【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
568.遠征 東京都調布市
強引に善悪和尚を納得させたコユキは、二時間後、深大寺裏手に広がる植物園の入り口に立っていた。
新幹線と京王線、調布駅からはいつも通りタクシーで目的地に肉薄していたのであった。
絆通信は善悪とだけ、その縛りプレイを守った上で尚、余裕綽々の風情であったのである。
『ヤッホー善悪! どう? あとどれ位なんだろう? オルクス君に聞いてよぉぅ!』
通信に答えた善悪はまだちょっと懐疑的な様である。
『あ? ああ、うん着いたの、ふーん、で、何? ああ、レグバとの距離ね、距離か…… うん、まあ聞いてみるけどね…… それより〇ンボット3の件でござるが、目途は立っているのでござるか? 安請け合いしっちゃった、テヘペロ、とか言っても絶対許さないのでござるからね? 分かってるの? もうもうもうっ! でござるよ? コユキ殿ぉ! ん、何? ああ、そうなのでござるか! なんかね、オルクス君が目の前だってさ! そこら辺適当に突き捲れば良いってさ、んじゃぁね、頼むよ? ザンボッ〇3、じゃあねっ、でござる……』
コユキの溜息はいつもより深い物であった。
思わず呟いてしまった独り言はこうである。
「全く善悪のフリークっぷりったらどうしようもないわねぇー! 本当に子どもの頃から一ミリも変わらないんだから! 昔から変な拘りが強すぎたからねぇー! んでも、いつの頃からかやけにお人形ばっかり好きになっちゃったんだよねぇ? 何であんなに歪なオタクになっちまったんだか? 嘆かわしい事この上ないわね、やれやれ全く、だわねぇー…… んまあ、それは兎も角、さてと、やるとするかね、ほれ! プスプスプスプスプスッゥ! とな!」
パッキィーン!
オルクスの言葉通り、目の前にクラックの入り口は有った様である。
偽装のマジカルマテリアルを除去したコユキは目の前に具現化した景色を見て驚愕の声を上げたのである。
「こんにちわぁー? ってか留守かな? んにしても何よっ、これぇ! んんんん、只の掘っ立て小屋じゃないのぉ? これ、本当に偉い運命神様のクラックなのかな? コユキ甚だ疑問なのよぉぅ!」
コユキの嘆きも無理は無い。
深大寺裏手の林の中に顕現したクラックの中に有った物は、フェイトの祠やフューチャーのビパーク場所であった、なんちゃってコール〇ンキャンプ場、実の所遭難者の遺品だけで作り上げられた快適そうな空間とは一線を画する、汚い筵を天井に林の中の段差を利用してそこらに落ちている枝や棒を柱に見立てた、貧乏くさい小屋、小屋? 雨露を凌ぐ、そんな哀れに過ぎる建物だったのである。
三方を囲んだ壁も屋根と同様筵を提げて囲んだだけの物で酷く頼りない代物であった。
玄関、というか入口なのだろう一面は粗い葦簀、いや吊り下げているタイプだから簾だな? が、ぶら提げられているが、侵入を阻むと言うよりは室内の目隠し的な役割だと察っせられた。
事実、見た所鍵や錠前の類は見当たらず、この瞬間にも、風でパタパタと揺れる簾の隙間から室内の様子がチラ見えされていた。
大きく捲り上がるのを防ぐためだろうか、簾の外側には大き目の干し柿が幾筋も吊り下げられている、中々に郷愁を感じさせる趣という事も出来るだろう。
声を掛けた物の掘っ立て小屋から返事が聞こえて来る事も無く、暫く待っていたコユキは仕方なく簾をめくり上げながら小屋の内部を覗いたのである。
「お留守ですかぁ? デスティニーさーん、聖女が迎えに来ましたよぉ? っ! な、何よっ! 外見と違って滅茶苦茶ラグジュアリーじゃないのよぉ!」
外観よりずっと広い空間は何かの魔法的な処理が加えられているのか、それぞれの配置間隔を贅沢に使った高級そうでかつシンプルなデザインの家具が並べられていた。
ローソファーと並んで設えられているローカウンターとローテーブル、拘りなのだろうか? ベットも揃ってロータイプの物である。
全体的にグレーと黒を基調にしている室内はリラックス効果をも期待できそうである。
リキッドタイプのパヒュームがベルガモットの香りを満たす中、フラフラと入り込んだコユキの前には、ローテーブルの横に置かれたクリスタル製のキースタンドに無造作に引っ掛けられた腕時計の数々が目に入るのであった。
ブランドに詳しくないコユキであっても聞いた事がある有名な高級ブランドの物ばかりの様だった。
同じキースタンドには数本のサングラスもぶら提げられていたがこちらも揃って有名なブランドの物で有る。
例のバーンッとした奴や、ブル公がガリガリやったり、毛がスラーとしてたり、クロムがハーツだったり、トムがフォードだったり、グッがチだったり、ディーがタだったりする奴とかである。
「こりゃ凄いコレクションね…… 全部で幾ら位掛けたのかしら? 善悪のお人形とはまた違った狂気を感じざる得ないわよ…… っ! な、ナントォッ!」
感心の声を上げながらコユキがふと視線を移した先、あっと言う間に湧きそうなケトルの横に無造作に置かれた物を見つけて目を剥く結果となった。
帯封が付いたままの百万円とみられる札束が軽く二、三十も積まれていたのである。
思わず両手に取ってワナワナと震えながら見つめるコユキであった。
「あれ? 泥棒か? クラック内で、んな訳無いか、んじゃ誰だ? なあアンタ誰ちゃん? 俺ん家で何してる感じ?」
「っ!」
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