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オルタナのLIMEX批判について(その1)

昨年11月にオルタナがLIMEXを批判する記事を出して以来、現在もTBM社と揉めています。多くのCSRの専門家さん達もこの記事や一連の騒動を拡散してLIMEX叩きを展開しています。一部のLIMEXユーザーは利用を停止したようです。これを多くのCSRの専門家さんが喜んでおられます。ちょっと信じがたい光景です。

当社もLIMEXユーザーですので、仮にオルタナの主張する通りにTBM社が悪質な行為をしていたのであれば今後の利用を再考しますが、オルタナの主張を冷静に紐解いてみるとかなりの恣意、または悪意すら感じます。

まずは、事の発端となった11月の記事を検証します。

緊急連載「石灰石ペーパー類」は本当にエコか(上)
http://www.alterna.co.jp/28503
緊急連載「石灰石ペーパー類」は本当にエコか(中)
http://www.alterna.co.jp/28512
緊急連載「石灰石ペーパー類」は本当にエコか(下)
http://www.alterna.co.jp/28514

そもそも「地球上の石灰岩がすべて熱分解すると気温300度上昇」なんて書いている時点でトンデモ記事なのですが…😅

まず、このオルタナの記事で引用されているリンク先のTBM社のサイトに、LIMEXの生産量は年間3.6万トンとあります。そしてオルタナの記事中には以下の記述があります。

紙の代替品としてのLIMEXは、ポリプロピレンなど石油由来の樹脂約0.2〜0.4トンに石灰石約0.6〜0.8トンを載せて、合計1トンの「紙」を作る。

オルタナの意図を汲み取って、石灰石を最大限使用する場合を想定すると、石油由来樹脂:石灰石=4:6になります。LIMEXの生産量は年間3.6万トンなので、×60%=2.16万トン、つまり年間で約2万トンの石灰石を使用することになります。

次に、日本国内の紙の流通量に占めるLIMEXの最大の割合を試算してみます。
2019年度の日本国内の紙消費量は13,468千トンです(日本製紙連合会より)。
https://www.jpa.gr.jp/states/brief/index.html

つまり、LIMEXの生産量3.6万トンは日本全体の紙使用量の0.27%です。
これはLIMEXをすべて紙の代替として消費した場合になります。実際にはプラスチックの代替と紙の代替で用途が分かれますが、この比率が不明のためここでは100%紙の代替として使われると仮定しました。

次に、日本全体のプラスチック廃棄物量に占めるLIMEX生産量の最大の割合を試算します。
2017年度のプラスチック廃棄物量は940万トンです(環境省より)。
http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-s1r2.pdf  

よって、LIMEXの生産量3.6万トンはプラスチック廃棄物の0.38%です。
本来はプラスチックの生産量や消費量と比較すべきですが、プラスチックの廃棄が問題視されているので分母と分子が食い違うものをあえて使っています。当然ながら、生産量や消費量を分母にすると影響はさらにわずかなものとなります。

続いて、日本国内の石灰石流通量に占めるLIMEXで使用される石灰石量の最大の割合を試算します。
2018年度の石灰石出荷量は142,907千トンです(石灰石鉱業協会より)。
https://www.limestone.gr.jp/doc/index.htm

よって、LIMEXの石灰石使用量2万トンは全石灰石出荷量の0.015%です。

これらを前提条件として、以下でオルタナの記事を検証します。

古紙再生促進センターに確認したところ、「多量に入るとパルパーで目詰まりを起こすことがあり、操業を停止して取り除く必要」がでてくるとのことで、2012年にストーンペーパーを禁忌品A類に指定したそうだ。
つまり、LIMEXが混入することで、古紙リサイクルは重大な障害が生じる危険性があるのだ。http://www.alterna.co.jp/28512/3

上に書いた通り、TBM社で生産されるLIMEX製品がすべて紙の代替として消費された場合でも、最大で0.27%となります。これで配管が詰まって古紙のリサイクル業者さんが困るでしょうか。はたしてこの記者さんはLIMEXの市場での流通量まで考慮して質問したのでしょうか?まさか「石灰石が6割の古紙を処理したらどうなりますか」なんて質問はしていないと思いますが…。あまりにも現実離れした記述です。

データは調べていませんが、ここ数年で市場に出てきたLIMEXよりも、従来から利用されている他の禁忌品の方が古紙回収に含まれる割合ははるかに多いのではないでしょうか。

