堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
314.吸血蝙蝠
さて、如何に察しが良くても、ここまで詳細な内容を知らなかったコユキは、留まり続けた激戦の場を後にする為に立ち上がったのであった。
「ご馳走様でした!」
コユキの足元には、綺麗さっぱり、一匹も残さずに食べ尽くされたハチノコ抜きの蜂の巣残骸が転がっていた。
事情を知らないとは言え…… あとで内臓美人、ペナンガランと一悶着無ければ良いが? そんな懸念を感じてしまう可愛い孫、私、観察者であった。
立ち上がったコユキの目の前にさっきまで無かった立て看板が公時のクラックの場所を示して現れるのであった。
公時のクラックはこちら→ 頑張れ! あと一踏ん張りだぁ!
「面白いじゃない、誰だか知らないけど全部あんたの掌の上ってことね、んじゃあ踊ってやるわよ、掌ステージでね! 気を付けなさいアタシ、ちょっと重いかもよ?」
チョット所では無く重たいコユキの体重は現在三十一貫、百十六キロを越えていた、そっぷ型の力士だったら充分に渡り合える目方である。
言い終えるや否や、ここまでと違い本気の本気、オルクスの『神速(グリゴリ)』並の速度を誇る『加速(アクセル)』で移動を始めたコユキ。
「疲れんじゃん! やだよぉ!」
善悪やトシ子の前では出し渋っていたスキルを惜しみなく使う辺り、結構鬱憤が溜まっていたのか? それとも口とは裏腹に同じ女性として悲嘆に暮れていたペナンガランを利用した事に人並みの義憤を感じたのかは定かでは無いが、オールスターズのメンバーの言葉を借りれば、本気の本気、全力で全力だあぁっ! って感じがビシビシ伝わってくるのであった!
その後も数箇所に業とらしく設えられた案内板の示す通りに方向を変えて疾風すら置き去りにする勢いで通り抜けてきたコユキは、気が付けば鬱蒼とした暗い森の只中に立っていたのであった。
「んあ? 暗いわねここ」
コユキが言った瞬間、まるでそれが合図だったかのように周囲に羽音が響くのであった。
虫とも鳥とも違う、パタパタパタパタと言った乾いた羽音、その音の正体は時を置かずコユキの知る所となる。
ガッ! チュ――――!
コユキの首に噛み付いたパタパタ音の主、その何者かが、取り付いた瞬間勢い良くコユキの体内から大切な液体、血液、血を吸い始めたのであった。
「きゅ、吸血蝙蝠? くっ! また、面倒な!!」
バシィッ!
裏拳で首に噛み付いていた蝙蝠を打ち砕きつつコユキは吐き捨てるように言ったのであった。
ふと見上げれば、空を覆う数え切れないほどの漆黒の翼が目の前を覆い尽くしていたのである。
コユキは両手に虎の子のかぎ棒を確りと握りしめて声を発するのであった。
「来いっ! 喰らえ! 『鎌鼬』!」
コユキの手から飛び出した二本のかぎ棒が縦横に高速回転を繰り返し、全方位に向けて鋭い風の刃を飛ばしたのであった。
数十の刃が空中を埋め尽くした蝙蝠の群れに襲い掛かった。
「よしっ!」
拳を握るコユキであったが、翼や胴体を切り裂かれ落下した蝙蝠の数は思っていたよりずっと少なくて、大体そうだな? 十数匹だったであろうか。
「ぐぬ、思ったより頑丈みたいね」
口惜しそうに呟いたコユキの声に、背に負ったリュックから落ち着いた指摘が返された。
『その通りじゃよ、聖女コユキよ、それ、今こそ我々アーティファクトを身に着ける時じゃのぉ! そこらに落ちてる蔦を腰に縛り、直ちに麿と綱を差すのじゃ! ほれ、急がんと血が無くなるぞい?』
ガッガッガッ! チューチューチューっ!!
リュックに入れていたライコーの言葉を証明するかのように、吸血蝙蝠がコユキの手足と頬に噛み付いて、臭いであろう血を吸い始めるのであった。
「痛たたたたたた! ちきしょー! 『散弾』!」
至近距離でスキルを使用したことで、かぎ棒の制御が途絶えたらしく、ポトポトとコユキの少し前方に力無く落下してしまったが、代わりに手と足、パンパンの頬から血吸い蝙蝠を叩き落す事に成功したのであった。
そのまま、鈍重ではあったがゴロンゴロンと天を埋め尽くした蝙蝠の群れから距離をとったコユキは、脇に落ちていた蔓を手にすると素早く自分のでっぷりとした大きな腹に巻き付けると、ライコーに言われた儘、二振りの太刀、『鬼切り丸』と『蜘蛛切り』を差込み、ついでとばかりに漆黒の和服、『闇夜の内掛け』を着込むと自分に向かって襲い掛かってくる蝙蝠達をきっと睨んで構えを取るのであった。
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拙作をお読みいただきありがとうございました!
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