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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
307.密教の修行

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 昨日、一日目の訓練前にイチャイチャベタベタしながら、善悪の魔力量の少なさについて適当に会話していたトシ子とアスタは、横で聞いていたスプラタ・マンユの七柱が口々に言った言葉に考え込む事となった。

 曰く、
 善悪がエクスプライムを使った時に、自分達の魔力がごっそり減ってしまう感覚を感じると。
 ムスペルヘイムに乗り込んだ時、死に掛けの善悪へ向けて魔力の流出をはっきりと意識した事。
 変わりにラマシュトゥが召されそうになり、必死にアヴァドンとパズスが守った事、である。

 オルクスが最後に言った。

「デモ、フダン、ハ、ソンナ、コト、ナイ、ヨ。 マリョク、ハ、チョット、ダケ」

「ほぉお~、そんな事があったのかえ」

「ふむ、分からんな…… まあ案ずるより生むが安しだ! 試してみよう! おーい、善悪ぅ! ちょっと来いよ! 善悪ぅ!」

アスタロトの呼ぶ声に善悪は本堂から顔を出して答えるのであった。

「なんでござる? 僕チンは今密教の方の修行中でござるのに…… 聖戦士の修行とは別個でこれはこれで大切なのでござるよ! んもう、全く! 只でさえ魔力が少ないのでござるに、修行をサボってこれ以上減ったらどうすんの? で、ござる!」

言っている間にアスタロトは本堂の入り口に近付き、善悪の手を取ると境内へと連れ出しながら言うのであった。

「そうかそうか、今『気』を練っていたのなら丁度良い、ちょっとスキル使ってみてくれないか? 出来ればシールドや身体強化みたいな動かないやつ、出来ればだが?」

言われて善悪は首を傾げながら答えた。

「んもう、唐突になんでござるぅ? でもまあエクスプライム、魔力で全身を護るスキルで良いでござるか? 一分位しか持たないでござるが?」

 トシ子とアスタロトが同時に頷いてジッと善悪に注目している。
 善悪はやれやれと言った感じで首を振るった後、スキル名を口にするのであった。

「エクスプライム」

 このスキルは善悪の疲労困憊さを心配したオルクスが最初に教えてくれた自分が受ける攻撃によるダメージを六十分の一まで減らすスキルである。
 因みちなみに上位スキルのエクスダブルも同時に教わったが、ダメージを三千六百分の一に減らせる代わりに持続時間は一秒未満という、使い所を選ぶ非情に難しいスキルであった。

 スキルを自身の体の周囲に展開した善悪は、見た目的にはどこも違っては見えなかった。
 だと言うのに、トシ子とアスタロトのカップル、いいや時代的にはアベックの方がしっくり来る二人は、揃って目を凝らして注視しているのであった。

 一分ほど経過して善悪が言った。

「はい、お仕舞いでござる、一体なんだったでござるか?」

まだ少し憮然として聞いた善悪には答えずにアスタロトとトシ子は話し出すのであった。

「…………濃いな」

「うん、ダーリン♪ それにしても濃密じゃ…… 普通の聖女や聖戦士では、いや真なる聖女と聖魔騎士でもこれ程では無いぞぃ!」

「それどころか、大魔王種ならいざ知らず、魔王種でもここまで濃い魔力は滅多にいないぞ! ラーやフンババ、カルラ位だろう、勿論魔力総量は驚くほど少ないが」

修行の邪魔をされた善悪はややイラつきながら言うのであった。

「終わったんなら戻るでござるよ! 毎日朝夕大気やお日様の力を少しづつ蓄えて法力、聖魔力に変えなきゃならないのでござるのに…… またリチャージでござる! プンスカプンスカ」

アスタロトは聞き逃さなかった。

「ま、まて! 善悪! 今、何と言った? 大気とお日様、確かそう聞こえたが? そう言ったのか?」

善悪は更にイライラの度合いを強めつつも、歯を食いしばって耐えながら答えたのである、殺すとまでは言わなかった、成長を感じる。

「ああ、そうでござるよっ! それが何でござる? もう! これ以上我輩の修行を邪魔するのならば、ちゃんと説明してっ! 説明求む! でござる!」

アスタロトが呆けた表情を浮かべて言う。

「大気と、穴だらけとは言えオゾン層に防がれている太陽放射線だけで…… アソコまでの、濃さ、か……」

善悪はも当然と言った風情である。

「当たり前でござろ? 某の宗旨しゅうしは真言密教でござるよ? 太陽は大日如来、大気の地表付近は燃焼性ガス、酸素で一杯でござるゆえ不動明王ともいえるのでござる! これ以外に人々を護ってくれる力等、存在しないのでござるよ!」

 元気に言い放った善悪を残念な目で見つめるのは、トシ子アスタロトのバカップルだけではなく、心通じた筈のスプラタ・マンユの七柱ですらガッカリの視線を向けていたのであった。

「なぬっ? なんなの? 皆して、その軽蔑の視線は?」

善悪の問い掛けに顔を見合わせるだけで答えない一同の中で、弟を自称するアスタロトだけが答えてくれたのであった。

「いや、な…… 善悪…… 勿論お前の信仰には敬意を払うし、畏敬いけいの念も持ち合わせてはいるが…… それって人間用の信仰だろ? なんで、代々聖戦士を輩出したこの寺で信仰しているのだ?」

「なんでって、家業だからでござるよ! 税制上もね、こんな良い儲かる商売他にないのでござ、グフングフン! 人々の悲しみ、苦しみに寄り添いたいっ! それだけが俺っちの一族を突き動かしたからに決まっているでござろう? なに? 文句アンの? 大日如来と不動明王の文句は本人達に言ってよねっ! でござるっ!」

だそうだ…… もうバレバレであった…… 残念至極!

 アスタロトは呆れた表情を浮かべて答えたのである。

「あのな、善悪! 大気はカスカス、太陽放射線はどうしても中性子不足、なんだよ! この大地に生まれた物は、すべからく大地か、しくは大海、それも叶わなければ、同じく生けとし生きる者達から、力を融通して貰うしかないのだよ……」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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