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幸福を招く美しきダイナモンド

『ダイなも〜ん!!』

のび太はしずかが好きだったし、ドラえもんの良き理解者でもあった。

だが今はしずかよりも美しく、ドラえよりも機能的でエコロジックな機械仕掛けに夢中だった。

それは愛用の自転車に生まれつき付いていたダイナモ式ヘッドライトだ。

ほんの2,3年前まで、のび太はドラえから譲り受けたスモールライトを愛車のクロスバイクのハンドルバーに取り付けていたが、しょっちゅう充電をし忘れていた為、ネット以前の時代ならもう少し心に余裕があったであろう隣人の薦めでダイナモ式のライトに鞍替えしたのだった。

ライト兄弟の手によって発明された自転車という乗り物であるが、長い歴史を経て今日ではさまざまなデザインの自転車に乗りながら皆むしゃくしゃしてる。

そんなむしゃくしゃな気持ちをエネルギーとして応用出来ないものか試したところ、出来杉だった。

だからそう、オレにはもうドラえもんなんて必要ないのかも知れない、とのび太は言いかけたが、悪人に徹しきれない彼は沈黙を守りながらドラえのお腹をそっと叩いた。

するとポケットの中からビスケットが一枚、また一枚と、しずかに、それでいながら力強いクランチサウンドを奏でながらこぼれ落ちた…

と同時にのび太の目からウロコがこぼれ始めた。

「とうとう化けの皮が剥がれましたね、のび太さん…」

しずかがそう言う間もなくのび太はドラえもんのお腹からポケットを引っぺがした。

「あ(りがとうございま)した!!」

ポケットに一礼をし、振り返りながらドラえもんに向かって一言こう言った。「確かにお前は美しい。だがもう用済みだ」

ドラえもんには耳が無い。彼は聴こえないフリをして「何か用かね?」と聞き返す。

「ようするにお前はなかなか無駄の少ないデザインだってこと。機能美があった、それ以上でも以下でもなく、俺にとってのお前は知り合い以上友達未満ということだ。」

のびそう言うとポッケからHUNTER×HUNTERのコミック取り出す。そしてのびまた言う

「最近の富樫先生は奇をてらって奇抜でグロテスクな絵を描くけどありゃだめだよな…機能美ってやつに欠ける」

「それネットじゃなくて本人に直接言えるか?」

「そんな度胸無いからお前を雇ってるんだよね」

「うむ」

そんなやり取りをしてるうちにしずかは帰宅していた。

「ダイナモってチャリの回転を再利用しててすげえ機能美で溢れてないか?」

「わかる。正直しずかより美しいよな」

「しずけっこう腹黒いしな」

「うむ。」

「このスモールライトももう要らねえや。充電めんどくせ」

「ぼくは…?」

「お前は美しいよ…青いし」

「ビッグ・ブルーって呼んでくれる…?」

「うむ。」

この日からのび太はクロスバイクにダイナモ式のブルーライトを付けはじめ、Uber Eatsの配達員としておびただしい業績を上げることになる。そして「やっぱりしずかも好きだ」と言ってしずかちゃんと結婚をして、出来杉くんとは少し疎遠になっていたけど最近また連絡を取りはじめて、みんなで仲良く暮らしてる。よかったね、のび太。そしてドラえもん、君のことはあまり可愛いとは思わなかったけどどうもありがとう。いつまでも幸せにね…

解説

車にもバイクにも飽きた私の愛車は自転車、チャリである。チャリは経済的だし、免許も要らずとにかく気軽だ。もうステータスの為に車買うなんて時代でもなく、一方通行の多い首都圏ではチャリは最高の乗り物である。だが一番好きなクロスバイクにはライトが付いてないのが多い。バッテリー式のライトかダイナモライトか迷った結果、ダイナモは美しいという結論に至った。同様にカゴもダサいけど美しい、理にかなったある種の美しさがあるという判決に至った。これからファッションデザイナーを目指す人々にはぜひ機能美というものを追求していってもらいたい。必要のない無駄なファスナーとかは絶対に付けないでもらいたい。音楽もそうで、無駄な音は全部無くして機能美を追求していってもらいたい。ギターの開放弦を利用するストロークが好きだ。美しいし、永遠みたいなものを感じる。

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