スクリーンショット_2020-01-23_23

企業分析 | 東宝株式会社

本日は「東宝シネマ」でお馴染みの東宝株式会社を分析していこうと思います。東宝は阪急系の映画会社で、創業者は宝塚歌劇団を作ったことで有名な日本の実業家「小林一三」です。

スクリーンショット 2020-01-22 21.22.16

企業概要

設立:1932年8月
本社:東京千代田区
資本金:10,355,847,788円
従業員数:当社単体 389人 グループ 3,179人

<事業概要>
・映画事業
・演劇事業
・不動産事業

東証一部上場

4P分析

スクリーンショット 2020-01-22 21.29.56

Product(プロダクト:製品)
東宝は大きく分けて「映画事業」「演劇事業」「不動産事業」の3事業を展開しています。映画事業の中には映画(共同)制作と配給と興行があります。よく耳にする「興行収入」というのは映画館の入場料金収入のことで、映画館はこの興行収入から配給会社に対して、決められた映画上映料金(一般的には50%ほど)を支払っています。東宝は「千と千尋の神隠し」や「君の名は」「天気の子」などを配給しており、歴代興行収入ランキングを独占しています。
(歴代興行収入ランキング)

演劇事業では演劇の企画から制作・公演までを行っています。東宝芸能には100名ほどの俳優が所属しています。
(東宝芸能タレント一覧)

不動産事業では、商業ビル、シネマ、マンション、店舗、事務所を含め全国の好立地に物件を保有しており、所有物件は売却せず、再開発する方針を東宝は貫いています。不動産の含み益は全上場会社でも8位にランクインするほど、映画事業以外にも「不動産事業」という強力な基盤があります。

スクリーンショット 2020-01-22 22.28.57

「東京に大劇場を作って、安く、面白く、家庭本位に、清い、朗らかな、演劇をご覧にいれたい」。いまから遡ること87年、原点は東宝グループ創業者の小林一三が描いた壮大な夢「有楽町アミューズメント・センター」構想がありました。上質なエンターテインメントを広くみなさまにお届けしたいという思い、そして“点=劇場・映画館”を“面=街”として捉える発想は、当社に受け継がれてきた「DNA」のようなものです。
(東宝株式会社HPより)

小林一三の想い・戦略を考えると、東宝の事業は「地域と文化」を育てる事業と考えても過言ではありませんね。

Price(プライス:価格)
映画館のチケット料金は、年齢や時間帯で変動しますが、概ね1000円〜2000円の間です。TOHOシネマズでは、上映開始時間が20時以降の作品について1作品1,300円で鑑賞することができるそうです。
一方、日本の映画チケット料金は世界に比べて入場料金が高いとのこと。

スクリーンショット 2020-01-22 22.52.40

主要各国平均入場料金
(出所)時事映画通信社「映画年鑑 2014」を基にみずほ銀行産業調査部作成
(注)2013 年 12 月 30 日時点の公示仲値   105.40 円/US ドルにて換算

Place(プレイス:流通)
数多くのシネマ、劇場、不動産を所有しています。
東宝は全国で70サイト600スクリーンを運営しています。

Promotion(プロモーション:販売促進)
東宝の大株主には「フジメディアホールディングス」や「TBSテレビ」がいることから、映画放映の際には、地上波TV で番宣・プロモーションを行うことが多いです。ちなみに、東映の大株主には「テレビ朝日ホールディングス」や「日本テレビ放映網」もいます。

PEST分析

スクリーンショット 2020-01-22 23.55.15

Politics/Political(政治面)
クールジャパン戦略は、日本のアニメ、マンガ、ゲーム等のコンテンツ、ファッション、食、伝統文化、デザイン、ロボットや環境技術などで世界の「共感」を得ることを通じ、日本のブランド力を高めるとともに、日本への愛情を有する外国人(日本ファン)を増やすことで、日本のソフトパワーを強化することを目指しており、今後も政府主導であらゆる環境整備が行われていくことが考えられます。

また、近年「地方創生」という言葉をよく耳にしますが、シネマツーリズムという、映画やアニメの舞台となったロケ地や、原作の舞台をめぐる旅も活発化しており、今後も益々「映画×地方創生」が盛り上がっていくでしょう。

一方、働き方改革によって余暇時間が増えることも映画・演劇産業に影響を与えることでしょう。大和証券の調査では、労働時間が1%削減されると、大半の余暇時間は 増加すると算出しています。働き方改革で今後労働時間が短縮されていくと、その時間で「映画館に行く」人も増えていくのではないでしょうか。

スクリーンショット 2020-01-23 0.05.41

(大和総研調査季報2017)

