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【特別対談】中村蓉×栗原一浩(吉祥寺シアター支配人)#2~『マクベス』ってどんな作品?編~

2023年9月22日(金)~24日(日)に上演される中村蓉単独公演『fマクベス』遂に今週末開幕ということで、この公演をもっと楽しんでもらうべく、本公演で振付・構成・演出を手掛ける中村蓉さんと当劇場で支配人を務める栗原一浩で対談を行いました。

およそ一時間程でしたが、内容盛りだくさん!今回は舞台芸術、そして『マクベス』についてとことん語る3つの質問を公開します。

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~音楽とお芝居とダンス~

中村:では 私から質問させていただきます。栗原さんも物凄い色んな分野の舞台 芸術に触れてるじゃないですか。そんな栗原さんに質問なんですけど、音楽 お芝居 ダンス 私の最近の感じ方としては速度の違いがあるなと感じていて。味わう速度。
栗原:どういう風に違うの?
中村:音楽は聴覚じゃないですか。聴覚から入ってきて、直感的に染み渡る。みたいな感じがするんですよ。
それが速度でいったら一番早いのかなって思ってるんですけど、お芝居は言葉を介して伝わってくるから、言葉を咀嚼する時間が必要になるなって気がしていて。だから時差が後から、もう一回ばあぁって思ったり、次の日にあって衝撃が来たり。ある気がするんですけど。
ダンスは視覚的情報として、これも解釈するのにもっともっと時間がかかる場合もありますけど、視覚情報の伝わってくる速さってあるなと思うんです。私はそういう時間っていう違いを感じたりするんですけど、栗原さん的に音楽、お芝居、ダンス、他のアート。違いとかそれぞれの良さってあったりするんですか?観るときにちょっとスイッチ変えてるとか
栗原:人格が変わりますよね。
中村:えぇー?! 人格?
栗原:音楽は…凄い長くなっちゃうから簡単に三つの違いを言うと、ダンスは国際結婚みたいなものなので、よく分からないんだよ。手探りな感じ。
中村:手探り。
栗原:手探りな感じで、本当はよく分からないのよね、本質のところ。何を言おうとしているのかしら。踊っているけど。言葉がないじゃないですか。
だからちょっと全部のことを伝えきることは、同じジェスチャーが決まっていたとしても全部は伝わらない。国際結婚みたいな。日本人とアメリカ人、全てが分かる訳じゃない。
お芝居は結婚して、日本人同士である程度言葉で分かろうとする、みたいな。ある意味日常的な部分に囚われてしまう。そこから脱却するのが、脱却できている人ももちろんいると思うんですけど、日常的なものを書いてしまいがちだ。普段の日本人だよねっていう。
音楽は恋愛みたいなもので、形がないから色んなものがあるよねって。
で、速度っていうよりは、分からなさがみんな違う。芝居が一番分かりやすいんじゃないかなあって思いますけど。
日本人同士が普通に結婚していくみたいな、分かりやすい部分があるけど、ダンスはそうはいかないでしょって。
中村:お芝居は日本人同士の結婚だとして、言葉を通して意思疎通が取れる。で、文化も一緒だとして、できるけども、できるからこそ本質すれ違っちゃう。で、取り戻せないっていう場合もありますよね。
栗原:でもそれはね、国際結婚してる文化人が言ってたんですけど、結局は男の人と女の人の問題に尽きるって。言ってしまえばどれも本質は同じなんだと思う。
本質はどの分野も同じなんだと思う。同じなんだけど、音楽にも色々あるしね。ロックとクラシック全然違うし。
中村:音楽は恋愛かあ。
栗原:だってロックバンド聴くのに理論でもないし。J-pop聴いたりK-pop聴くのもそういう感じではないし。
中村:あぁ~
栗原:分からない符号でもって、楽譜が読めないからあなた聴く必要ないって感じじゃないけど、やっぱりダンスはある程度素養がないときついなって。全く分からない人が観るのはちょっと難しいというのがコンテンポラリーにはあるかもしれない。
中村:なるほどぉ。
栗原:だからお互いに探っていく、みたいな。演者とお客がお互いに探り合っていかないとならない部分があって、コンゴの人とアイルランド人が結婚すれば、お互いになんとかしようとするみたいな。
中村:なんとかしようとしますよね。
栗原:そういう意思疎通しようとするっていう。感じ合う。
中村:あぁ。
栗原:速度っていうよりはそっち。
中村:あぁ。でもなんかしようとする感じがライブ感があって、面白い。
栗原:そうなんですけどね。それが良いって人と分かりにくいからやだって人と。
中村:めんどくさいって人と。
栗原:いますよね。だから日本人同士結婚した方が良いわよね、やっぱりって思っちゃったり。芝居が一番分かりやすいかもしれないです。音楽はクラシックになればもうルール分かんないと、定則みたいなものがあって、型にはめてないといけないから、難しい。
中村:面白い!

