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編集者・鈴木敏夫と鳥嶋和彦の「共通点」を探る

こんにちは。Kid.iAです。

ここ数ヶ月間、集中して時間を割いていたコトがひと段落したこともあり、少し時間を作れるようになってきた今日この頃。

思考するだけして放ったらかしにしていたnoteも、前回投稿がいつだったかを見てみるとその時期なんと7ヶ月前!

そんな長い間書けていなかったのかと・・・。

そりゃ自宅で栽培中のレモンもスクスクと育つわけです。

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(収穫報告ができるといいな)

毎回情報を軸に問いを立て、考えたことを書いている本note「Toi Box」ですが、複数の視点から「編集とは何か?」を考えていく「編集・三部作シリーズ」の第一弾となる前回投稿では松岡正剛氏を取り上げました。

そんな前回は「研究者」の視座でしたが今回はシリーズ第二弾ということで、書籍・雑誌・漫画などの内容を企画・アウトプットしていく「編集者」の視座を学ぶことで、「編集とは何か?」をより深く考えていけたらと思います。

そして取り上げる人物は、皆一度は彼らの創作物を見聞きしたことがあるはずの、誰もが知るレベルのお二方。

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「ジブリ」のプロデューサーでありながら、40年にわたり日本におけるアニメーション情報媒体として価値を提供し続けている古参アニメ雑誌「アニメージュ」の編集長も務められた鈴木敏夫氏

漫画家・鳥山明氏と共に「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」を世に生み出し、日本一の漫画週刊誌の黄金期を支えた「週刊少年ジャンプ」の編集長を務められた鳥嶋和彦氏

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今回はこの偉大な編集者であるお二人に焦点を当て、その共通点を探ることで「編集とは何か?」を自分なりに書いていければと思います。

また、お二人の編集者としての共通点を探る上でとても参考にさせて頂いたインタビュー記事が2つあるので以下にご紹介させていただきます。

個人的にその中身にものすごく引き込まれ、学びも多く、何度も読み返していた両インタビュー記事なのですが、本noteを執筆するにあたり改めてそれぞれの記事元と聴き手を見てみると・・・。

これ完全に偶然なのですが、両方共に媒体は電ファミニコゲーマー、そして聴き手も共に編集長であるTAITAI氏の記事でした。

こんな素晴らしいコンテンツを世に出していただき、また多くを学ばせて頂いたことに電ファミニコゲーマー及びTAITAI氏には感謝しかありません。

それぞれが本当に面白い記事なので、すでに読まれたことのある方も多くいらっしゃると思いますがもし未読の方がいらっしゃれば是非一読されることをオススメしたいです。

1. 奇なるものを好む心

共通点を見ていく前に、まず両者の主な経歴をまとめてみました。

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年齢は鈴木氏の方が4つほど上になりますが、ほぼ同世代と言ってもいいですね。

お二人の経歴を調べる中でとても興味深かったのが、社会に出る以前の鈴木氏と鳥嶋氏の興味・関心がとても似ていたこと。

鈴木氏は、両親の影響で幼少期から映画を観る機会が多かったこともあり「文藝春秋」等の総合誌に興味を持っていたということが語られている一方で、鳥嶋氏も誰よりも本を読んでいたという自負から、就職活動時の第一志望は(消去法でと書かれていましたが笑)「文藝春秋社」だったとのことです。

それぞれに細かなバックグラウンドや興味・関心の違いはあれ、この辺りから既に「編集者」としての共通点の一端が垣間見えた気がしました。

就職活動を経て鈴木氏は徳間書店へ入社、その後40年にわたり日本におけるアニメーション情報媒体として価値を提供しつづけることになる「アニメージュ」に編集者/編集長として関わっていきます。

途中「風の谷のナウシカ」を皮切りに映画のプロデュースもやっていく中でジブリ(プロデューサー)に専従することになるのですが、そんな鈴木氏の中には「総合雑誌」をやってみたい想いがずっとあったということがインタビュー記事で語られていました。

そしてその想いが、スタジオジブリによって創刊された月刊誌「熱風(GHIBLI)」を生みました。

・中高生のための政治雑誌
・広告のない、自由に物が言える雑誌

そんな冊子のキャッチコピーは「スタジオジブリの好奇心」。

そう、私が見つけた編集者としての一つ目の共通点。

それは「好奇心」です。

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上述のキャッチコピー、“スタジオジブリの〜”とありますが明らかに“鈴木敏夫の〜”がより正確な意味合いだと思います。

