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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
608.決闘の手袋 (挿絵あり)

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 女子高生はやはりかたりだったのであろう、急激に顔色を悪く変じさせて黙りこくってしまった。

 これで言い掛かりは確定だと思えたのに、嫁取りに必死な過疎の只中に居た、イキリ属性強めな男子が無謀にもコユキに言い放ったのである。

「なんだよっ! 途中からしゃしゃり出て来やがってぇ! おっさんは関係ねーだろうがぁ! 黙ってろよぉ! いいかチハル、今から俺がこの火傷野郎をぶっ飛ばしてやっからよぉ! 見てろよぉ、おいお前ぇ! た、タイマンだぁっ! 俺が勝ったらお前は痴漢! 俺が負けたら好きにすれば良いじゃないかぁ! 横合いから口出してんじゃねーよ、大きいおっさんよぉ!」

 コユキは思った、この女子高校生はチハルと言うらしいと……

 そしてさらに思ったのである、何でこのガキどもは女性であるアタシをかたくなにオッサンやオジサンと言い続けて居るのだろうか? と。

 そして思ったのである、北海道の方言って凄いなぁ、と。

 更にここ一年半の悪魔達との戦いの中で、チラチラ感じていた事柄にも思いを馳せたのである。

――――地方民って男性女性問わず『おっさん』って呼んでくるのよねぇ…… 方言か何かかしら? 全く嘆かわしい事この上ないわよねぇ、幾らアタシが秋沢明あきざわあきらの今は亡きお父さん、出歯亀野郎のツナギを着ているからって、おじさんは失礼過ぎるでしょうがぁ! ああ、あれか? 服が男性用だったらおっさんって呼ぶとか何とか? そう言うローカルルールがあんのかな? ん? んんん? つまりアタシの性別なんかどうでも良くて服装だけ見て判断しているって事ぉ? 原始人かよぉ? いやいやいやあながち無い話じゃないわね…… 何しろこの大田園地帯で育って来た野性民だもんねぇ、マトモな知識は無いんだろうねぇ、可哀想に…… とは言え、この田舎の不良、所謂いわゆる、ガキ大将の延長線上で何となく威張っているだけの小僧にオンドレが追い詰められている現状に変わりはないわ、何とかしてあげないと…… んでもこんなに見目麗しいアタシの事を躊躇なくオッサンとか言ってしまって己の愚を顧みない馬鹿タレに何か言っても通じるかどうかははなはだ疑問が残る所だわ…… 幾ら男の服を着ているからって…… ん? んんん? 男装の麗人? それにオンドレ? 〇ンドレぇ? アタシは? っ! はぁっ! こ、このキャップにある至高の御方おんかたはぁっ! あ、アライグマよねぇ? という事、わあぁ!

 コユキはキャップを外して自分に向けてから、深く息を吸い、さらに深く深く吐き出しながら声に出したのである。

「そうか、そう言う事だったのね…… 承知しました、創造神様達ぃ! ア〇ドレっ! 私の後ろに来なさいっ! そして貴女とイキリ捲りの彼には言いたい事があるわっ、アタシの前に立ちなさいよっ! ほらほら早くぅっ!」

「えっ」

「来いよチハルゥ! 俺が守ってやるからよぉ!」

 未だ嫁取りリーチに必死な男子と無理やり横に立たされた女子高生、チハルを前にコユキは堂々と胸を張って言ったのである。

「我が家の馬丁ばていであるアン〇レは、貴族では無い、とは言え、幼き頃から分け隔てなく育てられてきた、家族に他ならないっ! 彼への侮辱は、我がジャルジュ家に向けられた恥辱ちじょくとして受け入れようっ! 私の名は〇スカル・フランソワ・ジャルジュ! 我が家の名誉に挑戦する貴女に、決闘を申し込みますわ! アンド〇を辱める事は私オ〇カルが許しません! さあ、雌雄を決しましょう!」

 言い放ちながら、コユキは自分の両手に寒さ対策として善悪が付けさせてくれた軍手の内、右手に嵌めた物を脱ぎ去ると、女子高生を庇うように立ち塞がった男子高生の胸、その中心を目掛けて叩きつけたのである。

 中世から近世に至る欧州や米国、中南米のスペイン王国配下の国々であれば、正しく決闘を申し込む所作、その物であった。

 所謂いわゆる、決闘裁判、それであった。

 訴えられた際、身の潔白が立てられない場合の最終手段である方策だ。

 証明できないけどね、私の身は潔白なのよ?

 神様だけは知っているんだからね!

 んじゃ神様が私が正しいか、訴えた人が正しいか、決闘の結果で示してくれるでしょ?

 んじゃあ、やってみようよ! アタシ怖く無いしぃっ! って奴である。

 当然法治国家である日本で育った若者たちが知る筈も無い事であった。

 ましてや母国語たる日本語の誤用を繰り返している、少し足りない男女相手にである。

 何が何やら、見当もつかずおろおろしている学生に対してコユキは畳み掛けたのである。

「決闘の作法も知らぬいづれ成り上がりの貴族であったか…… 代々王家の守護たる我がジャルジュの誇りを見せてくれん、いざ尋常に勝負だぁ!」

 言いながら、コユキは軽い陶酔を感じていたのであった。

 幼き日に叔母ツミコにほぼ強制的に読ませられたあの名作、ベル〇イユのバラを……

 今男装の麗人たる自分の周りには、ベルサイユ宮殿の春から初夏を彩る真紅のバラが咲いているのだと思い込もうとしていたのである。

 しかし、残念ながらコユキには真紅のバラがどのように咲き誇るか、その知見が決定的に不足していたのである。

 バラってぇ……

 そんな感じであった。

 仕方が無いので同じく赤い花、実家でも良く見たお茶の仲間の赤い花、山茶花さざんかを思い浮かべる事で気分、いわゆるモチベを維持したのであった。

 真っ赤な山茶花を背景に決闘の答えを待ち続けて、口を真一文字に結び、覚悟を決めた感じのコユキ。

 それは、ほぼほぼ、大〇栄策大先生の姿に重なって見えたのである。 

 コユキが山茶花の咲き誇る宿で他人の妻との逢瀬を楽しむ男性の気分に浸っている間、中年女性の意味不明なセリフに度肝を抜かれてしまった学生たちはおろおろとしている事しか出来なかった。

 彼の名人、大川〇策大先生のハイトーンボイスが脳内で聞こえ続けて居ないとでも言うのだろうか?

 若者達はポカンとしていて、そう、何と言うか、馬鹿にしか見えなかった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!


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