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【音が鳴るモノなりけり】

<登場人物>
卓也:多感な年頃の小学校低学年生
卓也の母:子供の成長を楽しむ主婦
卓也の父:人生に失敗し、空回りする男
上村:反社組織に片足を突っ込む半端者
その他:卓也父の浮気相手、警察官、学校の皆さん、謎の外国人…


01_1・夕方。職質を受ける男性(上村)と、それを囲む2人の警察官。
  警察官A:「もう一度伺いますが…これ…なんですか?」
  上村:「えっと…何ですかね…」
  警察官B:「これは、アナタのモノではないんですか?」
  上村:「えっと…私のですね…」
手元にある白いビニール袋。三角形のスコーンのような大きさ形のモノが、紙に包まれている。
  警察官A:「ちょっと中見せて…」
  上村:「いや…それは…」

02・朝、リビング。
  卓也の母:「ほら、早くしないと遅刻するわよ!」
  卓也:「無いんだよ〜」
  卓也の母:「何が無いの?」
  卓也:「だから〜…オカリナ入れる巾着が無いの〜!」
  卓也の母:「もういいじゃない、母さんが後で探しておくから、とりあえずこれに入れて持っていきなさい!」
キッチン横にあった白い袋を手渡す。
  卓也:「こんな袋じゃ壊れちゃう!」
  卓也の母:「こうやって新聞で包んだら大丈夫!」
引っ越しの食器もそうでしょ?と急かせる。
  卓也:「え〜こんな袋じゃ格好悪いよ〜」

01_2・夕方の職質。
  警察官B:「…なんで見せたくなかったの?」
手元には袋から出された白いオカリナ。
  警察官A:「あんまり迷惑かけないでくださいよ。そんなに抵抗されるから、なんか…こう…危険なモノかと勘違いしちゃいますよ…」
顔が引きつる上村。
  上村:「ん…まあ短銃…みたい、ですもんねぇカタチが…」
ハハハ…と笑うしかない一同。

03・深夜のカウンターバー。
  女性:「ねえ、ホントに奥さんと別れてくれるの?」
  卓也の父:「何度も言ってるじゃないか…一連のことが落ち着いたら、ちゃんと話あうさ」
  女性:「ちゃんと別れるって言ってよ」
  卓也の父:「話あうって言ってるじゃないか」
  女性:「なによ!奥さん殺したいくらいに嫌いだって言ってたくせに!」
周囲を見回しながらうろたえる卓也の父。
  卓也の父:「馬鹿!物騒なことを大声で言うなよ…」
  女性:「馬鹿って何よ!嘘つき!」

04・職質から開放された男性・上村。
  上村:「やばいな…やばい…何でチャカが楽器になってるんだよ…」
ジャンパーのポケットに、先程の白い袋に入ったオカリナを握りしめている。
  上村:「やばいよ…今日中に引き渡さないといけないのに…」

05・その日の朝、回想。小学校に向かう卓也。ひとりプラプラと棒のような枝を振り回している。
  卓也:「こんな袋じゃ、絶対みんなに馬鹿にされちゃうよ…」
道の曲がり角から走って出てきた上村が、少年とぶつかる。同じような白い袋に入っている三角形の物体が2つ道に転がる。
  上村:「やべえ!」
卓也の方が早く、1つを掴んですぐに胸に抱えて走り去る。もうひとつを上村も慌てて掴むが、すぐにポケットにしまい逃げるように反対方向に走り出す。

06・卓也が出かけた後のリビング。卓也の母とカウンターにいた男性(卓也の父)がいる。
  卓也の父:「今夜夕飯いらないから」
  卓也の母:「…そう」
以降、会話はない。父親は部屋を出る

