【連載小説完結】私、悪役令嬢でしたの? 侯爵令嬢、冒険者になる ~何故か婚約破棄されてしまった令嬢は冒険者への道を選んだようです、目指すは世界最強!魔王討伐! スキルは回復と支援しかないけれど……~
138. エピローグ、ファンタジー (挿絵あり)
ファイアワークス伯爵が王宮を去った夜。
人気の無い宝物庫に一つの声が響いた。
『即時配達、配送先変更』
この瞬間、何日か前、誰かの手によって持ち出された聖剣レジルとは別に四個の秘宝が、この宝物庫から姿を消したのである。
それは、魔王ザトゥヴィロ、副官のオーロ・ラン・ダハブ、クルムズ、マーヴィの魔石であった。
無人の庫内に響いた声は、もしもノブレスオブリージュのメンバーがこの庫内にいたとしたら誰の物か気が付いたかもしれない。
だが、残念な事にこの時この場所には誰一人いなかったのである。
魔石消失の謎は永遠に解かれることは無かったのであった。
数週間が過ぎた。
アイアンシールド領の遥か東、海を渡った列島にある国家。
その片田舎の村は活気づいていた。
理由はこの村の近くで、この島国で六番目のダンジョンが見つかった為である。
一攫千金を目指す探索者達が挙って集結し始めていたのである。
となれば、彼らを相手に商売しようと目聡い商人たちが集まって来る事は道理であった。
資金を投入して大きな商店を構える者、腕試しに露店を開いてみる者、様々な目論見を持った人間の活気が村を包んでいた。
この日も一軒の串焼きの露店が、村の中央の広場に開店した。
左右にはモンスター肉の買取屋と魔石買取の露店も軒を並べている。
近くのあばら家を借りて武器防具の修理店を始めた二人の若者が串焼きを摘まんで口に運びながら言った。
「お嬢ちゃん達は海を渡ったようですよ、アフリカを目指しているようですね、どうします? 」
串焼き屋の奥さんらしき女性が怒りのこもった声で言う。
「リッキー! 当たり前の様に食べてるんじゃないわよ! 商売物なのよん、全く嘆かわしいわね! 」
旦那らしき男性が言葉を返した。
「まあまあ、良いではござらぬか、んだけど…… うーん、お嬢ちゃん達かぁ~、一つやらして見ても良いんじゃあないかなぁ? どう思う? 」
奥さんが答える。
「いいんじゃないのん、カーリーちゃんが憑いているんだし、大丈夫じゃ無いのん」
右隣の魔石買取所の主だろう、左腕を肩先から失った青年が胸を張って言う。
「エマならば大丈夫だろうさ、何しろ俺様の子孫だからな! 」
左隣の買取所からは肉感的な女性が紫ピンクの長い髪を揺らせながら続いた。
「同感だわね! マリア、あの子は逸材だわ! ねえ、貴方もそう思うでしょうモーガン! 」
話を振られた武器職人風で口髭の男は頷いて言った。
「まあな、俺としては自分の手元に置いてもっと忍術の神髄を教えてやりたかったんだが……」
最初に話を始めた大男の防具職人は二本目の串焼きに手を伸ばしながら言う。
「ははは、大きな事を言っているが、モーガン? イーサンは既にお前より上かも知れないぜ? 少なくともウチのデビットは俺より上だろうさ! あ、痛っ! 」
奥さんにピシャリと手を叩かれたリッキーが大げさに痛がって見せていると後ろから巨漢の女性が声を掛けて来た。
最近この村に出来た、探索者組合に併設された旅籠の雇われ女将、マチルダの物である。
「そんなこと話している暇は無いだろう二人とも! もうじきこの国の伝説になる少年が山奥から出て来るんだよ? ミスらない様に気を付けなくちゃね! 只でさえこの国の探索者にはレベルとステータス、それに恩寵なんて複雑な仕組みがあるんだからね、面倒なルール付けをしたものだよ、何を考えていたんだろうね? 剣王と歌王の二人ってば」
串焼き屋の旦那がスキンヘッドを掻きながら申し訳なさそうに言う。
「ああ、それでござるが、ウチの奴が昔話して聞かせたら面白がっちゃったのでござるよ、なんかゴメンね……」
「「「「「あー、そ~言う~」」」」」
「なはは」
五人が向けた非難の目に笑ってごまかす奥さんである。
夫妻の後ろから目深にローブを被った四人組が語り掛けた。
「では、今回の任務に向かいます」
そう言って頭を下げた男の顔はローブのフードで隠されてはいたが漆黒であった。
後ろに立っている男女の顔も、気を付けて見れば金色、赤色、青色であり、人間とは隔絶された顔色である。
串焼き屋の旦那は笑顔で串焼きの包みを渡しながら言うのであった。
「うん、いってらっしゃいでござる! これお弁当ね! 今度はウッカリ倒されないように気を付けるのでござるよ! どう、どう? 今どんな気持ちぃ? 」
「「「くっ! 」」」
揶揄うような言葉に後ろの三人が悔しそうな声を上げた。
前に立った黒い男が生真面目な声で答える。
「承知しました、気を付けて任務に当たりますね、では、行ってきます」
揃って頭を下げて立ち去って行く四人の会話は続いていた。
「今日は呪いのアイテム、『試練の腕輪』を探索者に見つけさせるんだよな? マーヴィ? 」
「んもう! それは来週でしてよ! 全く! 」
「はあぁ~」
そんな声が離れて行くのを聞きながら、奥さんは店の周りに立つ五人に向かって言う。
「レベルとかステータスとか恩寵とかって面倒みたいだけど、これはこれで判ってみると結構面白い物なのよん? それに設定は兎も角、人って与えられた境遇の中で成長して行くものなのよ? その積み重ねが人間達の歴史に語り継がれていくんだから、ね、そうでしょ? アンタ? 」
旦那は胸を張って答えた。
「そそ! それに歴史にはファンタジーが必要なのでござるよ」
ここ、五百年間にこの夫婦、どこからともなく現れた二人に聞かされ続けた理屈である。
レジェンドオブルンザの五人はやれやれと言った表情で苦笑いを漏らすのであった。
片田舎の村の朝は、探索者や物売りの賑やかな声に溢れていた。
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本作はこの回を持ちまして、本当に終わりとなってしまいました。
長らくお付合い頂き、誠にありがとうございます!!
拙作をお読み頂き、本当に本当に心の底から感謝致します。
今後は不定期ですがSSを投稿していくつもりでいます。
よろしくお願いします。
二〇二一年 十一月六日 KEY-STU
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