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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
193.エピソード193 詫び

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 俺は、自分を許すことが出来ない。
 他の誰が許してくれたとしても、この事態を招いたのは、おれ自身の愚かさ、迂闊うかつさ、軽薄さ、そして、無能ゆえだ…… 色々迷惑を掛けた……

 全ての関わった人、いいや、間接的に迷惑を掛けた人たちにも、謝っても仕方がないが、せめて詫びだけは感じて、逝きたい。

 思えば、俺は小さな頃から他者に怒りを感じた事は無かった。
 全ての出来事、周りでおこる良い事も悪い事も、全ては、自分自身に原因があると教えられてきたからだ。
 そう、俺の人生の終わり、終末までのこの数年間、悪い事が多かったのは、全部俺のせいなんだ。

 うん、もう…… 思い残す事は有るけれど、これからの美しく人生を楽しむ人々の中に、俺みたいな薄汚く、自分勝手で、邪悪な、下らない、ゴミの様な、他人を苦しめる、面白くも無い、こんな、こんな存在が、生きてるなんて許される訳がない、いや、おれ自身が許しておかない!

 そう考えて、準備していたんだ、この包丁、さぁ、この薄汚い左手の手首を、ザックリと────


「ちょっとっ! 待った────っ!! 」

「へっ? いや、こっからがいい所なんだけど…… 待ったほうが良いのか? 」

コユキがプンスカプンスカしながら言った。

「当たり前じゃない! アンタの怒りが、憤怒が自分自身に対しての怒りだって分かった今なら、ハッキリ言わせてもらうわよ! それ、だめ! 絶対っ! 」

「あぅ、あ、ダメ? そ、そうなのか? 」

少しビビッてしまい、最初のキャラ付けをすっかり忘れてしまった様子で『自殺肯定派直前のイラ』がオドオドと口にし、コユキが自信満々で答える。

「んなの、当たり前じゃない! 自分自身の罪を認める事や、行いを恥じて反省する位ならいいわよ、でもね、怒りなんて不確かな感情を自分に向けちゃ駄目なのよ! キリが無くなっちゃうでしょ? 他人に向けるのもアレっちゃあアレだけど、キリはあるじゃない! 絶交したり、仲直りしたり、敵対したり何らかの終わりは来るわよ! でもね、自分に対して切れちゃったら、自分だから当然絶交出来ないし、敵対するって行為、それって、自分にやったら只の自傷とか自殺じゃないの、良いトコ自虐拡散とかでしょ? その怒りは収まらないのよ、分かるでしょ? 論理的に不可能なのよ! 」

「そうなのか? 」

「そうよ! 下の各階でも思ったけど、あんた等『大罪』って結構馬鹿なのね、ビックリしちゃったわ──」

 部屋には閉じこもるが、自分に閉じこもることが無い、いや、そもそも責任とか感じたり、反省したりした経験自体、最近までした事がないコユキが溜め息を吐きつつ言った。

「んじゃ、どうすれば良かったんだよ? 」

イラが全くイラつく事もせず、口を尖らせながら聞いた。

「そりゃ残った一つの方法、仲直りすりゃ良いのよ」

「ん? どういう事だ? 」

ハテナ顔のイラにコユキが言った。

「何でも良いのよ、怒っちゃった友達と仲直りするのと同じよ、ゴメンって謝っても良いし、お互い納得するまで激論しても良いし、他の話題に切り替えたり、寝て忘れるってのでも良いかもね? あと、ご機嫌取るために良い所を褒めまくってみたりなんてのもアリかもじゃない? ほら、アンタだったら、人のせいにしないで偉いネェ! とかさ。そう言えばアンタ子供達を引き取ってから、中学までだっけ? 何年くらい面倒見たの? 」

「んー? 十一年だな? 」

 コユキの質問に指を折ってから答えるイラ。
 コユキのあきれ返った声が響く。

「はぁー? アンタ十一年も罪の意識に耐えてきたのに、自分に怒って死んじゃったの? 考えられないわよ、せめて『俺って我慢強いな、十一年も耐えたなんて忍耐力パねぇ』って思ったりする位は自分に優しくしなさいよ! 子供だって叱るばっかじゃなく褒めて育てたりするでしょ? 自分に対しても同じよ、厳しいだけじゃなく、優しくしてあげなきゃ駄目よ! 」

 黙って何かを考えている『憤怒のイラ』に対して、コユキは更に言葉を掛け続けるのであった。

「まあ、死んじゃったもんは仕方ないけどね…… 今はアタシが褒めてあげるわ。 自分の子供じゃないのに良く優しく接してあげたわね、偉いと思うわ。 回りに全否定されても、全てを話してやり直そうなんて一途じゃない、素敵だわ。子供達の為に身を粉にして一所懸命に働いたのよね? 中々出来ないわよ、立派なことよ。 それに忍耐強く我慢し続けたアンタの姿は子供達の胸に残っているはずよ、感謝と誇りとしてね! 胸を張りなさい、ねえ、別れるとき子供たち何か言っていた? 」

 コユキの言葉を聞いて、イラはハッとした表情を浮かべて、言葉を返した。

「…… ありがとう、父さん…… と……」

 それだけ言うと、コユキの目を気にすること無く、大粒の涙を流し始めてしまった『憤怒のイラ』であった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!



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