Economy/Economical(経済面)
2018年国内の映画興行収入は2225億円で前年度比95%であるが、ここ3年は増加傾向です。近年は1つの施設に複数のスクリーンを有するシネマコンプレックス(シネコン)が普及していることから、スクリーン数は2013年から増加傾向にあります。一方で、テレビやスマートフォンの普及により1958年以降、映画館の入場者数は急速に下降しています。

スクリーンショット 2020-01-23 22.00.42

(みずほ銀行 産業調査部)
1958年の入場者数は10億人超え、2010は2億弱とし、国内1人当たりの平均入場回数を考えると1958年は10億/人口約9000万人=11回、2010年は2億/1億2800万=1.5回と考えることができ、年間に映画館に行く回数も大きく減っていることがわかります。

Society/Social/Cultural(社会/文化/ライフスタイル面)
大画面テレビやスマートフォンの普及、ネットフリックスやアマゾンプライム、Huluなどのサービスの普及は大きな影響を与えていると考えることができます。その他にも、余暇時間を埋めるサービスやコトは増えているため、時間の奪い合いの競争は益々激しくなりそうです。
一方、「カメラを止めるな」のようにSNSをきっかけに話題になる作品や、映画やアニメの舞台となったロケ地や、原作の舞台をめぐる旅も活発化しており、映画とインターネットとの関係は今後も重要なポイントになるでしょう。

Technology/Technological(技術面)
3Dや4DXに対応する映画館も増えてきています。4DXは映画のシーンにマッチした形でシートが動いたり、水が降ったり、風が吹きつけたりと体全体で感じる映画上映システムです。

チケット予約に関してはインターネット予約が普及してきており、座席を事前に予約することでキャッシュレスで映画を鑑賞することができています。

3C分析

スクリーンショット 2020-01-23 22.43.00

ちなみに、東映との数値的な比較は以下になります。

売上:2462億(東宝)、1500億(東映)
スクリーン数:577(東宝)、200(東映)
営業利益:335億(東宝)、229億(東映)

東宝が圧倒的なことがわかります。

ただ、「余暇時間の奪い合い」といった観点で考えると、競合はたくさん存在します。これからも東宝のコンテンツを日本のみならず、世界にどう輩出し、映画館への来場を促すかが需要なテーマになりそうです。

SWOT分析

スクリーンショット 2020-01-23 22.56.15

強み(Strength)
国内での圧倒的シェアは東宝の大きな強みです。
また不動産事業の安定性、事業基盤も大きな強みとなっています。
スクリーン数を活かして、優良コンテンツを展開していく今後の動きに注目です。

弱み(Weakness)
今後、世界を視野に入れたコンテンツ展開は重要なテーマとなります。特に日本の「アニメ作品」を世界に展開していけるかが鍵になりそうです。

機会(Opportunity)
コト消費の盛り上がりや、働き方改革による余暇時間の増加は映画産業のビジネス機会になりそうです。またSNSの普及による「映画の口コミ」増加は映画鑑賞のきっかけになることは間違いなく、SNSでの拡散を前提とした映画コンテンツの企画やプロモーション設計をしていくことが求められるでしょう。

脅威(Threat)
国内人口減少は避けられません。年に複数回映画館を訪れるリピーター客を増やす戦略が求められます。また、大型テレビの普及や動画メディアの普及により「映画館」にいくことの価値が薄れていきます。付加価値を再定義して、お客の行動を創りだす必要があります。また海外市場においては、米国映画及び自国映画が好まれており、アジア映画という枠組みでは韓国や中国等との競争が激しく、アニメを中心に日本のコンテンツ力が試されます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

東宝は国内映画業界No.1であり、2番手の東映にも圧倒的差を付けていることがわかりました。(ちなみに設立は1930年代でほとんど同じである。)
ここまで違いがでたのは当初から掲げている戦略の違いがあるのではないでしょうか?

東宝は創設者小林一三の当初の戦略が強い会社であり、「東京に大劇場を作って、安く、面白く、家庭本位に、清い、朗らかな、演劇をご覧にいれたい」といった野望を考えると、街づくりや不動産といった視点で「人を動かすコンテンツを作る」ために映画事業を行っていることがここまでの差に繋がっているのではないかと考えることもできるかもしれません。

<参考>
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1048_03_02.pdf
http://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS05040/0cf5724e/1ab9/46d4/9b5f/738b5868d90a/S100H2XJ.pdf
https://toyokeizai.net/articles/-/67775
https://www.saiyo-info.net/toho/work/eizo_kikaku.html
https://careerticket.jp/media/article/1677/
http://www.eiren.org/toukei/data.html
https://www.nikkei4946.com/zenzukai/detail.aspx?zenzukai=159
http://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS05040/4483b14e/be95/4c8a/a0fe/cdfc4edbb916/20191113122959102s.pdf
https://vodriver.com/column/movie-theater/

(2020年1月更新)







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?