ぼたん

いぶくろ聖志さんの、今も昔も変わらない人を惹きつける文章とお人柄のファンです。 Tw…

ぼたん

いぶくろ聖志さんの、今も昔も変わらない人を惹きつける文章とお人柄のファンです。 Twitterにあげた某和楽器なバンドの創作物語や気ままに綴ったお話を、頻度激低でするかもしれません。

最近の記事

「空の極みへ」から生まれた小さなお話⑥

長い時間だったのか、ほんの数秒だったのか。 閃光が収まり目を開けた時、隣にいたはずの少年の姿はなかった。周りを見回しても、あの小さな背中はどこにもない。 ふと視線を夜空に向けると、やはり幼い少年はいなかった。 その代わり、人間で言えば17~18歳位の青年が逞しい背をこちらに向け、大きな翼をはためかせ宙に浮いていた。 何より目を奪われたのは、さっきまで隣で泣いていた竜人の皇子の背から生えた翼が、圧倒される程に紅く染まっている事だった。 「あれは……まさか赤竜!?」 漆黒の翼を持

    • 「空の極みへ」から生まれた小さなお話⑤

      【絆の丘】と名付けられた小高い丘。 美しい景色と星空が見られることで民たちの憩いの場となっているが、今夜は小さく丸まる背中がひとつ、ぽつんと見えるだけだった。 短く刈られた草を踏みしめ、その背中へ歩み寄る。足音に気づいた背中がピクリと動いた。 「……来るなよ」 その言葉に答えることなく、両手で茶色い紙袋を抱えたコトは、声の主の横に並んで座った。 「俺に構ったってなんもいいことないだろ。お前ももう俺のお守りなんか…」 「シン」 強い口調とは裏腹に悲しげな瞳を空へ向けていた少年

      • 「空の極みへ」から生まれた小さなお話④

        (さて、どうしたものか…) ボンヤリしながら来た道を戻っていると、店から二人の客が出ていくのが見えた。 王宮勤めが羽織る長いローブを引きずって歩く背の低い者と、戦場にいるような頑丈な鎧を身につけた厳つい体格の者。見た目からして前者が蛇の、後者が狼の亜人だろう。どちらも高い位に即いている種族だが、狡猾で残忍な性格の者が多い。 (あんな客、今まで一度も来たことがないのに) 何か嫌な予感がした。意図して歩みが早くなる。 少しでも早くシンの元に帰りたくて、裏口ではなく客用の出入口のド

        • 「空の極みへ」から生まれた小さなお話③

          「い、いらっしゃい…ませぇ…」 「聞こえませんよ。もっと大きな声で」 「いらっ……なぁ、なんでこうなるんだよぉ」 心地よい陽射しが指す昼下がり。 ふてくされた顔の皇子は、白いシャツに黒いショート丈のズボンを履き、腰から膝下位までの黒いエプロンといつもの帽子を身につけて珈琲屋KOTOの店内にいた。 先日コトは『自分を変えたいのなら10日後にまたこの店に来てください』と伝え、シンを見送った。そして今朝、決意と不安の入り交じった顔でやってきた彼の服を着せ替え人形のように手際よく取り

        「空の極みへ」から生まれた小さなお話⑥

          「空の極みへ」から生まれた小さなお話②

          「わぁ」 店内に招き入れられた少年は思わず感嘆した。 店いっぱいに満ちた豆の香りもさることながら、アンティークショップに置かれている様な年代物のコーヒーカップや観葉植物の鉢からこそっと顔を出すカエルの置物・表装が豪奢な古びた分厚い洋書など、思わず目を引く品々が程よく置かれていた。きっと夕方には、壁にかけられたランプたちに温かな灯りが灯るのだろう。 「好きなところに座っててください」 コトは木のカウンターの向こう側へ行ってしまったので、少年は躊躇いながら日当たりのよい窓際の丸テ

          「空の極みへ」から生まれた小さなお話②

          「空の極みへ」から生まれた小さなお話①

          いつの世にも落ちこぼれと言われる者はいて 彼らは待っているのかもしれない 真の姿を厚く覆い隠す鎧を外してくれる ほんのちょっとしたきっかけを 『ドラ〇エのちょっと栄えた城下町のようだ』と旅の商人が評する小国・スウォナーレ。その中心都市であるシエルには白亜の宮殿が置かれ、人と亜人それぞれの王族が手を携え共に暮らしている。 人の形をした、人には無い特徴を持つ者・亜人。時には領地を、時には資源を求めて攻め込む亜人たちと幾度も繰り広げられた戦いを経て、この土地は世界に類を見ない、人

          「空の極みへ」から生まれた小さなお話①

          「玄冬」と、それに付随する小さな物語

          色鮮やかに見えていた世界から 少しずつ色が消えていくかのように 生命力あふれた世界から 時は移ろいだ あの世へ旅立つ日が近づいた者へ この世に貴女が残した全てを 忘れないと誓った 隠世へ渡る時が迫った者へ 現世で私と過ごした日々を 覚えていてと願った いつかまた あなたに会いたい 私のこの 灰色に満ちた世界を 色鮮やかに染めてくれる あなたに ―――――――――――――――――――― 異様な光景だった 参列者の服や鯨幕に象徴

          「玄冬」と、それに付随する小さな物語

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          「ついてくるな」 群れることを嫌った。 誰かと馴れ合うことを拒み、常に一人でいることを望んだ。 その日一日を己の心の向くままに歩き、孤高の日々の中でふと思い浮かんだ調べを愛用の六弦琴(ギター)にのせて奏でていられるだけでよかった。 なのに。 「いつまでついてくるんだ」 世界でも珍しい、砂の大地の空に浮かぶという極光(オーロラ)。 その噂を耳にして、愛用の六弦琴を背負い、羅針盤と星座を頼りに辿り着いたのは小さなオアシスだった。 砂の道に延々と続く一組の足跡が、歩いた距離の長