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王国のあさ

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虐待の実体験を下敷きにしたフィクションです。 ココロを惨殺されたコドモは、大人になってすべてに絶望した時どうするのか。自分自身のシミュレーションでもあります。
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#実話ベース

王国のあさ(7)完

王国のあさ(7)完

 大阪から飛行機で、妹が帰省してきました。
 つい数か月前もあったばかりなのに、なんだかしょっちゅう帰ってくるみたい。
 飛行機代だって、大変なのに。
 そう言ったら、アゲハは怒りました。
「…そんなの、私の勝手でしょ。いつ帰って、どれだけ長く実家にいたって。お姉ちゃんに言われる筋合い、ないんだからね」
 私は口をつぐみます。飛行機代を出しているのは、わたしではありませんから。
「…ホントにさ、知

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王国のあさ(6)

王国のあさ(6)

 ――ぶうらり、ぶらり。宙ぶらりん…。
 …逆さに吊るされた、てるてる坊主が揺れています。
 誰かが、雨ごいをしているのでしょうか…。
 その子は体育が苦手で、明日の運動会が中止になってほしいと思っているのかもしれません。一見、ほほえましい光景に思えます。
 ―――ぶうらり、ぶらり…。
 てるてる坊主が、くるりと向きを変えます。逆さに吊るされた、顔がみえます。…それは、わたし、と誰かが言った…。

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王国のあさ(4)

王国のあさ(4)

 わたしはいくぶん、背がのびました。
 そして、だんだん口数がすくなくなりました。
 いえることが、すくないからです。
 口にだしたとたん、禁止される内容だと気付かされることが、多すぎるのです。
 それなら、黙っていたほうが楽なのです。
 まわりには、口をきかない変なヒトだと思われても。
 そうなると人間のオトモダチはできなくて、わたしは動物とばかり親しくしてしました。
 …いいえ。
 動物だって

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王国のあさ(3)

王国のあさ(3)

 うちに帰ったら、わたしがだめな子だからわるいんだって。
 お父さんお母さん、二人にいわれる。
 妹もたぶん、そうおもってる。
 わたしには、いていい場所がないの。
 どこにいっても、じゃまみたい。
 もう、図書館に住んじゃいたいの。
 本を読んでも、しかられないもの。逆にほめてもらえるなんて、天国みたい。
 図書館の人、やさしいんだ。
 同じ組の男の子の、お母さんだったの。
 しらなかった。
 

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王国のあさ(2)

王国のあさ(2)

 わたしの家は、鉄工場をしています。
 ギイギイとおそろしげな音をたてて、毎日青や赤の火花を散らしています。
 きれいだけど、じっとみてはいけません。
 眼球が、やけどをしてしまうから。
 父は、お面をつけています。
 ロボットみたいなお面とつなぎの服や手袋は、父を月面探査者みたいにみせています。
 知っていますか。
 お面のガラスのところは、黒いガラスがはまっているんです。
 でも、よくみると黒

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王国のあさ(1)

王国のあさ(1)

 …それは、王国。
 かつて夢見し者の、永遠の楽園。
 

 けふのうちに
 とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
 うすあかくいつそう陰惨な骸から
 血のりはびちよびちよふつてくる
 青い葡萄のもやうのついた
 これらふたつのかけた陶椀に
 おまへがたべるあつものをとらうとして
 わたくしはまがつたはうちやうをふるひ
 ちちははのざうもつを掻きだしたのだ

 ああ 
 わたくしのけなげないも

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