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黄色いワンピースの女性。

大学を除籍になりハローワークに行った。
よく分からないまま仕事を探しにハローワークに行った。たしか24歳のときだったと思う。

ハローワークに行くと、高齢者が多い。
おじいさん、おばあさんの中に20代の私が混ざり、パソコンをカチカチやって仕事を探す。

「こんなところで仕事探しかぁ、なんだかなぁ」

とは思わなかった。
むしろ、ここからだ、と思った。



なんやかんや、広告代理店から内定が出た。小規模の昔ながらの広告代理店。新聞広告の営業の仕事である。すぐに働き始める。



毎日朝から電話をかけた。



電話帳をドンと机の上に置いて、企業の社長たちに電話をかけた。受付突破のマル秘ノウハウはこのときに学んだ。電話一本でやる仕事。


とにかくお願いをした。

「新聞に広告を出してほしい」と。


毎日200件は電話した。

電話口の向こうで怒る人もいた。当の私も、この仕事が社会の何を解決しているのか、意味を見出せないでいた。

1日200件の電話を毎日やった。
これを約3年やった。

24歳から27歳にかけて。

信じられない。今ならムリ。



サザエさんを見て「明日は月曜日か」と憂鬱になる社会人の気持ちがよくわかった。私も例に漏れず、平日の仕事は休日のための暇つぶしだった。とにかく憂鬱だった。

3連休が近づくとウキウキしたし、
GWの最終日は胃がキリキリした。



大通公園の木々が緑でいっぱいになったころ、
歩くと汗ばむような陽気のころ、

「今日も憂鬱な仕事だ」と思いながら、
早朝の8時台に大通公園を歩いていた。



大通公園に面したタワーマンションがある。


地上、30階建のマンション。
外観は茶色でガラス張り。
ドドンとそびえ立っている。


いつもこのマンションの前を通っていた。大通公園に面した地上30階建のタワーマンション。札幌の富の象徴っぽさを感じる。



タワーマンション。


20代中盤の人間からすれば、
天竺やガンダーラ並みに遠い世界観。

どんな人がここに住むんだろう。


大学を除籍になり、ハローワークに行って仕事を探した。さして意味もないであろう仕事をしていた。「いやだいやだ」と思いながら、それが仕事だから1日200件の電話をしていた。



朝8時。



やつれた顔をしながら大通公園を歩く。

ふと、タワーマンションを見上げた。


最上階の部屋のベランダに人影が見えた。
黄色いワンピースを着た女性が立っている。


見るからに富裕層ブルジョワジー


早朝、タワーマンションの最上階、そのベランダに黄色いワンピースを着た女性。朝の陽の光をあびて、ワンピースは風でたなびいている。


私が「マジかよ」と思ってアホヅラで見上げていると、その黄色いワンピースの女性は、両腕をググッと上にあげて「ふぁ〜」っと伸びをしているではないか。ゆっくりと「ヤッター」のポーズをしていると想像してもらえばいい。


「ええ!?」と思いながら、私がその人を凝視していると次は、ベランダに腕をのせて大通公園をじ〜〜っと見渡しているではないか。優雅に。


なんだろう。



一軍選手のような余裕がある。


「あ、今日は二軍が試合やってるんだね。どんな感じかなぁ〜」

こんな余裕。



漫画『HUNTER×HUNTER』に出てくるネフェルピトーのような余裕がある。

「凡夫は大変だにゃ〜」

こんな余裕。



……


私は……


「くそったれめ」と思って会社に行った。


悟空がフリーザと戦っているときに、必殺技が効かず「くそったれめ」というシーンがある。


こんな気分だった。



で、私はこの会社に勤めているときに、
本当にクソを漏らすことになる。


なにかここから話が展開するのかと思いきや、なんにも起こらない。これが現実。



ほんと、くそったれだよ。

〈あとがき〉
あこがれのタワーマンションです。大通公園を歩いて、このマンションの前を通るたびに、あのときの光景を思い出します。ほんと「くそったれめ」と思ったんです。会社に行って泣きながら電話をかけました。つらかったです。今日もありがとうございました。

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