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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
688.最後の晩餐

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 善悪は立ったままでコユキに聞く。

「お、畑は終わったのか? 随分早かったじゃないか?」

 コユキは悪戯いたずらそうに眉を上げておどけて言う。

「畑仕事はオンドレとバックルに取られちゃったわよ、まああの子達なら安心して任せられるけどさ! それよりお父さん、ううん、善悪! 久しぶりに作ってよ、ペペロンチーノ、ねえ、駄目ぇ?」

 善悪が少し意外そうな顔を浮かべた後、優しい笑顔に戻って聞く。

「最後の晩餐的な? そんな簡単な物で良いのかい? コユキ」

 コユキはこの二十数年間で、スッカリ締まり切ったボンキュッボンの美ボディを反らせ捲って言った。

「そうよ、それでデザートはスーパーカッ○バニラで善悪は抹茶でしょ? その後、雪○宿を食べるのよ? どう? 覚えてる?」

 善悪は苦笑を浮かべて答えた。

「勿論覚えているさ、でも、アイスにお煎餅か…… もう売っていないな、どうしようか……」

「判っているわよ善悪、気分よ気分! あの時のアタシ達って何にも判らないのにやる気満々だったでしょ? まさか悪魔達と戦ったりその上結婚するなんて想像もしていなかったわよね?」

「うん、確かにそうだった、でござるな」

「そう、その調子よ善悪! 今日の旅立ちだってあの時と同じでしょ? 未来に何が待ってるかなんて誰にも判らないじゃない? 違う善悪?」

「違わないでござるよ、コユキ、いいやコユキ殿! 若しかしたら今回もカーリーが止めに入るかもしれないのでござるな? ね?」

「そうよ! 今出来る事を精一杯やりましょう! あれよあれ! 彼等の冒険はまだ始まったばかりであるってヤツよ!」

「もし君がどこかで悪魔をつれて戦う男女を見たら、それは、ってヤツでござるな! ははは、懐かしいのでござるな」

「でしょ? なははは」

「お父ちゃん、お母ちゃん…… 楽しそう……」

 美雪の呟きにコユキは笑顔を向ける。

「楽しいわよ! アタシ達の冒険はまだまだ続くわ! お空の上でもやってやるわよぉ! 美雪、アンタと長短の冒険も始まったばかりよっ! 仲間達とその時その時を必死で一所懸命に楽しみなさい! それが人生の意味よ、と、アタシは思うわ! 頑張って楽しむのよぉ!」

「う、うん! 判った死ぬ気で楽しむよぉ!」

「よしっ! 善悪、ペペロンチーノよっ!」

「えっ、思い出話じゃなくて本当に食べるのコユキちゃん? 朝からぁ? で、ござる」

「そうよっ! コユキ飢え死に直前なのよぉ!」

「はぁーぁ、りょっ、でござる、ちとお待ちをー!」

「急げ善悪、なははは♪」

 台所に向かう善悪も笑い声で見送るコユキも揃って満面の笑顔であった。

 その日の昼前、数年前にメット・カフーが切り開いた、クラック、空間の裂け目を通って、サスキラフの旧市街の郊外に立ったコユキと善悪は集った悪魔の数の多さに思わず息を呑むのである。

 広大な草原に集結した悪魔の総数は、集め始めた頃には想像すら出来なかった余りにも多くであった。
 ポーズ機能で確認した所(三日掛かり)、四十万を軽く越えていたのである。
 これほど多くの悪魔、いいや、神々達が未だ、世界のあちらこちらで信仰を残している、そう言う事であろう。
 唯一神信仰か…… 何だろうね?

 元々はここ、タイミール、タイミレル周辺にも人々の暮らしがあった。
 遊牧や畜産を生業にする部族の村や町もあったし、地下資源採掘地や一次加工用のプラントも多々あり、そこで働く人々の宿営地や彼等の消費を見込んだ歓楽施設の類も存在していたと言う。

 今この場にある物と言えば無人の集落跡と、元草原だった痕跡をわずかに残した、石の平原が果てしなく広がり続ける、命なき風景だけである。


拙作をお読みいただきありがとうございました!

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