ちなみに、記事で取り上げられている「古紙ハンドブック2019」の禁忌品リストは以下です。 

3.禁忌品
  禁忌品は A 類(A-1、A-2)と B 類に区分する。
A類:製紙原料とは無縁な異物、並びに混入によって重大な障害を生ずるもので次のものをいう。
A-1 紙以外のもの
1) 石、ガラス、金属(工具、機械部品などを含む)、土砂、木片、布類、プラスチック類など
2) 合成紙、ストーンペーパー(プラスチックと鉱物でつくられているので、正確には紙でない)
3) 不織布(マスク、簡易お手拭など)
4) 使い捨ておむつ、生理用品、ペット用トイレシートなど (未使用のものを含む)
5) その他工程或いは製品にいちじるしい障害を与えるもの
A-2 紙製品ではあるものの製紙原料とならないもの
1) 芳香紙、臭いのついた紙 (洗剤・石鹸・線香などの紙製包装・紙箱・段ボール箱など)
2) カバンや靴などの詰物(緩衝材として使用済み昇華転写紙が再使用されることが多い)
3) 昇華転写紙 (捺染紙、アイロンプリント紙、主に絵柄など布地に加熱してプリントする際に使われる紙)
4) 感熱性発泡紙 (立体コピー紙、主に点字関係で使用されるもので、熱を加えたところが盛り上がる紙)
5) ろう(蝋) 段 (ワックス付段ボール (例:輸入青果物・水産加工品などが入った箱))
6) 食品残渣のついた紙
7) 汚れた紙 (油のついた紙、使い終わったティッシュペーパーやペーパータオル、ペットの汚物処理した紙など)
8) 医療関係機関等において感染性廃棄物に接触した紙
9) その他工程或いは製品にいちじるしい障害を与えるもの
B 類:製紙原料に混入することは好ましくないもので次のものをいう。
1) 金・銀などの金属が箔押しされた紙
2) 建材に使用される紙 (石膏ボード、ターポリン紙など)
3) 圧着はがき(親展はがきなど)
4) シール、粘着テープなど (但し、段ボールの場合、粘着テープは禁忌品としない。)
5) 防水加工された紙 (紙コップ、紙皿、紙製のカップ麺容器、紙製のヨーグルト容器など)
6) ビニール及びポリエチレン等の樹脂・アルミコーティング紙、ラミネート紙
7) 樹脂含浸紙、硫酸紙 (パーチメント紙)、ろう(蝋) 紙 (ろう(蝋) 塗工紙)
8) 印画紙 (写真、インクジェット写真用紙、アルバム)
9) カーボン紙、ノーカーボン紙 (宅配便の複写伝票など)
10) 感熱紙 (感熱ファックス用紙、レシートなど)
11) 抄色紙 (判定基準 A、B を除く)※
12) 新聞折込チラシ、雑誌、カタログに付随したサンプル類(シャンプー、化粧品など)
13) その他製紙原料として不適当なもの(複合素材の紙など) 

http://www.prpc.or.jp/wp-content/uploads/handbook2019.pdf

オルタナの記事の中では「ストーンペーパーが禁忌品である」ことを繰り返し強調していますが、古紙ハンドブックの禁忌品リストを眺めれば日常的に古紙回収に混ざるであろう紙類が多数掲載されています。

廃棄物処理工場を見学すれば誰でも分かりますが、古紙の再生工程では冒頭で分離装置を通りますのでほとんどの禁忌品は取り除かれます。この、ストーンペーパーが禁忌品であることを強調した記述によって、読者により悪い印象を与える効果があるように感じます。

エコロジカル・フットプリントの第一人者、同志社大学の和田喜彦教授は「石灰石採掘に伴う発破振動、騒音、粉塵飛散などの社会環境影響は少なくない」と警鐘を鳴らす。
さらに、「地形変化による残壁の崩落リスク、地下水脈の変化を引き起こす可能性や、景観の変化・損傷という問題も発生させる上、故郷の風景が大きく傷つくことへの故郷喪失感、いわば周辺住民の心の傷という問題も軽視すべきではない」と言及した。
http://www.alterna.co.jp/28512/3

こちらも上で試算した通り、LIMEXの石灰石使用量は全石灰石生産量のわずか0.015%です。
この先生がおっしゃっているのは一般的な石灰石採掘における環境影響であって、0.015%のLIMEXのことを指摘されているとはとても思えません。