「読む人に伝えたいことがあるなら、(雑誌に)出ている相手を知っていなきゃいけない。」

とインタビューで述べているように、熱風誌面上では鈴木氏本人が興味を持ち、知りたいと強く思うヒトやモノゴトを取り上げているからも、編集者としての好奇心がいかに強いか(本質的に原動力になっているか)が感じられます。

同様に鳥嶋氏も、人気漫画作家を発掘・育てていく過程で編集者に大事なことは、人気が出る前の作家が持つ「隠れた才能(奇なるもの)を愛し育てる」こと、つまり「好奇心」を持つことだと語っています。

そもそも、アニメ雑誌の編集長だった鈴木氏と週刊少年マンガ雑誌の編集長だった鳥嶋氏ですが、当初鈴木氏は「アニメの“ア”の字も知らなかった」状態からスタートしており、鳥嶋氏に至っては「マンガとジャンプは嫌いだった」とのこと。

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そんな二人がそれぞれ徳間書店と集英社に入社して、当時どのような姿勢で仕事に取り組んでいたのか。

調べる内にわかったことが、ともにその類い稀な好奇心をベースに「何が面白いものなのか?」を自分なりに追求し、仕事をされていたということです。

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アルバイトで原稿を書いたり文章を褒められたり、自分自身も「書くこと」が好きだったという鈴木氏は入社後に週刊誌(アサヒ芸能)の記者をする中で「自分が色々な人から話を聴いてその話を等身大で表現する」、そうした仕事は向いていると思ったと当時を振り返られています。

新人時代の鳥嶋氏は、入社後ジャンプ編集部に配属されるものの上述の通り漫画を読んだことがありませんでした。

ただこちらもその好奇心をベースに、小学館の資料室でさまざまな漫画を調べることで「読みやすい漫画」と「読みにくい漫画」があることに気づき、特に読みやすいと感じた漫画の「コマ割り」や「アングル」の意図を何十回も読み返すことで分析されていました。
(そこで得たものを新人漫画家の指導に応用すると、みるみる上達したとのこと)

こうした話からは同じ「好奇心」を持つにしてもアニメや漫画そのものにではなく、なぜそれが人気なのか・面白いと思えるのかという「理由や背景」に対する好奇心を持っていることが二人の共通点として感じられました。

2. エゴを断ち切る

「鈴木敏夫」と「宮崎駿」。

「鳥嶋和彦」と「鳥山明」。

このように常にセットになるものとして、また編集者が向き合う対象としての「作家」がいると、素人ながらに思っていました。

実際にそれは一部事実であり、鈴木氏は高畑勲や宮崎駿という作家が持つ強烈な個性や相性といったものを理解し引き出すことで作品を世に出していたはずですし、鳥嶋氏も「作家が何を考えているかを編集側が分かっていなければ打ち合わせ自体が成立しない」と語っています。

ただし、それだけでは「編集者」として一流にはなれないことが調べる中で見えてきました。

私が見つけた編集者としての二つ目の共通点。

それは「読者目線」です。

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改めて文字にして書いてみると、素人である自分でも至極当たり前のことのように感じるのですが、実際に「作家」と「読者(/ファン)」の間に立ち、本質的に「作品」というものを客観視し、ヒットに繋げている編集者が世の中にどれほどいるのかを考えるとそう多くないのだろうなと感じてしまいます。

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後に自分達でアニメーションを創作していくことになる鈴木氏も、初めは女子高生にインタビュー等をすることでアニメに大事なのはストーリーではなく「キャラクター」であることに気づき、また「このアニメがすごい!」ということで高畑勲氏が監督を務めた「太陽の王子 ホルスの大冒険」を知ることになります。
(これが高畑勲、宮崎駿両氏への取材、出会いにも繋がるのも面白い点です)

ジブリのプロデューサーの立場になってからも「いつも受け取る相手のことを考える」と語っていること、またアニメージュという雑誌自体が長きに渡り「作家/作品」と「ファン」をつなぐ「情報源」として存在していた事実からも、いかに鈴木氏が読者目線だったかが伝わってきます。

鳥嶋氏も同様です。

読者アンケート結果を踏まえたDr.スランプやドラゴンボールの編集術は有名なエピソードとして挙がりますが、個人的に印象的だったことは冒頭にシェアしたインタビュー記事内で語られていたジャンプのゲーム特集を盛り上げるためにゲーム制作(ドラクエ)のインサイダーとなり、その制作過程を読者である子ども達に誌面で見せて楽しんでもらうという手法でした。

これは徹底的に読者目線に立った人じゃないとできないと感じましたし、同時にジャンプ誌面づくりのフックとするためにドラクエのキャラクターデザインを鳥山明氏に描いてもらったという裏話的エピソードも込みで「読者=子どもたちの目線」を大事にしているなと感じました。

