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奇妙奇天烈な流域治水報道

奇妙奇天烈な流域治水報道。 4月28日の流域治水関連法案改正案国会通過を機会に、毎日新聞が鶴見川流域に力点を置いた、不思議な流域治水の報道をしています。2019年秋の台風19号で鶴見川が氾濫を回避できたことを詳しく紹介しているのですが、そ...

Posted by 流域・日本(Watershed・Japan) on Wednesday, May 26, 2021

これから歴史改ざんが始まるのかもしれません。

流域治水関連法が成立しましたが、土台となっているのは40年前から鶴見川流域で実践されてきた「総合治水」。

そして具体的な中身は「鶴見川流域水マスタープラン」。これを読めば防災、減災、生物多様性保全と自然共生、気候変動の緩和策と適応策、市民・自治体・企業・NPOとのパートナーシップなどが具体的に理解できます。企業のCSR担当者にはSDGsよりもこちらの方が断然オススメです!


以下、流域治水報道に関する岸由ニ慶應義塾大学名誉教授のコメントを転載します。


奇妙奇天烈な流域治水報道。
4月28日の流域治水関連法案改正案国会通過を機会に、毎日新聞が鶴見川流域に力点を置いた、不思議な流域治水の報道をしています。2019年秋の台風19号で鶴見川が氾濫を回避できたことを詳しく紹介しているのですが、そこに書いてあることは、以下。
「台風19号で氾濫免れた鶴見川の流域治水:2019年の台風19号では100人超が死亡し、多くの河川が氾濫して被害が出た。だが、東京都町田市から横浜市鶴見区の東京湾に流れる1級河川の鶴見川流域は氾濫を免れた。背景には、関係者が流域治水の実現に向けて準備を重ねたことがある」。
さらっと読むとだまされるんですが、「関係者が流域治水の実現に向けて準備を重ねたことがある」って、いったいなんのことでしょう??? 総合治水という方式で鶴見川はすでに流域治水を先行して、40年。どうして、「鶴見川は総合治水という制度で流域治水を先取りして40年」って、書けないんでしょうか。解説をつけている学者さんは鶴見川総合治水のことも熟知しているはずの、もと国交省キャリア職の学識さん。記事全体の構成、鶴見川の紹介の仕方も,指南したんでしょうね。鶴見川についての説明間違いだらけって、気づかなかったんでしょうか。
さらに、
「国土交通省京浜河川事務所によると、鶴見川は全長42・5キロ、流域人口は約200万人。かつては流域で堤防の決壊が度々起こり、1958年の狩野川台風の際は約2万戸超が浸水した。被害を教訓に、国や地元自治体は堤防を整備し、遊水地の設置や水はけの良い緑地の保全を進めた。」。
 これも、歴史記述としては全くの嘘。京浜河川事務所の説明が正確に引用されているとは思えません。鶴見川が一級河川になったのは、1967年です。国が鶴見川整備に直に関与を始めるのはそれからですね。58年は市街地率10%。狩野川台風があまりに大きな雨だったので氾濫しただけ。その被害を教訓にして国や自治体が堤防を整備し、遊水地を設置したなんて事実はありません。1960~70年代の急激な市街化の進行で保水力、遊水力が激減し、1970年代半ばには、さしたる雨でもないのに1000件規模の浸水がおこるようになり、1975年京浜工事事務所(当時は工事事務所っていったんですね)に着任した近藤徹さんが主導して、鶴見川流域水防災計画委員会というのを立ち上げて、自治体をまきこみ、当時の建設省河川局の反対も説得して、河川法、下水道法だけでは実行できない、緑地の保全や、雨水調整地の設置を大規模にすすめて、治水安全度を向上させてきたんです。その制度を、総合治水、といいます。1979年、鶴見川初の努力を追認した建設省が、事務次官通達で総合治水制度を発進させ、1980年その第一号指定水系として鶴見川が指定されて、今年で41年なんですね。困った報道が、どんなワーディングで歴史を改ざんしてゆくか、本当に面白いです。
 鶴見川のことなら、元河川分科会の委員でもあり、鶴見川流域水委員会の現委員長でもある、東京大学名誉教授の虫明先生にインタビューすればいいだけですね。歴史の改ざんはだめです。
 ちなみに、「水はけの良い緑地の保全」ってなんでしょう。保水力の高い緑地を保全していますが、水はけの良い緑地を保全したら、水害の危険、高まっちゃいますね。めちゃくちゃです。
 流域治水を先取りした総合治水の歴史を、どうして、紹介せず、抹殺する言説が横行するのか、不思議です。

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