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「#最後の一行小説大賞」の最終結果を発表します。

2024年3月11日〜3月24日に開催した「最後の一行小説大賞」には、合計300作品のご応募をいただいた。ありがとうございます。昨日、北海道札幌市内のとある料亭で開催された「最後の一行小説大賞審査会」にて、

・最優秀作品賞(1本)
・優秀作品賞(3本)

が決定したので、一次選考通過作品とあわせて、ここに発表したいと思う。

あらためて、たくさんの作品を投稿し、このコンテストを盛り上げていただいたみなさま、どうもありがとうございました。


-最後の一行小説大賞について

<規定>
「遺言」というタイトルの架空小説の最後の一行、一文っぽいやつを送るだけ。文字数に制限なし。世間一般における「一行」「一文」の概念に合致するものであれば形式不問。

<遺言の書き出し>
以下の書き出しで始まる架空小説の最後の一行っぽい文章を送ってください。

<選考方法>
・応募作品すべてを審査委員会でチェックし一次選考を実施
・一次選考を通過した33作品から最終選考を実施
・応募者の名前等は一切確認せず選考
・審査会の様子は音声収録済み(最下部にリンクあり)
※審査会は委員の仕事の都合で急遽2名で実施

<選考基準>
・そもそも読みたくなるか
・最後の一行っぽさを感じるか
・ありきたりな表現ではないか否か

〈審査員〉
・イトーダーキ(審査委員長)
・新聞社のリアル友だち(札幌在住)
・出版社のリアル友だち(札幌在住)
・広告代理店のリアル友だち(札幌在住)



受賞作品

※(カッコ内)はクリエイター名
※クリエイター名はすべて敬称略
※クリエイター名はエントリーネームまま


最優秀作品賞

蝉の抜け殻はまだその木にしがみついている。
はまコラ!

選評:最後の一行小説大賞選考委員会
時間の流れが感じられつつ、カメラが蝉の抜け殻にズームアップしていくかのようなすっきりとした情景描写が描かれている。多くの応募者が冒頭の書き出しの「桜」などに基づいた作品を送っていただく中で「蝉の抜け殻」を主題にした作品はこれが唯一だった。審査会では「主題から離れすぎなのでは?」という声もあがる中、しがみついているという秀逸な表現と「その木」が桜を表している可能性を考慮し、この作品を最優秀作品として選出した。



優秀作品賞

あのマンホールは、今もそこにある。
ヤス

選評:最後の一行小説大賞選考委員会
「マンホール」というワードチョイスが印象に残る作品。季節や時間の移り変わりを感じることはないが、作中で「マンホール」が果たした役割がそこはかとなく匂わされている。審査会では「マンホールが何を表すのか」「具体的にどこにあるマンホールなのか」まで検討がおこなわれたが、主題からの絶妙な離れ方、文章のシンプルさとパワーに押されて優秀作品賞に選出した。



優秀作品賞

試しに紙を擦ってみたが、なんの香りもしなかった。
ゆきぽこ

選評:最後の一行小説大賞選考委員会
審査会で委員をつとめた一人が「全作品の中で選ぶとしたらダントツでこれ」と推した作品。紙(=遺言? 桜?)を擦ってみたものの、香りは当然するはずもなく、その感想を述べるにとどまるほんわかとした最後の一行である。多くの応募作品が壮大な締め方を目指す中、この文章の絶妙な抜け感、脱力感こそが最優秀作品賞にふさわしいという声があがった。人物のちょっととぼけた姿が浮かぶ秀逸な作品ということで選出。



優秀作品賞

埋められた彼女を掘り起こし、しわしわになったそれにゆっくりと水を与え、ときどき三人でお茶会をしている。
ヤス

選評:最後の一行小説大賞選考委員会
キャッチーなリズムと一見すると意味がよくわからない文章であるものの、審査会では審査委員の一人菊池さんの意見が核心をついていた。掘り起こしているのは「記憶」なのではないだろうか? という考察である。最後の一行としてはやや長い印象があるものの、文章のリズム、「しわしわ」という隠喩的表現、読後感等を総合的に加味して優秀作品賞に選出した。


一次選考突破作品(30作品)

※順不同
太字は最終選考選出9作品
※(カッコ内)はクリエイター名
※クリエイター名は敬称略


・女たちの人生は、まだ始まっていない。(みやもん

・三足の赤い纏足靴は、枯葉に埋もれて色褪せ、刺繍の金色だけが鮮やかに残った。(仮名子

・この桜も、どうせ散る。(潮永 三七萌

・桜はまた満開になった。(かや)