07・学校。
  生徒達:「センセー、卓也君がオカリナ忘れたそうで〜す!」
頑なに見せたくない卓也は、机の奥に隠している。

08・バーカウンターの外にある共同トイレ。卓也の父が入って来て腕まくりをし顔を洗う。いつの間にか、背後に立っている上村。
  上村:「メールくれた方?」
  卓也の父:「え、あ、本当に届けてくれるんだ…」
  上村:「わかってますよね…」
  卓也の父:「あ、現金ですね…」
顔を洗って濡れた手を拭くのもそこそこに財布から数枚の万札を出す。それを受け取ると同時にブツを渡す上村。
  卓也の父:「…え、結構軽いんですね…」
  上村:「海外製の最新型ですから」
  卓也の父:「3Dプリンターか?…」
ブツブツ独り言を言う所にクギを刺す。
  上村:「…こんな目立つ所では…絶対に出さないでくださいね…決して人に見られないように…」
  卓也の父:「…音は?」
  上村:「…音?音はしますよ。このサイズですからね、消音装置なんて付いて無い…ヤル時はこう…クッションか何かで…」
指と掌を使ってガンアクションを説明する。
  卓也の父:「なるほど…じゃあヤルなら、若干音がしても目立たない場所がいいのか…」
  上村:「…確かに届けましたから…」
上村のソワソワした怪しい態度も、高揚した男には気づけない。
  卓也の父:「これですべて…終わらせる!」

09・夜深く、卓也の家のリビング。帰宅する父。テーブルに座る母。
  卓也の父:「…ただいま」
  卓也の母:「…」
テーブルの上に黒いオカリナ。
  卓也の父:「…何?それ…」
  卓也の母:「え…ああ、卓也がね」
特に問題ではないこととして淡々と語る母。
  卓也の母:「今日帰って来て巾着を探して、入れ替えようとしたら…」
コレ、とオカリナを手のひらで指す。
  卓也の父:「誰の?」
さあ?と首をすくめる母。会話を最小限にしたいらしい。
  卓也の母:「シャワー浴びるけどイイよね?」
  卓也の父:「ああ…大丈夫…」
横目で軽蔑の眼差しを向ける妻。
  卓也の母:「…浴びて来たんだ…ま、どうでもいいけど…」
冷めきった二人の空気感。
  卓也の父:「…あとで片付けてからしっかり流すさ…」

10・父親と母親の寝室。スーツを着替える父親。ポケットから取り出す三角形の白い袋。
  卓也の父:「これですべて…」

11_1・風呂場の前の脱衣場。中のシャワー音が響いている。消音対策用にクッションを持って、袋から中身を取り出す。
中から出てきたのは、白いオカリナ。
  卓也の父:「え…これ…オレが卓也に買ってやったオカリナ…?」
うっすらタクヤと名前が彫ってある。

12_1・翌朝。卓也がリビングに入って来る。早く起きている卓也の父。
  卓也:「あれ、珍しいね、父さんが早く起きてるの…」
テーブルの上に白と黒2つのオカリナ。
  卓也:「あ!僕のオカリナ!どこにあったの?」
白いオカリナを手に取る。
  卓也の父:「さあ、色々迷子になって、もとの場所に戻って来たんだろう…」
  卓也:「…母さん…なんで笑顔なの?」
  卓也の母:「何があったんだか…お父さんがね、気持ちを入れ替えて、全部心機一転でやり直したいって…」
  卓也の父:「昔のことを思い出して、自分の弱さに気づいてさ…」

11_2・昨夜の脱衣場のその後。シャワーを浴びる音が聞こえる中、白いオカリナを胸にかかえ、ひとり泣き崩れる父親。
  卓也の父:「何やってんだよ…俺」
自分に呆れて泣きながら笑っている。

12_2・リビング。
  卓也の父:「…この黒いオカリナ、持ち主に返してもらうから…」
  卓也の母:「持ち主、知っているの?」
  卓也の父:「大丈夫。まずは警察かな。事情を説明して返してもらおう」
  卓也の母:「落とし物として届けるの?」
  卓也の父:「まあそんな所かな。ちゃんと説明したいから」
  卓也:「大丈夫なの?」
  卓也の父:「卓也のオカリナは、自分の巾着にしまって行って来い!」
  卓也:「わかった。何か色々わからないけど…でも何だかわかった気がする」

13・上村と卓也がぶつかる日の少し前。外国人に一方的に話をしている上村。その見えない所で、黒いオカリナを紙に包み、白い袋に入れている外国人。
  上村:「音の方は?」
  外国人:「音?イイ音デルネ〜!」
  上村:「OK!OK!」

     「つづく」 作:スエナガ

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