「自立活動を主とする教育課程」の罪

 特別支援学校には複数の教育課程がある。地域によってその呼び方は異なっているようですが、私がいた自治体の場合は3つの教育課程が存在しています。
 ひとつは「準ずる課程」といわれるもの。教科の学習に取り組む課程。教科書を使って学習に取り組みますが、学習の進度によっては学齢より下の学年の内容に取り組むこともありです。
 ふたつめは「知的代替の課程」。これは長い間特別支援学校にいましたが、よくわからない部分が多かったです。文科省著作の知的障がい用の教科書を使って学習に取り組む課程。
 そして「自立活動を主とする課程」。「肢体不自由の程度及び知的障害の程度共に重度で、各教科の学習が著しく困難なため、自立活動の内容を主として学習する方が適切であると考えられる場合であり」(国立特別支援教育総合研究所HPより)、教科書は一般図書(実際には幼児・児童向け図書が多い)が配られますが、基本的に授業で使うことはありませんでした。

 私は「自立活動を主とする教育課程」のお子さんを担当することがほとんどでしたが、運動やコミュニケーションの制約によって「わからない」ように見えるのは思い込みであって、おひとりおひとりに深い精神的な世界や思索の世界、年齢相応の興味を持っていることに関する確信が募りにつれて、「自立活動を主とする教育課程」に多くの課題があることを感じてきました。それは「罪」とも言えるものだと思っています。思考停止の状態だとも思っています。
 どこから書いていこうか迷うところなのですが、訪問教育でiPadでKeynote教材を作って学習を進めていく中で、教科書を見せたくなる場面が出てきます。その時に学校の棚から各種の教科書を借りていくことはできるのですが、せっかくデジタル教科書の時代なので、デジタル教科書やデイジー教科書を使いたいと思っても、お子さんが自立活動を主とする課程にあることで、実際にはデジタル教科書を使うことができませんでした。デジタル教科書は紙ベースの教科書の使用者が使うものであることと、既に「絵本」という「教科書」が配付されているために教科書の二重配付になるから使えないということを聞きました。
 また、自立活動を主とする教育課程のお子さんの保護者の方からは「中学生になっても高校生になっても絵本?」という疑問の声は少なからず聞いていました。「何故絵本なのか?」とも。
 これは入学の際に教育課程について十分な説明を受けていなかった可能性があると思っています。いったいどの程度説明を受けているのかと。

 私はこれら3つの教育課程には、大きな課題があると思っています。

 以前、SNSでこのことを訴えたお母様がいました。私もその気持ちに賛同の書き込みをしたのですが、「この業界にいてそんなことも理解していないのか」という書き込みもありました。思考停止しているのだと感じました。また、子どもたちから学ぶということを全くしていないか、全く忘れているのだろうと。

 これもまた以前のことなのですが、授業研究の助言者を依頼している大学のコミュニケーション支援の研究者から「コミュニケーションのモデルがいないこと」と指摘されたことがありました。自立の教育課程のお子さんは、運動の制約が大きくコミュニケーションの制約も大きいために、ことばでの会話ができるお子さんは基本的にはいない状態です。つまり、同年齢の会話を耳にする機会がないということです。このことを指摘されました。
 一方、他の自治体には、制約の大きさによって学習集団を分けることをしていないところもあると聞いています。

 実は、このことはインクルージョンの理念とも深く関わっています。
 現在の状態は「分けた方が効率的で効果が高い」という日本の政府の主張に則ったものだと思っています。一方、インクルージョンの理念は全く違うと受け止めています。1994年にユネスコが採択したサラマンカ宣言でも、インクルーシブな学校は「特別なニーズがある子どもにも、無い子どもにも双方に利益がある」としていると理解しています。

 3つの教育課程を「そのまま」にするのであれば、毎年保護者の同意を必要とするべきだと思っています。

 このことはあまりに多くの問題(課題)を含んでいるために、文章にする際にも次々に言いたいことがわいてきてどうも収拾がつきません。ごめんなさい。

 運動やコミュニケーションの制約がどんなに大きく思えたとしても、学齢に達したら記号としての言語、文字の学習は必須だと思っています。自分で手を動かして書くことができない場合でも、子どもの手を取って固有運動感覚や触運動感覚も使って字形のひとつひとつを伝えることは最低限必要だと思っています。
 また、見えにくい状態にあるお子さんが多いと思われるので、眼科や視能訓練士と連携して、ICT機器を駆使して見えにくさを軽減して、見えやすい環境を整えることも必須だと思っています。
 その上で、同じ生活年齢のお子さんが触れるであろう教科の情報のエッセンスは伝え続ける必要があると思っています。「わからないだろう」という思い込みや思考停止からはなんとか脱却できるように、微力ながら仲間を支え続けたいと思っています。
 

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