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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
590.パイセン

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 コユキは肩をすくめると言うより首の肉を僅かに寄せるようにしながら言った。

「変な事を気にするわねぇ、ま、アンタらしいっちゃらしいけどね! んな事より大一番を控えてるんだし、お寺に戻って万全の準備を整えましょうよ! 何しろアタシとアンタって消えちゃうんだからさ、やり直しが出来ない一発勝負なんだからね! でしょ?」

 気にはなっていたのだろうが、然程さほど重要視していた訳では無かったのか、当の善悪も屈託を振り払うかのように笑顔を浮かべて答える。

「まね、気にしない事にしたのでござる! 事ここに至っては見事お勤めを果たすことが肝要でござるな、集中集中! ふぅー、後は残った皆に期待かぁー、拙者とコユキ殿はガミュギュン君が復活させてくれるまで一時停止、ポーズ状態を余儀なくされるのかぁ、変な気分でござるよ」

「そうね、アタシなんかこれまでの一年半、ずっと先頭に立って動き捲って来たから一層変な感じだわ! それにあんまり当てにしない方が良いわよ、ガミュギュン君の事、本人もどうやったら良いか、見当もつかないって言ってたし」

「それ三日前にも言ってたでござるな? アスタとバアルは絶賛でござったが、会った感じどんな悪魔だったの? いい加減な感じの子?」

 コユキは二の曲輪にのくるわに向かって先行して歩き始めながら答える。

「ううん、むしろ真逆よ、生真面目って言うか責任感の強いタイプね、哲学的だったり何やら仕事に対する意識が高い印象を受けたわよ、言ってみれば古い時代の悪魔かな? 召喚者や依頼者に対して誠実なのよね、きっと」

 仕事をした事が無い割には適切な分析だと言えるだろう。

 頷いて聞いていた善悪に対して言葉を続けるコユキ。

「とは言え、インカの神様になる前は割かしプラプラしていたみたいだったわね、紀元前二世紀より前にはアナトリアとかギリシャ、エーゲ辺りに居たみたいだしね、アタシの事キュベレーとかガッライとか呼んでたのよ」

「へー、そりゃまた懐かしい呼び方でござるなぁ、あの頃の拙者は去勢してガッロスでござったなぁ~、ふふふ、覚えてる? 某たちがローマに初めて入った時、スキピオがどんなふうに迎えたか?」

 コユキが足を止めて振り返って言った。

「覚えてるわよ! スキピオったら船着き場で突然ひざまずいちゃってさ、『ユピテルへの信仰を捨てます、今後は貴方達に帰依します』なんて大声で宣言したのよね? 驚いたわね、あの時は!」

「そうそう、只の人間に帰依するとかって考えてみれば思い込みやすい性格が変わっていないのでござるな♪ それにその後、二人の中にユピテル、ルキフェルが半分づつ憑いてるって教えた時の顔なんて――――」

「それね! 傑作だったわね! 信仰を捨てるなんて言っちゃったから焦り捲ってさ…… ? どうしたの善悪考えこんじゃって?」

「…………何で、こんな事思いだせるのでござる? ルキフェル自身の経験じゃなくて、彼の後継の前任者の記憶なんて…… 今まで思い出せなかったでござろ? おかしいのでござるよ」

 言われてみればそうである。

 今までは魔神王として君臨していた、勿論単体を為していた頃のルキフェルの記憶を思い出す事ばかりであった。

 今回の様にルキフェルのアートマンを受け継いだ過去の男女、言うなれば後継の前任者、所謂いわゆるパイセン目線の記憶は一切浮かんで来ることは無かったのである。

 慌てた感じでコユキが善悪に聞く。

「ねえアタシがスカウラだった時って?」

「僕チンはクラウディアヌスだったでござる……」

「んじゃあ若汐ルォシーだと?」

「沐辰《ムーチェン》でござる」

「アシクレハは?」

「ルリシビ!」

「およね!」

「吾作!」

「ランラン」

「カンカン」

「ウホホホ」

「オホウッ」

「ギッ!」

「ガッ!」

 ………………

 …………

 ……

「ムパフヘ!」

「マヌプゥ!」

「ハーハー、どうやら間違いないみたいね…… 何でか知らないけどアタシ達のパイセン全員の記憶があるわね」

「フーフーくたびれたのでござる…… 時代時代の生活様式や常識が入り混じって結構なカオスでござるな、こりゃ…… 近い時代以外の事とかなるべく思い出さないようにした方が良いのでござるよ……」

「そうね…… 近い時代か…… あれ、あれれ? ぜ、善悪ぅ!」

「どったの?」

「あ、アリシアは?」

「ん? まだやるの? アリシア・ニルソンの相方時代だったら、小生の名、は、えっ? ええっ? そんな…… ラーシュ…… ヨハンソン…… で、ござる」

「私達の前任者よ! 二つの意味で! ビックリだわん、ダブルのパイセンだったとはねぇ!」

「う、うんビックリでござるよ……」

 なんとルキフェルのアートマンの後継たる前任者、アリシアとラーシュは、他ならぬ真なる聖女と聖魔騎士のパイセンたる二人と被っていたのであった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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