~マクベスという演目~

中村:はい。ではまた私からの質問で、マクベス。どう思いますか?栗原さん。
栗原:演劇からダンスから、色んなマクベスがあると思うんですけど、僕、元々オペラの人なので。マクベスは誰が主人公かってことなんですよ。
中村:おぉ!
栗原:基本的にマクベス夫人が主人公なんじゃないかっていう風に考えるのがオペラの人なんですよ。
中村:そうですね。
栗原:なぜかというと、マクベス夫人の役を歌える人がめちゃめちゃ少ないんですよ。マクベス歌える人はいっぱいいるんです。
中村:あ~そうなんですね。
栗原:うん。バリトンだったら多分ある程度、ヴェルディ・バリトンだったらマクベスは歌えるけど、マクベス夫人は、スピリット系の強い声じゃないといけなくて。それでメゾン。そういった声。元々イタリア人のヴェルディが書いてるんですけど、そういう声をもうイタリアの人は持ってないんですよね。もっと柔らかい。
中村:美しく歌うことを良さとしてるじゃないですか。ヴェルディの要求としてはガサガサした声じゃないけど…
栗原:強い声が必要なので。それが例えば旧東欧圏の人になってしまうと、本当のヴェルディの良さは出てこない。なかなかマクベスをやるのは難しくて、マクベス夫人を探すっていうところからスタートする。
僕が演劇のことで考えてみても、どうしてもマクベス夫人、まずはマクベス夫人のことになってしまう。
中村:へー!
栗原:演劇でやるとマクベスがメインのキャラクターなんですけど。オペラの場合だと、(マクベスの方が)歌えない。昔、フィオレンツァ・コッソットっていう、日本にもよく来たメゾソプラノの歌手がいますけど、イタリアでスピリット系の歌手で。素晴らしかったなぁ。彼女以降はそういうソリストはまだ出てきてないよね。なかなかマクベスは難しいなっていう。
中村:マクベス夫人を誰が歌うか、どう歌うのかって。歌えるのかって。
栗原:そうですね、そういう人を探してくのが難しい。
中村:オペラのマクベスは原作と少し違うじゃないですか。特にマクベス夫人がバンクオー殺しを知っていたりとか。結構、共同作業ですよね、原作より。なんでそういう違いになったんですかね?
栗原:台本作家がそう書いたんでしょうね。
中村:そう書いたからかぁ。それはマクベス夫人の歌手の方を活かすためだったりするんですかね?
栗原:それはそうなんじゃないかと僕は思ってますけどね。マクベス夫人の要素が強いですよね。
お芝居はやっぱりシェイクスピアの原作、マクベスの方が中心になってくる。
まあそんな感じですので、マクベスを観るときはマクベス夫人を見てしまう。どの舞台を観ても。そんなことでした。

