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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
596.ツヨシとコーイチ

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

「おいおい、穏やかじゃねーなー? 何だ? 特攻でもするのかい? 義姉さん? んな? どう思うつよしぃ?」

「本当だなぁ、何か鬼気迫る感じだよな幸一こういちぃ? コユキ姉さん、何か困っているんなら話してくれよ、兄弟だろ、俺等って?」

「アナタッ!」

「おう、リョウコ、寂しい思いをさせたちゃったな、無事帰って参りました! って奴だぜぇ!」

「旦那様ぁ!」

「リエ、良い子にしていたかい? 今回の出張、コロンビアとの取引も無事終了だったぜ! 偉く儲けたぞぉ! しばらくインターポールから身を乾かす必要がある位にはなっ! 丁度良いだろ? 何やらコユキ姉ちゃんヤバそうな感じじゃん? 俺が助けてやるよ! んな? 俺って格好良いだろ? ヒーローっぽくねぇかぁ?」

 リョウコの旦那の自衛官強と、リエの旦那の怪しさマックスな輸入業者の幸一が境内から派手目に話に参加して来たのである。

 揃って幸福寺で挙式した為に覚えていた善悪が慌てた様子で言葉を返したのであった。

「お、おうっ! 強君に幸一君、いやいや、長田ながたさんに緒川おがわ君じゃ無いでござるか! 久しぶりでござるが、何やら勘違いをさせてしまった様でござるなぁー、僕チンとコユキ殿に問題なんてナッシングッ! 極めて普段通りでござるからして、心配無用なのでござるよ? 良い? 心配しないでねん!」

 この善悪の言葉に、輸入業を営んでいる筈のリエの旦那、緒川幸一おがわこういちがニヤニヤしながら答えたのである。

「オッショサンよぉ、心配しなくて良いぜ、悪魔と聖女、聖戦士の話だったら、今さっき寄って来た茶糖の家で俺らの子供の子守りをしていた叔母さん、ツミコさんの酒臭い口から聞かせて貰ったからよぉー、俺も一枚嚙ませてくれよ? 良いだろ? こう見えてコロンビア政府や麻薬カルテル、FBI相手に商売し続けて来たんだからよぉ! それなりに役には立つ筈だぜぇ?」

 反社臭が滲み出ている。

 関わりたくない気持ちを前面に出している善悪と違い、コユキは三重顎に手を当てて何やら熟考している様である。

 その間にリョウコの旦那である長田強ながたつよしも幸一同様の申し出を始める。

「幸一だけじゃなくて俺も一緒に悪魔と戦うよコユキ姉さん、仕事柄銃火器の取り扱いには慣れているしな!」

 この言葉を聞いたコユキは薄らと目を開いて二人を交互に眺めるのである。

「準備できるの? 銃火器とか?」

「こ、コユキ殿っ! な、何を言って――――」

 幸一がニヤリとしながら答えた。

「こう言うヤツかい? それともサブマシンガンとかが必要なのかな?」

 言いながら上着の内側から取り出して見せたのは鉄色のハンドガンであった。

「コルトガバメント……」

 当たり前のように取り出された銃刀法違反の逸品に、武器オタクの側面も持つ善悪が唸る様に言った。

 幸一は更にニヤニヤしながら、グリップを握り直し銃身のスライド部分のウロコ状の模様を見せながら、

「いや、こいつはコルト1911のクローン、スミスアンドウェッソンのM945だ、スライドの模様がお気に入りなんだ、いわゆる45マグナムってやつだな、さっきも言った通り、サブマシンガン位ならつてを頼って準備するぜ? 勿論最新て訳には行かないが調達終了になった型なら何とでもなる、例えばカールグスタフのM45とかだったら当てがある、9ミリのパラベラム弾も調達可能だな」

だとさ。

 目を剥いて固まる善悪を放置してコユキはもう一人の義弟強に向けて言った。

「強君、アンタも持ってるの? こういうの」

「いやいや流石に基地の外に持ち出す訳にもいかないじゃない? んまあ仕事柄知り合った米兵に頼めば何とでもなるけどね、国内ではもっぱらこいつを携帯しているよ」

 そう言うとズボンの腰の辺りに偽装したベルトホールからスラリと抜き払って見せたのは、刃渡り二十センチ前後のサバイバルナイフである。

 積層強化木、パッカーウッドのハンドル部分は血の様な赤い染色が木目を鮮やかに浮き出させており、強いこだわりを感じさせる。

「ふむ…… なるほどね……」

 短く答えたコユキは再び目を瞑り両手の指を組み出した、どうやら真剣に考えているらしい。

 一方の善悪は揃って銃刀法を遵守する気が無さそうな幸一と強、現代日本における禁忌きんきキッズ的な二人に大慌てだ。

「は、早く仕舞うのでござるよっ! 誰かに見られたらどうするのでござるか! ほら、早く早くぅ!」

 二人は笑顔で言う。

「ははは、こいつはモデルガンさ、まさか本物を持ち歩く訳無いだろう、オッショサンもオッチョコチョイだなぁ」

「本当ですよ、このナイフだって只の模造刀ですよ、サバイバルゲームとかと同じで格好良いじゃないですか? こう云うのって」

「何だ、玩具でござったか、焦ったのでござる、ふぅぃー」

 冷や汗を拭う善悪の横から二人の妻であるリョウコとリエが嬉しそうに境内に立つ旦那に近付いて言うのであった。

「旦那様ぁ、お帰りなさい♪ へーこれって玩具なんだぁー」

「リエッ! 触るんじゃないっ! 怪我をしたらどうするんだ! 危ないじゃ無いかっ!」

「えっ!」

 幸一の持つモデルガンに手を伸ばしたリエに対する、厳しい叱責を聞いた善悪は驚きの声を上げ、もう一組の夫婦に目をやった。

「そ~っとそ~ッとだよリョウコ、慎重にホルダーに入れてね、危ないからね」

「うん、慎重にぃ、慎重にぃ、良しぃ、納まったよぉ、おっかないねぇ、スパッと行きそうだったよぉ」

「ああ、気を付けような」

「…………」

 善悪は自分が素直で騙されやすいのだと言う事実を知った、他人を簡単に信じられなくなった瞬間であった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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