・散らない桜なんて、ないのだから。(u1

・結局、わたしはずっと、明日死なないために生きていた。(おーかわ⭐️

・ここまで書いて、破って捨てた。はやぶさ

・全てを知るあの桜は、今年も淡い桃色の花びらを散らし続けている。(猿荻レオン

・しんしんと降り積もる白い雪だけが、女たちを覚えている。(猿荻レオン

・それでも花は咲き、そして散っていく。(猿荻レオン

・空を見上げると、抜けるような青空に緑の葉が揺らめいていた。(猿荻レオン

・今年も桜は満開である。さやこ

・彼は一瞬息を飲み、その驚きを肯定するかのように、遠くで汽笛が鳴った。(みかさ名月

・一つ言えることは、その遺言はもう必要ない。(みかさ名月

・「で、結局なんて書いてあったの?」(土竜

私が姉のパンツを履き続けていることは、 誰も知らないままだ。アークン

・桜のじゅうたんがさよならに舞った。(たまちゃん

・言葉は宙にほどけて、誰にも触れることはなかった。(一富士

・破り捨てた遺言書は、桜の花びらのような形をしていた。(一富士

・彼女が書き換えたことを、誰も知らない。(GongC Walter)

・桜を嫌いになった理由を、これ以上語るつもりはない。(コニシ木の子

・それを説明するのに、小説という手法を選択したことをただ詫びたかった。(コニシ木の子

・つまるところ、誰かの愛が欲しかった。(コニシ木の子

・在った命も、在るはずだった命も、散った桜と一緒に横たわっている。(なゆた

・夕枯れの街路樹はまた、誰かの命を始めようと春を待っている。(なゆた

・フランスパンをバゲットだなんて、死んでも呼びたくない。(なゆた

うす汚れた犬が一通の白い封筒をくわえてこの町を走り去っていったことに気づく者は誰ひとりいなかった。ぼたん

・ニュースのアナウンサーが一人目の名前を読み上げる前に、僕はチャンネルを変えた。(正社員パンプキン@ノールックで日本酒飲む人)

・ねぇ。天国って、禁煙?(桜 大門之丞)

・不眠症の月は、今日も私を睨みつけている。(桜 大門之丞)

選評:最後の一行小説大賞選考委員会
「遺言」というタイトル「純白の桜」「三人の女」というお題に対して、さまざまな「最後の一行」作品が届いた。正直言ってどれも優れた作品で甲乙つけがたく、おそらく読むタイミングが変わったり、1日後に見ればどれが大賞になってもおかしくない作品たちである。審査委員会としては「どれも優れたセンスで私たちには書けない」という意見が多数を占めていた。心よりの敬意と感謝をお伝えしたい。


審査員特別賞

なんですってぇ!!? 私達が「ミス三人集まれば文殊の知恵2025」ですってえ!!?(ぽくぷう)

選評:最後の一行小説大賞選考委員会
全応募作品のうち、最も意味がわからなかった。しかしその勢いと謎のワードチョイスに審査委員一同愕然としたので急遽特別賞として選出。本来ならば一次選考も通過していない作品を掲載することは控えたほうがいい気がするが、あえてここに掲載したい。



審査委員会からの総評

審査委員会のメンバーはプロでもなんでもないのに、応募作品を審査する側に回ってしまい申し訳ありません、という点を先に述べたいです。今回、応募作品数はちょうど300作品、応募者数はおよそ90名の方々にご応募いただきました。本当にすばらしい力作揃いでした。審査の基準も明確ではなく、結果をご覧になった方からすると全方位に納得感を得られるものだったかが心配です。それでも私を含め、各審査委員が多くの時間をとって審査に臨んだという点を書き残させていただきます。最後になりますが、作品を投稿してくださったみなさま、本企画への感想をお寄せくださったみなさま、審査員のお三方に、心より感謝申し上げます。


審査会の様子(音声)

<内容>
00:00 オープニングと審査概要
02:15 審査員菊池さんの紹介
04:48 お題の書き出しと菊池さんの読書
08:33 一次選考突破33作品の寸評
01:08:07 審査員特別賞
01:17:20 ここから最終選考9作品
01:23:38 最優秀作品賞の選出審査
01:32:25 最優秀作品賞の決定
01:35:08 応募者の名前を初めて確認
01:37:08 実はこの応募作品がスキを語ろう

<あとがき>
本当にたくさんのご応募ありがとうございました。審査会(音声配信)の中でも話していますが、作品を評価するのってめちゃくちゃ難しいですね。今回の場合はある種キャッチコピーとも似ているところがあるので、時間はかかったものの評価難度はそれほど高くはなかった気がします。芥川賞とかマジでやばいんだろうなぁと気づきました。今日も最後までありがとうございました。

【関連】今回の最優秀作品賞の方のnoteです


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