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梅園先生を知るためにー『三浦梅園』と『多賀墨卿君にこたふる書』

梅園先生の生涯とその思想を知るために、私は、四十年の間に、さまざまな本や論文を読んできました。
中でも、繰り返し繰り返し読んだのは、田口正治先生のお書きになった、『三浦梅園』(吉川弘文館)です。
奥付を見ると、昭和五十七年三版発行となっていますから、二十二歳の頃、大学四年から、大学院に進んだ頃に手に入れたものと思われます。

この書は、三百五十ページほどのコンパクトな本ですが、三浦梅園を知ろうとする入門者にとっては、これ以上の良書はないのではないかと思われるほど、必要十分にして、しかも豊かな内容を備えた本です。

四十年にわたって、この本を足掛かりにして出発しては、結局この本に帰って来てしまうというのは、この『三浦梅園』が、梅園先生の生涯とその思想を知りたいと願う者にとって、ベースキャンプのような、補給基地のような役割をしているからでしょう。

自分の専門の勉強にかまけて、梅園先生にご無沙汰していた時も、
子どもが生まれて、育児に必死で、条理学や反観合一なんて何のことだったっけ、という状態に陥っていた時にも、
この田口正治先生の本を急いで読めば、昔習ったことや、読んだ論文の一節などがよみがえってくるのでした。

そして、不思議なことに、この本は、読む度に、新しい発見があるのです。
何度も読んでいるはずなのに、その時どきの自分の立ち位置や関心の在り処によって、こんなことが書いてあったっけ、という箇所が見つかります。
そして、そこからまた、新しい梅園先生の姿が見えて来るのです。

さて、梅園先生その人のことを知ったあとは、梅園思想を学ばねばなりません。
梅園哲学の入門書と言えば、もうこれしかないでしょう。
『多賀墨卿君にこたふる書』です。
これは、門人の多賀墨卿の質問に、梅園先生が手紙で答えたもので、三通あるうちの最初の一通です。
なずみ、習気じっけといった、人間の思考の邪魔をする言葉の説明から始まって、後半には、梅園哲学の集大成、『玄語』の内容説明に至ります。

今、私が持っている、『多賀墨卿君にこたふる書』がおさめられている本は、三枝博音編の『三浦梅園集』(岩波文庫)と、尾形純男・島田虔次編注訳の『三浦梅園 自然哲学論集』(岩波文庫)の二冊です。
文章に線が引いてあったり、ページごとに書き込みがしてあったり、いかにも学生時代に勉強しました風なのは前者ですが、実は何度も読んだ跡があるのは、後者です。
なぜなら、後者には、現代語訳文が付いているからなのです。
手っ取り早く、梅園哲学に触れたい方には、後者をお薦めします。
ただ、惜しいことに、梅園先生の著作の中でも、経済論として有名な、『価原』は、前者には、収録されていますが、後者には入っていません。
誰でも手に取りやすい文庫本だけに、『価原』が再び文庫本で読めるようになることを願っています。
その時には、ぜひ現代語訳文も付けていただければ、と思っております。

今日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
三浦梅園ウィークもあと少し。
明日は、『愉婉録』と『養生訓』について書きたいと思います。


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ぱんだごろごろ
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