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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
337.放下著 ②

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 あの後、十一個の駅を通過してきた間、コユキは更に二つの贈り物を、見ず知らずの相手から受け取っていたのであった。

 一つ目のプレゼントは、お魚で、というか魚センターで有名な焼津駅を過ぎた頃、可愛らしい少年の手からもたらされた。

「あの? これ、僕とお母さんから…… えっと、頑張ってね!」 タタタタっ!

 渡された右手には百円玉が握らされていたのである。
 顔を上げて走り去った少年を目で追ったコユキが見た物は、優しい笑顔で少年の頭をヨイ子ヨイ子している綺麗な母親と、頑張った自分を誇るようにはにかむ可愛い少年の姿であった。

 二つ目の贈り物は金谷駅の一個前、大井川の水問題で色々な人達(特に他都道府県の皆)をヤキモキさせっ放しのJR島田駅で下車したJK、所謂いわゆる女子高校生からの物であった。
 チョコレート味のスナック菓子をぶっきら棒に渡してきた彼女達はコユキに向けてこう言ったのだ。

「色々有るんだろうけどさっ! コレでも食べて元気出してよねっ! アタシ達も受験ガンバっからさっ! おばちゃんも負けちゃダメだよ? ねっ!」

 所謂いわゆる、若者の言葉の乱れ、語彙ごい力不足ってやつであろうか?
 本意自体は受け取ることは出来なかったがコユキを応援する事で、自分達も頑張れるらしい事だけは伝わった。
 多分、アイドルのオシ、的な事なんじゃないかと判断したコユキは答えたのであった。

「ありがとう、こんなアタシを応援してくれて…… ありがたくイタダクワネ…… そ、その…… ジュケンモ、ガ、ガンバッテネ、クダサイ…… ヨ……」

 受験戦争に挑んでいる彼女達は余程嬉しかったのか、多少気後れしてしまい棒読みを披露したコユキの前で、フンスッと鼻息をならすと、満足気に去って行ったのであった。

 駅から程近い幸福寺に向かって歩きながらカイムはコユキに言う。

「コユキ様、ニコニコしっぱなしキョロ、お金と食べ物そんなに嬉しかったキョロ?」

コユキは笑顔を崩さないままで答える。

「んーそれも有るんだけどね、日本人って昔から自分を表現するのが苦手な国民性を諸外国から揶揄やゆされてきていてね~、ほら同調圧力だとか社交辞令だったりとか統一性の押し付けだったりとかね。 それがねぇ、アタシが表に出なかったほんの半年ぽっちの間に、こんなに自己主張できる人が増えてた事がね、驚きと同時に嬉しく思えちゃってね♪ 日本人も積極的になってきてるのよね、んでも考えてみたら当然の変化なのかもしれないわ、オタク文化の発現から数十年を経て、サブカルと呼ばれる個人趣向尊重のライフワークは多様化の一途を辿り、趣味や嗜好しこうの枠を飛び越え、働き方やファッション、ライフスタイルや食習慣にまでユニークなアイデンティティが及び捲っているんだものね~、つまり八十年代から始まったと言われるマニアックの台頭やカルトフリーク達のペネレーションによって、こう言った変化をもたらす素地は確立されていたって事なんだな、って考えていたのよ」

カイムも答える。

「考えていたの? キョロ」

「まあね、とは言え他者との協調が求められるシーンでの画一性や社会的なモラル意識の高さ、マナーやエチカの質の高さなんかは日本人の民度の高さを表していると、大筋では好意的に受け止められている事も紛うまごうことなき事実でしょ? 勿論、変わるべきは変える! そこは歓迎すべきことだと思うけど、何もかもじゃなくって変わらなくて良い物、変えちゃいけない部分は確りしっかりと自分達の歴史や文化とかんがみて判断していかなきゃいけないんだと思うわね!」

「思うの? キョロ?」

「思うわ!」

「ふーん、キョロロン」

 全然噛み合っていない勘違いし過ぎな会話をしていると、幸福寺の外壁が見えてきた。
 近付いて見ると、なにやら寺内が騒がしい。
 
 まあ、騒がしいこと自体はいつもの事なのだが、どうも様子が違って感じる、具体的には普段以上に騒ぎのボリュームが大きく感じられたのだ、大体倍位だろうか? (当社比)
 騒ぐと言うよりも叫んでいると言ったほうがより正確だろう。
 修学旅行なんかでテンションマックス、羽目を外し過ぎた子供達の枕投げ時の喧騒、そんな風にも聞こえる。
 
 コユキは思った、

――――また皆で遊んでいやがる! あたし一人が苦労してるって言うのに…… ちぃ、ムカつくぜっ!

と。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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