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ベジタリアンの真実

ベジタリアンに対するスティグマ

Googleでビーガンと検索すると決まって「ビーガン うざい」「ビーガン 嫌い」などのネガティブな言葉が、検索候補に出てくる。

同感だ。ビーガン、ベジタリアン文化が欧米ほど盛んでない日本では特に、私もビーガンやベジタリアンに良い印象は抱いていない。私自身がベジタリアンであるにもかかわらずだ。鼻につく意識だけは高い系で、非ベジタリアンを軽蔑し下に見ているうるさい人たちのイメージが強い。もちろんそうでない人もたくさんいることは知っているし、そのような穏健な人の方が多数派かもしれない。だけれども、声が大きい人の方に人々の意識が向いてしまうのは自然なことであって、そのせいでせっかく多数のメリットがあるベジタリアニズムが毛嫌いされてしまうのは残念なことだ。善良なムスリムがISISと一緒くたにイスラム教と括られてしまうことに反対するように、私も他人に自分の思想を押し付ける過激派ベジタリアンと同類だと思われてしまうと、どうしても私は違うのだと反論したくなる。

ベジタリアンに対する負の烙印のせいで、ベジタリアニズムのメリットが十分に伝わっていないのは非常にもったいない。私はここ数年ヒッピーコミュニティとバックパッカーコミュニティで生活しているが、そこではベジタリアンが多数派で、ベジタリアンまたはビーガン食が食事のデフォルトだ。このような場所で暮らしているとよく分かるのが、日本ではベジタリアンは殺生反対からベジタリアニズムを選択すると思われていることが多いが、実際多くのベジタリアンがベジタリアンであることを選ぶ理由は他にもあって、殺生反対が最大の理由ではない場合も多数ある。この記事では、ベジタリアンやビーガンがそのようなライフスタイルを選ぶ理由とそのメリットについて、声をあげずに論理的に説明していく。

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ベジタリアンの理由

1. 環境保護

私が知る限りでは、環境保護を最大の目的とするベジタリアン(environmental vegetarianism)が一番多い。日本ではまだまだ知られていないコンセプトだが、欧米の環境先進国では肉食が地球温暖化を含む環境破壊の一因になっているということは一般的に知られた事実であって、シリコンバレーではMicrosoftのビル・ゲイツをはじめとした著名な投資家が環境保護のために植物性人工肉の開発に多額の資金を投資している。

BBCによると世界の温室効果ガスの約1/4は食品関連からの排出で、そのうちの58%は動物性食品に由来している。これは車とトラックから排出される温室効果ガスの合計よりも多い量だ。また国連のリポートによると、温室効果ガスの一種であり、二酸化炭素の25倍温暖化効果が強いメタンの37%は家畜用の牛などの反芻動物から生成されている。またこのような家畜が、酸性雨を引き起こすアンモニアの総生産量の64%を担っている。人間が排出する亜酸化窒素のうち65%は家畜からの排出であり、亜酸化窒素は潜在的に二酸化炭素の296倍温暖化効果がある。地球温暖化だけでなく、バクテリアや薬剤やホルモン剤、抗生物質を含んだままの糞は最終的に河川や海へと流れていき、水質汚染を引き起こす。それに加えて健康的な環境で家畜を飼うにはある程度の広大な敷地が必要になり、森林伐採が進行していく。

スウェーデンの科学者Kimberly Nicholasが指摘したように、車移動を止め飛行機移動を減らし、産む子供の数を一人少なくすることに加え、植物性の食事に切り替えることは、地球温暖化に対抗して個人でできる重要な行動の一つだ。

2. 動物愛護

もちろん動物愛護の観点からベジタリアン生活を選ぶ人はたくさんいる。しかし間違えないでもらいたいのは、動物愛護と反殺生は必ずしもイコールではないということだ。

人間のために動物の命が奪われるのは悲しいことだ。現代社会では人間は必要以上に肉を食し、生き物の命が「消費」されている。過剰な肉食文化には賛成しかねる上に、できるだけ命の消費がなくて済む世界を夢見ているが、多くのベジタリアンが動物愛護に関して一番に問題視しているのは、動物の死そのものではない。彼らの生き方と死に方、というより生かされ方と殺され方だ。日本を含む動物愛護後進国では、家畜は身動きも取れないような狭いケージの中で一生を過ごす。寝食も排泄も同じ場所だ。。彼らは、病気が簡単に蔓延するそのような環境で感染症にかからないように過剰な抗生物質や成長のためのホルモン剤を投与される。生まれてすぐに母親から分離され、商品価値のないものはすぐに「捨てられ」てしまう。ベジタリアンの中には、このような劣悪な環境にいる動物たちを保護するために、放飼いで飼育されている家畜の卵や乳製品のみ摂取する者もたくさんいる。

