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私、悪役令嬢でしたの? 侯爵令嬢、冒険者になる ~何故か婚約破棄されてしまった令嬢は冒険者への道を選んだようです、目指すは世界最強!魔王討伐! スキルは回復と支援しかないけれど……

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆世界観と設定◆

SS 狩人の少年と農奴の娘

 剛腕と呼ばれたゴールドランク冒険者、ストラス・ダキアがルンザを去り、エマ達ノブレスオブリージュが新たなメンバー、デニーを加え、快進撃を続けていた頃、ルンザの冒険者たちの間で不穏ふおんな噂が囁かれていた。
 噂の内容は新たにこの街の冒険者のトップに立った二人組のゴールドランク『ビアンコ・エ・ロッソ』についてである。

ギルド併設の酒場でも街角のパブリシャスでも持ちきりの話題はズバリ、

『レッドとホワイトデキてる説』

これである。
 
 あるベテランのシルバーランク冒険者は言う。

「俺はこの目で見ちまったんだよ! 森の中でレッドの腕を自分の胸に抱いて嬉しそうにしているホワイトをよぉ! レッドの方も嫌がってる風には見えなかったぜぇ~、二人はそのまま並んで森の奥に消えちまったって訳だ! あの後、どうなったんだろうなぁ? 」

またあるギルド併設の宿の従業員の女性は語る。

「びっくりしましたよ、ギルドの裏口からごみを捨てに出たんですけど、夕暮れの裏路地に人の気配がしてチラッと見たら、二人の冒険者風の人達が抱き合って接吻していたんですもの…… 思わず顔を反らしたんですけど、二人は何食わぬ感じでこちらに歩いて来て、そこでまたビックリ仰天でしたぁ、だってその二人があのレッドさんとホワイトさんだったんですからね! どうです、びっくりですよね? アンナさん! 」

「いいから仕事しなさいよ、ミランダ」

またまた、古い家の修繕などを仕事にしているアプリコット村の村民はその時の事を追想して口にした。

「レッドさんとホワイトさんがアプリコットに住むってんで家を用意したんでさぁ~、お二人ともあの通りの性格でしょう? 質素な家で良いって言って下さってねぇ~、んでも理解できなかったんだが、ベットも一つ切りで良いって言った事でねぇ~、あれですかね? 仲が良いお二人ですから一緒のベットで寝るとかですかねぇ~、まさかねぇ~? 」

「おいハンス、無駄話してないで狩りに行くぞ! 」

「っ! じゃぁ又ね! 待ってよチャーリー! ジャックぅ! 」

こんな感じであった。
 何しろ街を代表するゴールドランク冒険者の話である。
 噂は瞬く間にルンザ中に広がって行くのであった。

ここが他の街であれば二人が口汚い誹りを受けてしまったかもしれない。
 しかしここは数々の伝説と独自の価値観を誇るルンザである。
 昔どこからともなく現れた夫婦の旅人の奥さんの方が同性愛に対して、特に男性同士の愛に理解の深い人だった事から、彼女の残した物語を聞いて育った人々には、レッドとホワイトの噂に対してなんら忌避感情が湧いてはいなかったのだ。
 むしろ、

「レッドの旦那は可愛い顔してやがるからなぁ! 俺もあやかりたいぜぇ! 」

だとか、

「ホワイトさんってクールで良く見ると美形だからな! レッドの奴が羨ましいよな? 」

こんな意見が酒のつまみ代わりに飛び交う位である。

無論、ブレイブニア王国内ではここルンザだけが特別進歩的なのであり、他の町や村、ことさら僻地へきちでは未だに古い習俗に縛られたままであり、お互いの気持ちをストレートに伝えられない事は当然であった。
 それは同性愛者だけでなく、男女の組み合わせでも同様であったのだ。

ルンザから西へ、ナセラの街を過ぎた先のとある男爵領にその村はあった。
 森を開墾した小さな開拓村にはまだ名前も付けられておらず、十数軒の農奴が質素な家と畑に依って慎ましやかに暮らしていた。

この村にプラチナブロンドの髪を持つ美しい少女がいた。
 彼女の名前はフローラ、叔父夫婦の家に暮らす十六歳であった。
 今は大人しく叔母の仕事を手伝ったり、叔父に付いて畑を耕してはいるが、子供の頃、この村に預けられたばかりの頃は男の子顔負けのお転婆な娘であった。

昔、彼女の母親はどこかの騎士爵のやしきに奉公に出ていたが、幼い彼女を連れて戻り自分の弟の家に預けたまま、十年以上たった今日まで音信不通であった。
 長じるに従って、自分の置かれた境遇を理解したフローラであったが、感じていたのは自分を捨てた母親に対する怒りでは無く、親切な叔父夫婦への尊敬と、自分を村の仲間と認めてくれている村人たちへの感謝であった。

彼女には秘かに思いを寄せる少年がいた。
 少年の名はバルク、老人と一緒にモンスターや動物を捕らえる狩人である。
 月に二、三度、獲物を干し肉や毛皮にして村を訪ねる少年は、やんちゃなフローラの格好の遊び相手であった。

手に持った棒切れで、フローラが繰り出す竹棒を華麗にさばき続けるバルクに、恋心を感じたのは果たして幾つ位の事だっただろうか?
 自分と同じ十六歳にしては、少し子供っぽい所もフローラは好ましく思っていた。

ここ最近は姿を見せていなかったバルクであったが、この日は暫くしばらくぶりに村に現れたのである、大量の干し肉とこれまた目一杯背負った毛皮と共に。
 村の外の草原で食べられる野草や薬草、毒消し草を摘んでいたフローラは満面の笑顔でバルクに声を掛けた。

