。ステンレスのフライパンや鍋にこびりついてしまった油汚れを落とす、年に一度の大掃除らしい。どうやら重大な任務を任されたようだ。張り切って磨く。


フライパンを抱えて、スポンジでゴシゴシと洗っているうちに、なんだか大きい犬をシャンプーしている気持ちになった。ぶるぶると身震いすることもキャンキャンと吠えることもない、無機質でしずかな犬。

頑固な油汚れをゴシゴシ落としていくうちに「どうしてこの作業を、年に一度しかしないんだろう」と、つよく疑問に思った。

もっと定期的にしたほうが、キレイを手軽に維持できる気がする。


クレンザーをはらりと振りかけ、ステンレスのフライパンをゴシゴシと磨いていく。小学校の掃除時間に振りまいた、手洗い場にあるクレンザーのことを思い出した。あの時シンクに振り撒いたのは、きちんとただしい量だったのだろうか。




無機質なステンレスの犬を、スポンジでゴシゴシと擦ったり、わしゃわしゃと撫でたりする。ちっとも鳴かないけれど、気持ちがいいのかしら。それとも、不快に感じているのかしら。


庭の芝生の上を時折、つよい風が走り抜ける。
夏の草木の匂いに混じって、ステンレスの鉄っぽい匂いが通り過ぎる。


フライパンの底にこびりついた油汚れが、少しずつ消えていく。少しずつ削られ形を変えていく油汚れは、なんだかロシアや中国やオーストラリアに見えてきて、気づけば世界地図のようになった。


神様が世界を終わらせる日もきっと、こんな感じだろうな。


もっと定期的に掃除しておけば良かったと思うのかもしれないし、次からは毎回きちんと手入れしようと思うのかもしれない。ただしい量のクレンザーがわからず、はらりと振りかけては、ゴシゴシと磨く。

掃除時間、クレンザーを勢いよく振り撒いていたのは、声の大きいあの子だった。彼女が時々、自己主張が苦手でいつもしずかにしているクラスメートの靴を隠していたことを、私は知っている。


ステンレスに描かれた世界地図から、大陸が消えていく。島々が消えていく。そして最後にはピカピカの、鏡みたいな底面だけが残った。

明日はお休み。何しよう。
久しぶりにフラットホワイトを飲みに行こうかな。

しゅうまつ、は目の前だ。

今日も生きたね。

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