海洋プラスチック問題の第一人者である東京農工大学の高田秀重教授は、「バイオマスベースの生分解性プラスチックや木や紙と石油ベースの汎用プラスチックの混合は、温暖化対策として効果があるが、マイクロプラスチック対策としては、効果がないどころか、汚染を助長する」(※1)とプラスチック複合品に対して注意喚起する。
プラスチック単体よりも、分解するものとの複合品の方がマイクロプラスチック化を早めるのだ。石灰石は生分解性ではないが酸に弱いこともあり、LIMEXなどの複合品はプラスチック部分のマイクロプラスチック化を促進する可能性がある。
http://www.alterna.co.jp/28512/3

こちらも同じく流通量0.038%を考慮していません。

それに、そもそもプラスチック製品と海洋プラスチックとの因果関係が無視されています。この先生のお話も一般論であって、LIMEXを含むプラスチック複合品を大量に集めて船で運んで海洋投棄すればの話ではないでしょうか。普通に家庭ゴミとして自治体の回収に出せばプラスチック製品も複合品も、海には流れません。

そもそもLIMEXは独自の回収ルートも多数ありますので、自治体のごみ回収に回る量は年間3.6万トン(最大でプラスチック廃棄物全体の0.038%)よりも遥かに少量になります。

武甲山は、北側斜面が良質な石灰岩であるため大正時代から採掘が進んだ山だ。特に山の形が変わるほど採掘量が増えたのは1970年代以降だといわれている。高度経済成長により、セメントの需要が急増したためだと思われる。
http://www.alterna.co.jp/28514/2
筆者の一人、栗岡も、想像を超えた武甲山の姿に言葉を失った。これが奥武蔵の名峰と称えられ、山岳信仰の象徴であった山だろうか。武甲山は、深田クラブ選定の「日本二百名山」にも数えられている。
http://www.alterna.co.jp/28514/3

延々と武甲山を取り上げていかにもLIMEXが自然破壊に荷担しているかのような印象操作をしていますが、TBM社に確認したら武甲山からは採掘していないそうです。これは取材すればすぐに分かるはずです。リサイクル業者や大学の先生など直接関与しない人には取材して都合の良いコメントを使うのに、当の生産者には取材せずウェブ情報の引用だけで批判記事を書くなんてメディアとしての最低限の良識も欠落していないでしょうか。
記事中にも大正時代や1970年代と出てきますがTBM社は創業していませんし、セメント需要とも全く関係がありません。この印象操作は悪質極まりないです。

最後に、今後LIMEXが爆発的に普及して、仮に日本全体で流通する紙を現在0.27%のLIMEXが100%代替したと仮定した場合にどうなるでしょうか(現実には地球上の石灰石を全て燃やし尽くすくらいにあり得ない話ですが)。

13,468千トンの60%なので、8,080千トンの石灰石が必要となります。つまり、仮にLIMEXが全ての紙を代替したと仮定しても石灰石使用量は142,907千トンの5.7%です。鉱山の自然破壊への最大の環境影響でこの程度となります(繰り返しますが、もちろんあり得ない仮定です)。

では仮に0.38%のLIMEXがすべてのプラ廃棄物を…もう良いですね。

私なんかが簡単に調べられるこの程度の公開データも見ないで、オルタナと言う有名なサイトがこんな記事を書いたり、CSRの専門家がSNSで拡散するのはいかがなものでしょうか。
せっかく出てきたBATを潰すことになりはしないでしょうか。
あるいは、社会課題を解決されたら困るのでBATを潰したいのでしょうか。

なお、当社では昨年度にCSR報告書をLIMEXで印刷しましたが、従業員から不要になった冊子を回収して、数千部をTBM社に戻してアップサイクルを実施しました。
何が言いたいかと言うと、上記の試算は3.6万トンすべてが廃棄される前提ですが、現実にはかなりの割合で回収スキームが確立されているので、さらに廃棄量や新規の石灰石採掘量は減るのです。

LIMEXユーザーじゃなくても、客観的に見てこの記事はひどすぎます。そしてこれを拡散したり製品のユーザーが減ることを喜ぶCSRの専門家の方々。。どうなってるんでしょうか日本のCSR。

ちなみに、当社はSDGsをきちんと理解した上で経営戦略に組み込んでいないので、「SDGsウォッシュ」と言われるのは二重に迷惑です😁(吹けば飛ぶような存在なので言われたことはありませんが)

その2に続きます。

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