堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
345.二人は子供の頃のまま
スタスタと善悪に近づくコユキはまたもや足止めを食らうのである。
「グルウゥ」
鼻を近づけて再会を喜ぶタマちゃんと子分の二頭の出迎えを受けてコユキは丁寧に言葉を返した。
「アンタ等もお疲れ様ね、あっちでちょっと大人しくして置きなさい! ほら牛乳とかハムとか食べてなさいよ! 後で又ね!」
「「「グ、グルゥ!」」」
カイムの翻訳も無しで何故だろうか?
コユキの言葉は野生動物、いいやモンスターとなってしまった熊達にも伝わっていた様であった。
大人しく牛乳とハムの元へ戻る熊達三頭の素直な行動がそれを証明していたのである。
その間に倒れているオルクスと、その横で狸寝入りを決め込んでいる善悪に近づいたコユキが呆れたような声を出すのであった。
「ねえ、善悪……、そろそろ本気で向き合わないとヤバいわよ? ほら、さっさと起きなさいよ! アンタだって分かってるんじゃないの? こんな誤魔化しなんかこれからは通用しないんだって事位さぁ、ねえ、違う?」
ほんの数秒を経てムックリと体を起こした善悪がコユキに向かって答えたのである。
「ま、まあね…… んでも、ずっと今迄みたいに二人でふざけていたかったのでござるっ! 僕チンは兎も角、コユキちゃん、コユキ殿までこんな不意に齎された戦いに巻き込まれて…… その、死んじゃうなんて嫌だったので、ござるっ! ううぅ、うううで、ござるっ!」
「善悪……」
コユキは思った、なんだ全然変わっていなかったんだなぁ、と。
泣き虫の善悪は泣き虫のままで、アタシが守ってあげないといけない存在で…… 対するアタシはアタシのまんまで…… か…… ははは、なははは、そうか、そう言う事なんだよね……
私が経験で感じたコユキの思いはそうであったのである。
コユキは立ち上がった善悪の手をしっかりと握って言うのであった。
「さあ、庫裏に上がろうよ! 色々報告しなきゃいけない事もあるんだよ、善悪! さ、行こうっ!」
「う、うん…… 判ったでござるよ、コユキ殿」
十数分後、善悪はコユキに向かって大きな声で告げたのであった。
「はあ? 何考えているのでござる? 馬鹿じゃないの! もう、どうするのでござるか! んもうっ! ホント馬鹿! 本当に、バカなんだからっ!」
「ご、ごめんね善悪…… えっと、こ、これからどうすれば良いか、な……?」
「んなの知らないでござるよっ! 自分で勝手にやった事でござろうっ! 自分で考えれば良いのでござるっ! プンっ!」
「……しゅん……」
主客転倒、であった、トシ子もアスタも激怒ぷんぷん丸の善悪には何も意見できずに黙り込んでしまい、この日はいったんお開きとなった、いいやせざるを得なかったのである。
翌朝、トシ子とアスタを伴って幸福寺に戻ったコユキは下を向いたままで何にも言えず、善悪の言葉を待っていたのであった。
善悪は肩の上にオルクスとモラクスを乗せた状態で言った、両の眼の下は濃いクマで真っ黒であった、多分寝ていないのであろう。
「にしても、アーティファクト五つの内四つをなんだか判らない存在に譲ってしまうとは…… リカバリ不可能な失態でござるっ! 本気で反省してよねっ! コユキ殿っ!」
「う、うん、ごめんね善悪…… でもね、でも交換したアーティファクトって本当に凄い物だったのよ!
それを見てから判断して、ねえ、善悪! ワンチャン頂戴! ワンチャン! お願い!」
「…………判ったでござる、そこまで言うのであればワンチャンだけね…… 皆を集めてくるでござるから、そこでそのアーティファクトの能力を披露してみるでござる、んでもなぁなぁでは済まさないのでござるよ! 覚悟せよっ! で、ござるっ!」
「う、うん、判っているわよ! 覚悟ありっ! よっ!」
寺の中から集められたのは人間サイズのアフラ・マズダの旧大罪の七人とアスタロト、意外にもいつも一緒にいるイメージのトシ子は自発的に幸福寺の畑のお世話で欠席、そもそも庫裏に入れないサイズのタマちゃんはじめ熊達は境内でまったりとしていて不参加、オルモラを除くスプラタ・マンユの魔王達は回復に専念する為に本堂から動けずで、思ったより少ない人数でのお披露目となったのであった。
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拙作をお読みいただきありがとうございました!
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