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【青春パンクロック】

17時のチャイムが鳴った。
一日の中で最もスリリングな時間だ。

この学校の門をくぐって早半年。
我が校は全日制と定時制、ふたつの教育課程がある。多くは全日制の生徒であり、日中は至って普通の高校だ。決して偏差値は高くないが、自由な校風と、明るく現代的な校舎が特徴で、今のところそれなり気に入っている。

特に3階西側の談話スペースは部活動の時間は一人きりになれる私だけの空間だ。そこからテニス部の水橋さんを眺めながらドクターペッパーを飲む時間が、一日の中で最も自由な時間だ。そこで「ガガガSP」なんて聞こうものなら「最強」になれる。

好きな音楽と水橋さんで頭一杯になりながらどっぷりと青春を謳歌する私は、間違いなく「最強」の存在である。

ただそれも17時までだ。
前述の通り、全日制と定時制がある為、17時のチャイムをきっかけに全日制は強制的に下校させられ、そして17時半には定時制の生徒が登校してくる。彼らは様々な理由で全日制に通えない・通わない生徒たちということもあり、雰囲気は完全に別物だ。同じ校舎をシェアしているが全く別の学校と言っても過言ではない。というかまぁ早い話、ヤンキーが多い。今日までに、恫喝15回・カツアゲ4回・一発芸強要30回以上、自転車に関しては盗まれたり破壊されたり、かれこれ5回買い直している。

17時のチャイムは私にとって天国から地獄へ切り替わる合図なのだ。下校が遅くなった全日制生徒と、早めに登校してきた定時制の生徒が唯一交わる時間で、トラブルが多発する時間。
私の被害事案も大体この時間帯である。

奴らの舐め切った目つきを思い出すと怒りが込み上げてくる。
いつかあいつらに自転車代を請求してやる、いや、慰謝料も含め100万請求してやる。もしくはあの顔面に強烈な右ストレートをお見舞いするのもいいだろう。ただし反撃されると勝ち目はない。何とか一撃で沈める必要がある。その為には、今日から腕立て伏せでも始めるか・・・

ふとテニスコートに目をやる。さっきまで急いで後片付けしていた水橋さんの姿はもうなくなっていた。私が下らない恨み節を唱えている間に、天使はどこかへ行ってしまった。ドクターペッパーを飲み干し、名残り惜しいが「最強」の時間に別れを告げる。

逢魔が時の校門はまるで魔界の扉の様だ。憂鬱だ。その時聞き覚えのある笑い声がした。
振り返るとそこには水橋さんがいた。
同じテニス部の、小太りの浅黒い、お世辞にも可愛いとは言えない友達と歩いている。水橋さんと目があってしまった。普段話す事なんてないし、私が一方的に眺めているだけ。私の存在を彼女が認知しているのかさえ疑問だ。

「さようなら」

彼女から声を掛けてくれた。
とっさの事で反応が鈍る。
何か言わなくては。

「さ、さ、さようなら!気をちゅけて!」
噛んだ。思いっきり。
彼女に気付かれただろうか。分からないが彼女は会釈をすると、小太りと一緒にまた歩き始めた。
また背後から、今度は下品な笑い声がする。
振り返ると、あの舐め切った目つきでこちらを見る、魔界の門から入ってきた化け物だ。
奴は私と水橋さんのやり取りを見ていたのだろう。
げらげら笑いながら、一日の最初の挨拶にしては不適切な言葉を吐きかけてくる。

「何嚙んでんだよ!ヒッヒッあの子のこと好きなんだろ!きめ~!ロリコン教師め!今日の授業つまんなかったらチャリパンクさせっかんな!」

     「つづく」 作:オナイ

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