「読者にとって面白いかどうかが全て」

鳥嶋氏のこの言葉に対しても頷くばかりですが、鈴木氏含めて両者がいかに作家や自身のエゴを断ち切って「読者目線」で編集されてきたのかを、今回調べる中で少し理解できた気がします。

3. 騒ぎを起こす

共通点を探す以前に、私自身が鳥嶋和彦氏のインタビュー記事を読む中でとても感銘を受けた言葉がありました。

「ジャンプには、『この世の面白いもの』は全て集まらなきゃいけないから。」

ゲーム雑誌を出し抜いて、漫画雑誌であるはずのジャンプ誌上でファイナルファンタジーのプレステ参入スクープを報じたエピソードを語るくだりで出た言葉です。

ブランディングの観点から見ても、漫画雑誌の範疇を完全に超えているこの一言は、編集者という枠に収まらない鳥嶋氏らしさ全開の言葉だと考えています。

そんな鳥嶋氏と鈴木氏の間に私が見つけた、編集者としての三つ目の共通点。

それは「騒ぎを起こす」です。

もう少し正確に表現すると、「自らで、騒ぎを起こすこと」です。

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鳥嶋氏はその性格から、面白くないものは「面白い」と言えない、と語っておりそれゆえに「自分で面白いと思うものを作ればいい!」と考えるに至っています。

ここに、昔から何か騒ぎを起こすのが好きだったと語る鈴木氏の姿勢が重なるわけです。

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騒ぎを起こす。

つまり、世の中のワクワクを創ること。

それも「自ら」創るという姿勢。

アニメージュ誌面上の企画を考えていた鈴木氏は、ある時期から、世の中の流行を追いかける(人気アニメを取り上げる)ことがばかばかしくなり、それよりも「自分達(編集部)で人気作を作ろう」と思うようになったと、その第一弾が「機動戦士ガンダム」であり、富野由悠季氏との付き合いの始まりだったと語っています。

結果として「機動戦士ガンダム」は今に至るまで多くのファンを持つコンテンツに成長するわけですが、実はその延長線上にジブリがあり、雑誌連載からスタートし、のちにアニメーション映画化された「風の谷のナウシカ」があるということです。

自分自身もガンダム好きだったこともあり余計に感じたことなのですが、この流れを知った時、現在の人気アニメコンテンツ誕生に、(もちろん要因の全てではないにせよ)アニメージュという一つの雑誌と一人の編集者が持つ「自ら騒ぎを起こす」という姿勢がとてもない影響を与えたのだと、すごく感動したのを覚えています。

そして鳥嶋氏も、どうすれば雑誌が売れるのか?という狭い視点ではなく、「ゲーム業界全体の活性化」という広い視野から、ドラクエばかりではなく「新しい企画」を動かさないといけないと思うに至り、あの名作RPG「クロノ・トリガー」を企画されています。

冒頭のインタビュー記事にも書かれていた以下公式。

鳥山明+堀井雄二+坂口博信
=ドラゴンクエスト+ファイナルファンタジー
=クロノ・トリガー

この公式に、私含め当時の人々がどれだけ「ワクワク」させられたか。

そしてこの史上最高のゲームも他のゲームと同様に、制作プロセスを読者に見せていくことでファンを巻き込みながら世の中に騒ぎを起こし、当時創刊したての雑誌だった「Vジャンプ」を盛り上げるための一役も担うという全体の仕組み・設計までを含めて、先述の鈴木氏と同様、鳥嶋氏の編集者としての凄さを感じたエピソードでした。

まとめ

最後に、ここまで書いてきた3つの共通点をまとめてみました。

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こうしてまとめてみると、当たり前の話なのですがどの共通点も抽象度が高く、それゆえに、編集者に限らずどの業界・業種の人にとっても大事で、普遍的な要素であると感じます。

それこそ行動レベルで見た時に各人で違いが出てくるのは自然なことではありますが、その根っこにある行動の「源泉」として捉えると、この3つの共通点から学べることは本当に沢山あるなと今回noteを書く中で再認識しました。

さて、次回は「編集・三部作シリーズ」第3弾・最終回ということで人気絵本作家の五味太郎氏をピックアップ、作家・クリエイター側から「編集とは何か?」を考えていくことでより編集に対する理解と学びを深めていけたらと思います。

もし記事に少しでも共感いただけたなら「スキ」や「フォロー」をしていただけると嬉しいです!

今後の創作の活力になります。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(追記)以下、シリーズ全編をまとめています。

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