【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第二部 四章 メダカの王様
707.妙味(挿絵あり)
ナッキ達三匹がいつもの餌場に着くと、そこには既に十数匹の銀鮒が食事を楽しんでいた。
ナッキが生まれる少し前に降った大雨のせいで、少し上流の堤が崩れたのだが、草原に溢れた出した洪水は、ここまで来ると再び元の川筋へと合流していた。
大地や草原を走った水が戻り流れ込んでいるのがこの餌場なのである。
たっぷりの植物性プランクトンは、それ自体が鮒達の食事に持って来いだったが、彼らを目当てに集まった動物性プランクトンは一層のご馳走であり、また、同じ理由で時折姿を見せる、小さな水生昆虫達もナッキ達の舌を十分に満足させてくれていた。
三匹は先着の仲間達に負けじと、美味しそうな餌を頬張り始める。
暫くすると、大分満足したのか、ヒットはまたぞろナッキを揄う様に声を掛けた。
「ナッキ、たっぷり食べろよ? お前は小さいんだからみんなの倍は食わなかったら、ちゃんとした鮒になれないんだからな!」
いつものヒットの揄いだった。
オーリは又始まったかと言わんばかりに溜め息を付いたが、当のナッキは気にも掛けずに、
「うん、そうだねヒット! そろそろお腹はいっぱいになったけれど、もう少し頑張って食べてみるつもりだよ、ようし大きくなるぞぉ、ヒット本当にいつも有難う! 頑張るよ♪」
そう答えると目の前を泳ぐボウフラを一気に三匹飲み込んだのだった。
いつもナッキを揄うヒットだったが、自分のちょっかいや冗談にも素直で一所懸命な姿を好ましく思っていたし、実際ナッキを攻撃する鮒でも居ようものなら自分が守ってやる、そんな風に思ってもいたし、もちろん、その対象、好ましいの最たる一人は、可愛くて優しいオーリが居たので優先度は二番目ではあったのだけれど……
彼女はいつも通り、心配そうな表情を浮かべて言う。
「ナッキったら、そんなにいっぺんに食べても急に大きくなれる訳無いじゃない! 無理してもお腹を壊してしまうわよ?」
心配して声を掛けたオーリの方を振り返った瞬間に、ナッキの目前に今まで見た事の無い虫が現れた。
うねうねと蠢くその虫は、顔と体の区別も無い棒状の生き物、ナッキが初めて見たミミズであった。
ヒットのアドバイスはありがたいけれど、オーリの指摘も納得できる物である事も事実だ……
よし、この虫を食べて今日の食事は終わりにしよう、そう思ったナッキは躊躇わずに大きく開いた口いっぱいにミミズを頬張る。
その刹那、ナッキの全身の鱗に電撃が走ったかの様な衝撃が迸り、体中が幸福感に包まれた。
言い換えれば魂が喜んでいると言った感覚、生きている意味を理解したような覚醒。
「うわぁ、な、何だコレ! お、美味しい! いやいやいや、美味しいなんてもんじゃないや! 美味しすぎる~ビックリ仰天だ~!」
思わず大声で叫んだナッキの体は未だわなわなと震え、その感動の大きさを抑え切れずに居た。
「おい、どうした? 大丈夫か? おい!」
「一体どうしたの? ナッキ、何を食べたって言うの?」
口々に問いかけるヒットとオーリの言葉にも暫くは答えられずに余韻に浸っていたナッキだったが、漸く平静を取り戻すと二匹に向き直って説明を始めた。
拙作をお読み頂きまして誠にありがとうございました。
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