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小説|ピリオド case5

小説|ピリオド case5

ねえ、最期の日はいつにする?

彼女のその言葉が頭から離れなかった
自分で最期の日を決められると知った日だ

僕たちは同じ誕生日
同じ街に生まれた
当たり前のように一緒に育ち、頭の出来も同じようなものだったから学校もほぼ同じコース、
気づいたら付き合っていて、
まだ若いけどこのまま一緒なら結婚しちゃおうかと話していた頃だった

自分がいつ死ぬかなんて考えたことなかった

ふと、じいちゃんのことが気

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小説|ピリオド case4

小説|ピリオド case4

息子は優秀だった
18歳最短ルートで国の特化試験をパスし職務についている

私は歯科医として働いていたが虫歯にならないキャンディーが発明され、歯医者の需要は激減、給料は減り、歯のメンテナンス営業を兼ねた往診に走り回る生活となった
家族には苦労をかけた
妻は結婚した当時、こんなことになるとは思っていなかっただろう
息子は私が不甲斐ないせいで子供の頃はいじめられていた
しかし私は見て見ぬ振りをして少し

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小説|ピリオド case3

小説|ピリオド case3

誰でも一度は考えたことがあるんだろう
自分が今、いなくなったとしても明日も同じように地球は回っていてみんなにとって変わらない日常が繰り返される、と。

俺が一番死にたいと思っていたのは
小学5年生の時だった。
悪魔の順番はやってきた
いじめはどこにでもあった

いじめられてたやつをたまたま帰り道に見かけて俺はなんと無くそいつがいじめられている理由が気になって声をかけてみた
話していたら全然明るいや

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小説|ピリオド case2

小説|ピリオド case2

「現状は今年のクリスマスを迎えられるかどうかが限界かと思われます、、、しかし、、、」

僕はお母さんと、僕の病気をみてくれているお医者さんの会話を聞いていた
お母さんは何も言わずしばらくして肩をひくひくさせていた

病室に戻るといつもの元気なお母さんがいた

「おかえり。今日のレクレーションはどうだった?」
「七夕の紙芝居がすごく綺麗だったよ。星がすごく綺麗で、僕もあんな絵を書きたいと思った」

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小説|ピリオド case1

小説|ピリオド case1

人生100年時代ーーーー
そう世に広く言われ始めた2020年代から時を経てこの国では人口減少と高寿命化の経済的アンバランスを乗り越えたのち、長すぎる寿命に自ら終止符を打つ権限が与えられるようになった

それは25歳の”第二の成人”に通知によって知らされる
通知を受けて以降、100歳までに申請をすれば自分の寿命を決定することが出来る

•申請は一度だけ
•申請の取り下げは認められない
•申請日の前に

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小説|ラッキーカラーが始まった

小説|ラッキーカラーが始まった

ピストルの音が短くパンッとなって僕は走り始める。

ラッキーカラーがはじまった。

「今年の学年種目はラッキーカラーです。」
担任の伊盧夫先生がそう言ってルール説明を始めた。僕たちは当然、あれこれと文句を言うのだ。
ラッキーカラーなんて種目名がすでにださいし、くじに左右される徒競争なんてもはや練習の意味があるのだろうか。これで勝ち負けが決まるなんて、なんて情けないんだ。

 「よーい、どん!」

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小説|なまえ-ひとかけ

小説|なまえ-ひとかけ

あらすじ
——-存在していることの証明になる名前
誰もが当たり前に口にする名前、自分であるという自覚
ある葡萄畑で起こる不思議な事件
“正しい”「守り方」とは——

さらさらとその蔓は降りてきて私に語りかけた。
その雫をごくりと飲み込むと目に見えるもの全てがこれまでより色鮮やかで体は軽く、初めて見た世界のようだった。

昔のことである。十歳かその辺の歳だったと思う。
わしには好きな娘がおって、その

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小説|なまえ-ふたかけ

小説|なまえ-ふたかけ

***杏果

「私は葡萄畑のお手伝いが結構好きです。
ワインの味はよくわからないけれど、秋になるとその身いっぱいに甘い蜜を抱えた葡萄が大好きで、ワイナリーの娘にしては珍しく飽きもせずに葡萄を眺め、収穫の時期になれば大喜びでその粒たちを頬張ります。
中学生になった今も、部活には入らないで好んで家の手伝いをします。
お父さんは学生を楽しめっていうけど、それなりに楽しんでいるし、葡萄畑は私の憩いの場所

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小説|なまえ-みかけ

小説|なまえ-みかけ

***幸来

おじいちゃんが言っていた話はずっと覚えている。病院のベッドでどうして私にその話を残してくれたのだろう。
おじいちゃんは遠いところに行ってしまった。
お見舞いに行くといつも遠い目をしていて、おじいちゃんはそこへ連れて行かれてしまったのかもしれない。

昔、葡萄畑で不思議なことがあったのだという。
おじいちゃんと幼馴染が遊んでいた時に今の桜広場と葡萄畑の間に謎の穴ができたという。

そこ

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小説|なまえ-よんかけ

小説|なまえ-よんかけ

***杏果

やめて!!!!
声すら出なかった。
足も一歩も動かない。
お母さんが鈴菜ちゃんを抱きしめているけど、そこは時が止まっているみたいだ。
直感でダメだと思った。
お願い、私のお母さんから離れて。
鈴菜ちゃんがこっちに気づいてくる。
取り残されたお母さんはその場にパタリと倒れてしまう。こわい。この子は、誰?鈴菜ちゃんは、どこから来たの?

「ごちそうさまでした。お邪魔しました。」

その場

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小説|なまえ-ごかけ

小説|なまえ-ごかけ

落ちてはいなかった。多分。私は今、橘鈴菜の前にいる。
「鈴菜ちゃん、私はあなたを探していたけどまた会えるとは思っていなかった。」
「ごめん杏果ちゃん、私、あなたのお母さんを殺した。それはあなたが感じた通り本当なの。」

こんな時、なんて話を進めたらいいんだろう。確かにあの時私はその現場を目撃し、震え、憎み、そしてそれがみんなの中ではなかったことになっていることに憤慨して、証明できず、自分を責め、幻

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小説|なまえ-ろっかけ

小説|なまえ-ろっかけ

***樹

鈴菜は10個下の妹だ。今年13歳になる。と言っても去年父が再婚した相手の連れ子だった。家族の話を人にすることはあまりなかったが 橘鈴菜という名前を聞いて思わず口を滑らせた。

俺はもう家を出て一人暮らしをしているからスズと話をすることは少なかったがそれでも可愛い妹だった。ずっと前から知っていたような。守ってあげないといけない儚さのようなものを纏っている少女だった。

そしてその命も本当

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小説|なまえ-ななかけ【おわり】

小説|なまえ-ななかけ【おわり】

***杏果

 樹先輩の了承も得たことだし、もうやることは決まっている、ブルーの実がなった時のための実験の準備と、その後の論文のシナリオを作っておく必要がある。
やることが決まった途端、報告書や準備やらで毎日が秒で流れ去っていく。準備は間に合うだろうか。時間はあると思っていたのになんだか心配になってきた。
輪太郎と橘鈴菜のことで揉めたあと、気まずいと思っていたのに、輪太郎は何食わぬ顔で毎度うちのリ

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