人間とは雑食動物だ。私たちが生きていくのに必要な栄養素の中には、動物からしか得られないものもある。だから命を頂くことはしょうがないのかもしれない。しかし、人間の贅沢のためだけに同等に尊い命の一生が無下に扱われることはあまりにも残酷すぎる。

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3. 健康志向

ベジタリアンの食事は簡単に想像できるように、もちろん健康にも良い効果がある。Harvard Health Publishing によると、肉食を避けることで肥満が防げることはもちろん、心臓病、ガン、糖尿病のリスクが軽減される。ビーガン食では十分なカルシウムが取れないと心配になるかもしれないが、カルシウムはブロッコリーやケールなどから摂取可能だ。ベジタリアン食は特定の疾患のリスク軽減には役立つが、ビタミンB12など動物性からでしか摂取できない栄養素が欠乏してしまうことがあるので、ビーガン食を実践するなら栄養食に気をつけなければならない。

私自身も、完全なベジタリアン食に転校してからの方が体調が格段によくなった。体全体がすっきりした感覚で、自分が今必要な栄養素を素直に体が訴えてくれるようになった。内臓への負担が減っているのを実感できる。ベジタリアン食ならば、お腹いっぱいに食べても気持ち悪くならず、肉食よりも心地のいい満腹感が味わえる。

4. 人口爆発問題

世界の人口が爆発し2050年には97億人に達すると言われており、今のような肉食中心の食生活のままでは世界中の人々に食糧を提供することはできず、食糧の供給量を70%増やさなければいけないとも言われている。日常的に肉を食す人はベジタリアン食の人の約20倍もの土地が必要と考えられている。さらに現在地球上の不凍地のおよそ30%が家畜用または家畜が給餌する穀物用に使用されている。8億人が飢餓で苦しんでいるというのに、穀物の大部分が家畜に提供されているのだ。1997年のコーネル大学の研究によると、アメリカ全土では野菜や果物、豆類の栽培に1300万ヘクタールが使用されているが、家畜に与える穀物の栽培には3億200万ヘクタールも使用されている。また、欧米諸国で家畜に与えられている穀物を人間の消費に回せば、少なくとも今の2倍の人口に食糧を供給できるという研究結果もある。家畜に与える穀物を人間に回すことで、救える命がたくさんあるのだ。

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5. 金銭面

ベジタリアン食はお財布にも優しい。日本ではベジタリアンとオーガニックやマクロビが常に結びついていてブランド化されている面もあるので、必ずしもベジタリアン食の方が安価というわけではないが、アジア圏では特にベジタリアン食の方が安上がりだ。前述のように食肉用の家畜を育てるにはそれに供給する穀物が必要であって、その分コストがかかる。

6. 宗教

欧米諸国ではあまり見られないが、宗教的理由からベジタリアンになる者もいる。ヒンドゥー教では牛肉はもちろん全ての殺生を禁止している地域もあり、卵を含み動物性食品が全く手に入らないことも珍しくない。

まとめ

私自身は、ほぼビーガン食を実践している。「ほぼ」というのは、たまに自分の体がプロテインを欲する時や体調不良で体力が必要な時には、倫理的な方法で動物性食品を頂いている。元々肉も乳製品も好きではないけれども、どうしてもチーズが食べたい時は、無理をせずに少しだけ頂いている。無理に我慢すると結果的に長期でベジタリアン食を実践できなくなると自分の性格上知っているからだ。

それでいいのだ。一人の人が完璧なベジタリアンになるよりも、たくさんの人が部分的なベジタリアン生活を送る方が、文化的にも環境的にもより大きな影響がある。私はベジタリアン食が大好きだし、様々な理由からそれを実践している自分の選択は間違っていないと思う。しかし、それを他人に強制する権利は何もない。食の楽しさを知っているからこそ、それを他人から奪う気にはなれない。それでもベジタリアニズムのメリットを知ってもらって、世界の状況を改善できたらと願っているので、もしこれを読んで少しでもベジタリアン食に興味を持ってもらえたら、できる限りでベジタリアニズムに親しんでもらいたい。サンフランシスコで流行っているように、月曜日は完全にビーガン食にしてみるのもいいだろう。たまにの外食にベジタリアン食をオプションに入れてみるのもいいだろう。たくさんの人が食事の際にベジタリアン食を選択肢に入れるだけで、世界は少しだけどいい方向に向かっていくはずだ。

参考資料

https://www.truthordrought.com/water
https://www.lunduniversity.lu.se/article/the-four-lifestyle-choices-that-most-reduce-your-carbon-footprint
https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/becoming-a-vegetarian
https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2010/jul/18/vegetarianism-save-planet-environment






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