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Book ~「凍てつく太陽」 葉真中顕~

今回は葉真中顕作「凍てつく太陽」に関して,読書感想を執筆してみます!

葉真中顕先生の作品では、デビュー作の「ロストケア」もおすすめです。
介護という現代社会の問題点にフォーカスした作品でありながら、
犯人を追い詰めていく過程は、本格ミステリーとしても非常に面白いです。
社会派的なテーマと本格ミステリーを融合したこの作品は、疑いようのない傑作といえます!

さて、本作の「凍てつく太陽」は終戦直前の北海道を舞台とした作品です。
舞台となっている時代(1944年から1945年)では、外地の植民地の人々(朝鮮人など)や沖縄の琉球人、北海道のアイヌを天皇の赤子たる皇国臣民として、日本人と同様な生活を営むことを強要していました。
具体的には日本人風の名前を付けられ、日本語を話し、日本の食事をするように強いられていたようです。
しかし純粋な日本人(大和人)と同等に扱われることはなく、やはり差別が存在ています。
主人公の日崎八尋もアイヌの血を引いており、札幌の特高警察として働いているのですが、これまで様々な差別を経験しており、同僚の三影美智雄からも差別的な態度をとられています。
それでも、八尋は大日本帝国に奉仕し、天皇のため、国のために仕事をすることに一切の疑問を持っていません。

※アイヌというと、「ゴールデンカムイ」を思い浮かべる方もいるかと思います。自分は、ゴールデンカムイを全巻読んでいますので、アイヌの言葉や文化について、多少の知識を持った状態で読めました。
「ゴールデンカムイ」を読んでから、この「凍てつく太陽」を読むと、よりいっそう楽しめるかもしれません!

ざっくりとしたあらすじを順を追って説明します(ネタバレ注意!)
(登場人物の詳細は割愛)
・八尋が朝鮮人労働者たちが働く室蘭にある工事現場のようなところに潜入
・その場所から、逃亡しようとした朝鮮人労働者(ヨンチュンこと宮田)を
 逮捕→ヨンチュン(宮田)は網走刑務所に投獄
・工事現場のお偉いさんが殺される。犯人はスルクと名乗り、殺人現場に血
 文字を残す
・八尋が犯人とし、三影によって逮捕される(冤罪)→八尋も網走刑務所に
 投獄され、ヨンチュンとまさかの再開。
・頑張ってヨンチュンと脱獄する。その際にソ連のスパイに助けられる。
・真犯人を捕まえるために、再び室蘭へと向かう。
・真犯人とは…
ざっくりとですがこんな感じです。
これに並行して八尋を差別していた三影視点のストーリーも展開されますが、ここでは割愛します。

本作を読み終わって、まず単純にミステリーとして面白い!と感じました。
最後のどんでん返しにも驚きましたが、真犯人が明らかになるまでの展開も面白かったです。
しかし、一番は印象深いのはこの小説の一つのテーマとして考えられる
民族についてです。
特に、印象的な終章での八尋の心情説明、

「アイヌでも、皇国臣民でもなく、一人の人間、日崎八尋として、正しいことを。多分これからくるのは、そういう時代だ。」

という文は、現代社会にも通ずることではないかと思います。
終戦から70年以上たった現代でも、黒人差別は国際的に大きな問題であり、民族ではありませんがLGBTなどマイノリティーに対しての差別もなくなっていません。
このように考えると、終戦から70年経過したにも関わらず、八尋のいう「そういう時代」は未だ訪れていないのかもしれません。
~ファーストなど、自国第一主義なる考えが欧米に広がっており、今後この考えがよりいっそう強まり、外国人を排斥するような動きも強まれば、再び大きな戦争を引き起こしてしまうのではないかと不安にさえなります。
そうならないためにも、まずは一人一人が本当の思いやりを持って、人と接することが大切なのだと思います。
民族や肌の色で人を判断しないような、世界が実現してほしいです。
やられたらやり返すのではなく、どこかで誰かが我慢しなくては負の流れは止められないのではと思います...

本格ミステリーでありながら、民族差別という社会的テーマを扱った本作は間違いなく傑作です!
社会派ミステリーでどんでん返しも味わいたいという方にはおすすめです!

以上です。ありがとうございました!

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