見出し画像

星空のパラソル

毎晩サロンの鍵がしまっているか確かめる。ガチャガチャとノブを回したあとサロンの前で少し空を見る。もう10年くらいほぼ毎晩この作業をしてるからすっかり習慣になってしまった。

雨の日も曇りの日も星が見えない日も身体は自然と空を見上げていて、数分間何も考えずに真っ暗な空を見てしまう。

空を見ながら時々思い出すビューティフルマインドでみた風景。不器用な数学者が好意を寄せている女性と空を見てる。彼は彼女の手を取って無数に見える星の中からひとつひとつ星を指さして点を繋いでパラソルを描く。そんな風景。

私は数学の事はよくわからないけど、無数のカオスからまっすぐな線を見つけ出して美しい道筋を見つけ出すんだろうなという彼の世界観が見えるような気がした。その美しい作業を彼女に星を使って見せたかったんだろうなあと、すごく印象に残ってる。言葉ではなくて星のパラソルで愛を伝えるシーン。

夏目漱石の「月が綺麗ですね」の別バージョンだなあーと。私だったらどうやって伝えるんだろうか。と、夜空を見ながら時々考える。昔、洗濯を失敗してレモン色のお気に入りのワンピースを赤く染めてしまったことがあった。すごく悲しくて泣いてたら、まだよく言葉も話せない小さかった娘が私の涙を小さな人差し指ですくってぺろりと舐めた事があった。そして「ママの涙おいしいよ」って言ったことがあって。いつも最終的にその時のことを思い出して、なんだかなんとも言えない気持ちになる。

長めに夜空を見てしまう時はたぶん少し疲れてる時だとおもうけど。そう言う時はそんなアレそれエピソードを思い出して「さ。ねよ」と潔く布団に入れる気がする。結局「私だったらどうやって伝えるかなあ」の答えはでないけど。





この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?