~今、マクベスをやること~

中村:質問 もう一つございまして。今年、マクベス題材の舞台が多いなと。まあ自分がやるから気になってるっていうこともあるんですけど、多いなと思っていて。だって吉祥寺シアターさんも みきくらのかい さんのリーディングでマクベスやってますし、蜘蛛巣城 もKAATで 赤堀さん がありましたし。で、新国立劇場でも ウィル・タケットさん が二本立ての内の一つがマクベスで、で、レイディマクベス もあって。で、私の fマクベス があり、で、11月は 日生劇場 でオペラのマクベスが。
マクベスばっかりな気がするんですけど、今の時代にっていうとあれですけど、マクベス なぜこんなに取り上げられるんですかね。栗原さんに質問。
栗原:難しい質問ですよねぇ。偶然が重なった部分も大きいかと思うんですけど、何をシェイクスピアでやるかって話をしたときに、ある程度のお客さんの動員を考えるじゃないですか。ね。でもちょっと ロミジュリ と ハムレット はちょっとね。ちょっと置いておこうかな、みたいな。どうしてもある。じゃあ 尺には尺を にしましょう とはなかなかならない。
中村:う~ん、ならない。確かに。
栗原:それで、主役が割と活きる感じがあって、やりがいがある作品なんじゃないかって思っているんですよね。でももちろん僕は ファルスタッフ と ウィンザーの陽気な女房たち はよくできてると思うんですけど、あれをやって、例えば 真夏の夜の夢 をやって、いやぁこれやって良かったなあっていうよりは マクベス はシェイクスピアをやった感じもするし、やってる人にとっても作る人にとっても良いんじゃないかなあって。
中村:登りがいがあるというか ガリガリ登ってる感じは味わえますよね。
栗原:で、冬物語 をやるよりは お客さんがある程度来るかもしれない。
中村:知名度みたいな。
栗原:興行的な面と芸術的な面のバランスを考えたときに 今の時代においてはいいんじゃないかな。もう少し昔だったら ロミジュリ とかを敢えてやったりとか、もうちょっと演劇的なものが多かった気もするし、ベニスの商人 とかもあったと思うんですけど、 今 ベニスの商人 を皆やろうと思わないんじゃないかな。やりづらいなあって正直思いますから。やっぱり今の時代ってものともちろん関係はあると思う。日本においてね。
最も有名だった 運命、未完成、新世界 をやります、みたいな、もう少し…何とも言えませんけど、マーラーとかもありますよ、みたいな。
そういう感じなので。多分お客さんもそれを観て、楽しむようになってきていて、そういう風に変わってきているのかもしれない。
中村:あ~なるほどね。
栗原:演劇的にはもっとマイナーな演目もいい。もっといっぱい観てるから、マイナーな演目もやりますよ。
中村:程よいのか。メインからちょっと ずれる感じ
栗原:ある程度 シェイクスピア に関心がある人にとっても、凄く知られていないような作品ではない、ちょうどいいんじゃないかなっていうことでたまたま集まってしまったんじゃないかな。
中村:この前やられてたリーディング公演で マクベス を選んだ理由は何かあるんですか?
栗原:吉祥寺シアター と 倉本君 って オーストラ・マコンドー の男の子と 三木さん と3人で(話して)。
文化会館の大ホールでやったんですけど、リーディングって言っても動いたりとかしたんですけど、三木さん をどうしようかって考えたときに、三木さんに マクベス夫人 をやってもらおうっていう。
中村:マクベス夫人 を!へぇ~
栗原:三木さん に マクベス夫人 をやってほしいっていうのがオーダーなんですよ。
中村:はあぁ~
栗原:マクベス は 三木さん が好きな人を選んでくださいって。
中村:で、小野さん ?
栗原:で 小野大輔 さん。
中村:でも、三木さん 物凄い声優さんじゃないですか。レジェンド声優さんじゃないですか。なんで マクベス夫人 が良いなって思ったんですか?
栗原:それは女性の役をやってもらおうと思っていて。女性の役が良いなと思っていて。でも正直 ジュリエット っていう歳じゃないでしょって。もう流石に。オフィーリア って歳でもないでしょって。
中村:あぁ~なるほど。
栗原:そうすると マクベス夫人 だったら。マクベス夫人 は変な話だけど、若い人がやっても歳を取った人がやっても有りだと思うので。
そう考えると、本人も シェイクスピア やった事がないって言ってたので、最初に取り組む作品としては良いんじゃないかなって思って。
二人とも楽しそうに、小野さん も楽しかったって言ってくれたし、良かったんじゃないかなって思ってます。
それは単純にその役ってものが、マクベス と マクベス夫人 って役がやりがいのある役なんじゃないかって思う。
中村:一つだけ、栗原さんの思う マクベス の面白さはどこにありますか?
栗原:まあ人間は皆弱虫だってことですよね。
中村:おおぉー人間は皆弱虫。
栗原:うん。
中村:確かに。
栗原:どんなに強く見える人も、どんなに威張った人も皆弱虫なんですよって。
中村:そこは赤裸々に描かれてますね。
栗原:そういうところだと思うんですよね。まあ現代ってことですよ。
中村:現代、それが現代。
栗原:まあ弱虫であることは別に恥ずかしいことじゃないんじゃないかなと思いますけど。強がる必要はないですよ、人間は皆弱虫なんですってことじゃないですかって。
中村:それが今の時代にフィットするっていう。
栗原:ある程度そういう部分はある。かもしれません。強くやんなきゃいけないっていう。昔のね、シャルルマーニュ物語 とか、そういうヨーロッパの征服物語みたいな、アーサー王伝説 とかそういうものじゃなくて、何かを征服したり、完全懲悪しなくてよくて、弱くて良いんだよ、みたいな。
中村:珍しいかもしれない、そういう物語は。
栗原:そういう感じ、良いんじゃないかなあって思っていますけど。
中村:確かに。
栗原:そんなことでした。

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いかがでしたでしょうか?パフォーミングアーツの捉え方は人それぞれで、いつ、誰から聞いても面白いなと感じます。今回のお二人は芸術を鑑賞するときの受け止め方の違いが、そのまま捉え方の違いになっているのかもしれません。また、『マクベス』については色々な上演があるからこそ、本質的な魅力が見えてきました。
本作の『マクベス』はどんな形になるのか。お楽しみに!

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中村蓉単独公演『fマクベス』

2023年9月22-24日 吉祥寺シアター

出演:中村蓉 池上たっくん 山田暁
山田ゆう子 LINDA 武井琴 大澤寧音 中川友里江

2023年 9月22日19:30
9月23日14:00/18:00
9月24日14:00

詳細はこちら↓
https://www.musashino.or.jp/k_theatre/1002050/1003231/1005067.html

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中村蓉×栗原一浩(吉祥寺シアター支配人)
対談動画も公開中(随時更新中)

その1~好きな食べ物~
https://youtu.be/TqNjPH8yxa8

その2~あなたはどんな人~
https://youtu.be/Hc9T8Hn7X_g

その3~音楽とお芝居とダンス~
https://youtu.be/KoXP_xf5XYU

その4~マクベスという演目~
https://youtu.be/yPmkcO8TEQk

その5~今、マクベスをやること~
https://youtu.be/0nkfNk-lg_E

その6~振付師のクレジット問題~
https://youtu.be/cUX5vARmdBY

その7~演出について~
https://youtu.be/meaH2Ld9poM

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