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教員志願者減少に関する考察


「三位一体改革」の下で

非正規教員の増加

 2005年、小泉政権下の「三位一体改革」の中で、義務教育費国庫負担制度については、国庫負担率が2分の1から3分の1に引き下げられました。
国の負担割合が減り、地方自治体の負担割合が増えました。

 地方の負担が増えた分は財源が国から地方に移譲した上で一般財源化されました。結果としてそれまで義務教育費に用いられていた財源が、自治体の判断でそれ以外の用途に転用することが可能となり、教育費の縮小を招きました。

 自治体は教員の年齢構成が、団塊ジュニア世代が突出していて、彼らが定年を迎えると、一気に正規教員の数が減ることがわかっていました。

 一気に減った人員を新規に採用してしまうと、もし急激な少子化によって教員が余るようなことがあっても、正規教員をリストラすることはできません。そのため一定数を非正規で雇い、非正規教員をいざという時のための「調整弁」としているのです。

 そのため退職者が出ても、正規教員の任用は必要最低限にとどめ、非正規任用教員(非常勤講師)の任用を増やすことで、人件費を押さえつつ、人員を確保しようとしてきたのです。

 当時は教員採用選考の倍率も高く、不合格者が数多く非常勤講師を希望していたので、非正規教員で穴埋めすることは容易だったのです。

 結果として非正規教員は「調整弁」として使われてきて、キャリアを積んでいるのにいつまでたっても正規教員に合格できない(合格させない)非常勤講師が多く存在していたのです。

志願者減少というブーメラン

学校がブラックだという事が広く知れ渡った「#教師のバトン」

 昨今、教育界では教師不足が大きな問題なっています。実はその元凶ともいえるのが、この非正規率の高さです。これまで調整弁となっていた非正規教員自体が減少し、正規教員の穴埋めをできない状況に陥っているのです。公教育が安定を取り戻すためには、公立学校の非正規化に歯止めをかけることが求められています。

 ところが昨今は教員採用試験の受験者数が減ったことで、不合格者の数がそもそも減少しています。加えて不合格者の中には、民間企業に就職する者も少なくありません。その結果、多くの自治体が辞めた非正規教員の代わりを補充できないでいるのです。

 この状況を改善するための方策は、大きく2つあります。1つ目は採用試験の受験者を増やすこと、2つ目は採用試験の合格者数を増やして非正規率を下げることです。逆に言えばこの2つ以外の方策はありません。

 1つ目については昨今、教員の過酷な勤務実態が明らかになり、受験者数は減少し続けています。文科省では2021年からツイッターなどで教職の魅力を教師に発信してもらう「#教師のバトン」プロジェクトを始めましたが、その狙いに反して過酷な労働環境を訴える投稿が相次ぎ、状況は好転するどころか悪化傾向にあります。

 2つ目の採用試験の合格者を増やすことは、各自治体の裁量次第で実施できます。しかし、各自治体が抱える厳しい財政状況から、現状はどの自治体も合格者数を増やそうとはしていないし、そもそも優秀な人材が集まらないので、合格者の中に不適格者が増えているという深刻な問題も発生しています。

 常勤の非正規教員は、正規教員とほぼ同じ内容と責任の仕事を負わされるにもかかわらず、待遇面では正規教員に劣っています。自治体によって差はあるが、給与額やその昇給幅、有給休暇、退職金などは、確実に正規教員に比べて悪い条件です。

 加えて、有期雇用という弱い立場につけ込まれ、時には問題のあるクラスや面倒な校務を担当させられることもあります。そのうえ、有期雇用なのでいつ雇用契約が途絶えて失業するかもわからないなかで働いています。残業手当は一切出ませんが、月100時間を超える残業を強いられることもあるのです。

 このまま非正規教員に依存し続けていたら、教育活動のストップを余儀なくされかねません。そうならないためにも、公立学校の非正規化を食い止め、正規率を高めていくことが必須となります。

教職を魅力ある「職」に戻すことは難しい・・・

 今となっては魅力を失った教職に、優秀な若者たちが志願することは考えにくいです。

 もう一度教職を魅力ある職にするためには、

1.本来の教員の職務(学習指導・児童生徒指導)に集中できるようにそれ以外の業務を担う人材を確保し、全学校に配置する。

2.給特法を廃止し、時間外勤務についても、残業代を支給するなど労基法の下で教員の待遇改善を図る。

3.冠教育(〇〇教育)を学校に押し付けない

 この3点が絶対に必要だと考えています。

1.はヒトの確保です。教師の自主的な活動だとうそぶいて、無制限に押し付けてきた「部活動」は学校と完全に切り離して専門職としての「部活動指導員」を任用して職務に当たらせればいい。世の中には中高生に部活指導をしても良いという人材が少なからず存在します。その人たちが職業として部活指導ができる体制を整備することが必要です。

2.給特法はもう限界です。50年前の規準で残業を評価するなど、ナンセンスも甚だしい。教員の職務を労基法の範囲内に収まるように減らすのが本筋です。

3.平成から令和にかけて、無尽蔵に増え続けてきた冠教育(オリパラ教育やガン教育等)を全部廃止する。いくら子どもの教育にとって有用だからと言って、すべてを学校に押し付けるのは間違いです。学校を本来の教科指導と生徒指導の場に戻さないと、学校は破綻します。

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