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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
333.オハバリ

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 成り行きを見守っていたコユキは勿論、ライコー達五人も何も口にしていない儘にままに正一さん、古い神様が気安い感じで口にしたのであった。

「おけい! んじゃあ、公時きんとき君一人を除いて四人のアーティファクトは俺の元に、腹掛けとこの『無限饅頭』のゴザをコユキさんに、それで皆納得したようだけど、聖女コユキ! それで良いかい?」

「えっ? ライコー様、つな君、卜部うらべっち、碓井うすいさん、それでいいのん?」

 覚悟が決まったからだろうか? 誰も声を届けてはくれなかった……
 聞かれてもいない公時、キンタロが言った。

『おう、コユキ! 俺はそれで良いぞ! 馬鹿の神様にしては良いアイディアだ! 受けとけよ♪ 皆納得済みだぞっ!』

 何勝手に話してんだ、この馬鹿は!
 それがコユキの偽らざる気持ちであったが、他に誰も返事をしてくれなかったので、仕方なく言ったのであった。

「うん…… 何か納得し切れた訳じゃないけど、みんなの総意ならそれで、アタシは良いわよ…… んでも、んでも非道いひどい事はしないでね? 神様、正一さん!」

正一は初めて優しい顔を浮かべてコユキに対して答えたのであった。

「ああ、こいつらの面倒は俺が見るし、こいつらの望みも出来る限り叶えて見せるよ、今迄に無くね! それに君だってそんなに悪い事ばかりじゃないと思うけどね? これからも厳しい戦いが続くんだろう?その為の助けにもなるんじゃないかな? そのゴザ…… ほら! 聞いたことは無いかい? 腹が減っては?」

「戦にならんっ!」

咄嗟に答えたコユキに向けて一層爽やかな笑顔を向けた正一さんは嬉しそうに告げたのである。

「そうさ、頑張ってねコユキさん、俺達も頑張る事に決めたよ、本来の自分が為すべき事に漸くようやく気が付けた気がする…… 君のお蔭かな? あんまり期待させちゃっても何だけどさ、俺達で君たち二人の運命、消滅の未来をさ、何とか回避できるように動いてみるよ! だから自分達で変に諦めたりしちゃ駄目だよ? お互いに頑張ろうね! ふふふ、ああ、そうだ! 俺の本当の名前を教えていなかったね? 覚えていてくれると嬉しいな、俺の名は『轟音ごうおんと雷撃をって道を切り開く』者って言われてるんだよ、異名は数え切れないから言わないけどね♪ どう? 憶えたぁ?」

「えっ? 『轟音と雷撃を以って道を切り開く者』? う、うん大丈夫よ!」

久々にライコーが声を続けてくれた。

『『者』ではないぞコユキ、『御方おんかた』と呼びなさいっ!』

「あ、う、うん『轟音と雷撃を以って道を切り開く御方』か、分かったわ、覚えたよっ!」

 答えた瞬間にコユキが身に帯びた二振りの刀と腰帯、美しい漆黒の内掛けが光となって消えうせ、目の前にいた正一の姿ももやの様に消え去って行き、彼の気さくな声だけが響いたのである。

「さらばだ、『真なる聖女コユキ』、混濁こんだくの王にして生命の守護者、ルキフェルよ! 此れより我らは修羅に入る、全てはお前の運命を変える為にな…… 生き延びる事が叶ったならば、生きとし生けるもの共ども全てを頼む…… 世界を、いや、もう言うまい、生命と知恵の神ルキフェルよ、お前に地球を託すぞ! しっかりやれぇいっ! んじゃな、又会おう!」

 溢れ出した光りの奔流ほんりゅうはコユキの視界を奪う事のみならず、空間の概念も無視して周囲の景色を一変させたのであった。
 眩しさに閉じた目を恐る恐る開いたコユキは、自分の置かれた状況に驚きの目を見開くのであった。

 その場に残されたのは、古めかしいゴザと、すすを落とし終えたカイム、でっぷりとしたコユキとキンタロさんの腹掛けだけであった。
 何故かクラックの入り口辺りに座らされた形で戻ったコユキの姿を見咎みとがめた、三頭の大きな熊達が嬉しそうに鼻を鳴らしながら近付いて来るのを感じながら、コユキは呟いたのであった。

「アリガト、アタシ頑張るわね、それに善悪にも伝えるよ…… 正一さん、いいえ、『オハバリ』様、ライコー様、綱ちゃん、卜部っち、碓井さん…… ぐすっ! わあぁぁん!」

 急に泣いてしまったコユキを慰めるように、『弾喰らい』のタマちゃんが肉塗れまみれの頬に舌を這わし、仲間である二頭の熊とキンピカキンに戻ったカイムは無言のままでコユキに身を寄せたのであった、暖かかったコユキはほんの少し笑顔を浮かべたのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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