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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
673.従者

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 金色の薄い奴、アヴァドン曰く、副将のウコバクとか言っていた奴が背後のサタナキアに言った。

「我君! ここは我等に任せてお逃げ下さい! さあ、お早く!」

「お、おう…… すまんな」

 弱々しい手下達に任せて、取り合えず自分だけこの場から立ち去ろうとするサタナキア、清々しいほどのクズっぷりである。

 ガシッ!

 背を向け走り出したサタナキアの腕を力強く掴んで止めたのは純白の悪魔であった。

「お、オルクス?」

「馬鹿め、今ここで部下を残して立ち去ったりしたら、未来永劫全ての悪魔達から軽蔑される事になるぞ! ここは留まって己の矜持きょうじを示せ! と言うより弱っている手下を置き去りにしてどうする!」

 吐き捨てるようにでは有ったが、偽者だったとはいえ長く副官として使えてきた習慣だろうか、中々にナイスなアドバイスをしたオルクス。
 サタナキアも納得したのだろう、オルクスを一瞥いちべつすると、元居た場所で背を揃えている部下たちに数歩足を進める。

「大丈夫です我君、どうぞお逃げを!」

「その通りです、なーにすぐ追いつきますんでご心配なく」

「そうですよ、こんな所で死ぬ気はありません! ご安心を」

「俺、これが終わったら結婚するんです」

「後で一杯奢って下さいよ」

「大丈夫、今日はいつに無く体調がいいんだ」

「ほんのかすり傷ですよ、唾でも付けときゃ治っちまう」

「私、生きて来て今が一番幸せ」

 サタナキアを逃がそうとしての行為だろう、口々に死ぬ気満々の言葉を発する魔将たち。
 思わず足を止めたサタナキアに横から掛けられた声は三つである。

「我君、この者達の気持ちを汲んでここはバックレ、いや撤退しましょう」

「そうです、我等がお供をいたしますので、ささっこちらへ」

「行きましょ行きましょ!」

 声の主はアモン、プルスラス、バルバドス…… サタナキアの原初からの側近達である。
 つられる様にきびすを返したサタナキアの前には再びオルクスが立ち塞がり、先程より一層非難の色を濃くした厳しい叱責を始める。

「だからっ! ここで逃げ出しちゃ駄目だって言っただろうが! どうしても逃げると言うのなら、せめて、あの死に掛けの連中、魔将たちも連れて行けよっ! さっきの言葉聞いて置いて行くとか…… 馬鹿過ぎるだろう! アイツ等死ぬよ? マジで!」

「マジか? やっぱフラグだよな、そうか駄目か?」

「駄目だ!」

 いつの間にか移動していたモラクスがアモン、プルスラスをパズスが、ラマシュトゥがバルバドスをそれぞれ羽交い絞めにして拘束している。

「は、離せ!」

「この馬鹿力めっ!」

「う、動かん、馬鹿な…… コイツは四天王最弱の筈……」

 サタン自身もオルクスに首根っこを掴まれてコユキの前に引き出された。
 冷たい視線を向けるバアル、アスタロト、善悪である。
 一方コユキはサタナキアに対して優しい微笑みを向けて穏やかな声音だ。

「ねえ、逃げたってどうしようもないじゃないの、さっきの叫びから察するにアタシ達ってか、ルキフェルの代わり、それが嫌なんでしょ、違う?」

 サタナキアはおずおずとした様子であったが、はっきりと答えた。

「当たり前だ、偶像だのゴミだの挙句の果てに下働きと来た…… そう言われてはいそうですか、と従う悪魔がどこに居る…… 俺は俺だ、貴様等の代わり、予備ではない」

「ふーん判ったわ、んでも代わりが嫌ならアンタなんでそんな格好してんのよ? その金色のモールで作ったっぽい三対六枚の翼って天使時代、所謂初期のルキフェルの真似よね? 名前もかたってたんでしょ? なんでなの?」

 恐らくムスペルにあると聞いたホームセンター辺りで買ってきた材料で、一所懸命こしらえたのだろう。
 パッと見光り輝くスペクトラムで構成された翼は、良く見るとハミ出した接着剤や金色の装飾が剥がれて芯に当たる針金が露出した部分を補修したらしい部位など、努力の跡が散見されるのだった。
 リュック的に両肩で背負う為のショルダーはサタナキアの肌色に合わせて目立たなくしているらしい、中々凝っている。
 手の掛かり具合から、後期ルキフェルの六対十二枚の翼まで再現する事は諦めざる得なかったのであろう、そう察せられた。

 偽翼にせつばさを指摘された瞬間、サタナキアは首まで真っ赤に染めてうつむいてしまったが、コユキの質問には律儀に答えた。

「それは…… 急に俺が仕切るとか言って混乱が起こる事を望まなかったからだ…… アモン、プルスラス、バルバドスと相談して、他の者にはルキフェルだと思わせる、そう決めたのだ…… その内、言い出す機会を失ってしまった…… 今更正体を明かしても誰も付いてこないだろう…… 仕方なくだ、いやいやながら己を偽っていたのだ……」

 コユキは溜息を吐いて呆れた顔を浮かべたが、例によって表情は肉のせいで変わらなかった。


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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