「バルク! 随分久しぶりじゃない、でも元気そうで安心したわ! 凄い荷物の量ね? それに、今日はお爺さんと一緒じゃないのね? 一人で来るなんて珍しいじゃない」

バルクは薄い笑顔を浮かべて答えたのである。

「ああ、フローラ久しぶりだね…… 実はお爺ちゃんが亡くなったんだよ…… 孤児だった俺を育ててくれたお爺ちゃんがね…… で、俺一人だけじゃ狩りが出来ないだろう? お爺ちゃんの弓が引ければ良かったんだけどね、廃業する事にしたよ…… 皆には良くして貰ったからこれ全部貰って欲しくて持って来たんだよ」

フローラは表情を沈痛ちんつうな物に変えて言った。

「え、お爺さんが…… それは、辛いでしょう、ね、バルク…… でも、貴方はこれからどうするの? どこか行く当てはあるの? 心当たりが無いのならこの村で暮らせるように叔父さんに尋ねてみるけど……」

バルクは首を振って答えた。

「いいや、農奴になったら簡単には村から離れられないからね、冒険者になろうと思っているんだよ」

「えっ! 冒険者に、でもお金が……」

「それなっ! 実は塩商人が来た時に聞いたんだよ! ここから東に三日くらい行った所にある町で冒険者を募集しているらしいんだけど今なら金貨無しで自由権を貰えるそうで、支度金まで貰えるそうなんだよ、良い話でしょ? 俺も一人っきりになっちゃったから思い切ってやってみようと思ってさ」

「……大丈夫なの? 」

心配そうに聞くフローラにバルクは胸を張って答える。

「大丈夫さ、冒険者になってお金を貯めたら、えっと、そのー、む、迎えに来るよフローラ! それまで、待っていてくれるかい? 」

「えっ! それって! しかして? そう言う事? なの? 」

顔を赤くして俯きうつむき加減で上目を向けて来るフローラに同じく赤面したバルクが答える。

「ああ、子供の頃からずっと好きだったんだ、必ずフォルマリアージュ分の金貨を貯めて君を迎えに来てみせる! だから君さえ良ければ結婚して欲しいんだけど…… ダメ? 」

フローラは満面の笑みを浮かべながらバルクに抱き着いて言うのであった。

「ああバルク、嬉しいっ! あたしも貴方の事が大好きだったの! 喜んで待っているわ! 貴方が迎えに来てくれる日を! 」

「フローラ? あ、ありがとう、ありがとうっ! 」

フォルマリアージュ、領外結婚税と呼ばれる制度である。
 領内の人口流出を防ぐため、主に労働力である農奴や鉱山夫などの子女が他領に嫁ぐ際に課される重税である。
 ブレイブニア王国内の貴族領、特に貧しい貴族の領地では特段珍しくない税制である。

因みちなみにこの開拓村を治める男爵が定めているフォルマリアージュは金貨十五枚、決して安くない金額であった。
 それでもフローラはバルクの言葉を疑う事無く、只々したう相手が求婚してくれた、その事を心から喜ぶのであった。


「えっ? 結婚」

「ああ、領内の他の開拓村の若者が割り振られるらしい…… フローラ、気の毒だが…… 領主様のなさることだ、辛抱するしか無いんだ、聞き分けておくれ」

バルクと将来の約束はしたものの、まだ叔父や叔母には言い出せないでいたフローラに対して、叔父の言葉はこの日の夕食の時に告げられたのであった。
 余りにも意外な話にフローラは俯いて考え込んでしまうのだった。

────顔も知らない相手と結婚? 領内の開拓村は全部で四つ…… そんなっ! ああ、今日バルクと約束したばかりなのに……

フローラの様子を見た叔母が心配そうに声を掛けた。

「そりゃそうなるよね…… あたしですら好いたこの人と一緒になったんだからねぇ…… っ! フローラ、あんた好きな相手がいるんじゃないのかい? そうなのかい? 」

フローラは黙って俯いているだけだったが、その態度で叔母は彼女の気持ちを察した様であった。

「あ、あんた、村長さんや巡察使じゅんさつしさんに頼んで何とかしてあげられないかい? このままじゃフローラがあんまりにも不憫ふびんじゃないかい」

叔父は苦悩を顔に浮かべて答えた。

「そうは言っても、あの村長や巡察官が聞き届けてくれるとは、とても…… うーん……」

結局、その日フローラは一言も口を開く事は無く就寝したのである。
 翌朝、目を覚ました叔父と叔母は彼女が村から消えている事に気が付くのであった。
 奇麗に片づけられた彼女の部屋には、美しいプラチナブロンドの髪が束になって置かれ、横には、

『売って下さい』

たった一言だけの書置きが添えられていたのである。


領主の代理の徴税官である巡察使が村々を回るのは収穫期からやや置いてからである。
 フローラが村を去ってから七か月経ったこの日、昨年までの巡察とは大きく違っていた事があった。

通常であれば騎士数人に守られた巡察使がやってきて、収穫からの物資税と村人の数に応じた人頭にんとう税を村長と一緒に集めて帰って行くのだが、この年は紅白の派手な鎧を身に着けた十数人の騎士に守られた、貴族風の女性が帯同していたのであった。

若く美しい貴族の女性はブルーの髪を揺らめかせながら大きく快活な声で言った。

「では巡察使殿、ここと残りの三ケ村からの移住希望者を我が領にて受け入れますが、問題ないですわね! 」

巡察使の男性は腰を曲げて揉み手をしながら答えている。

勿論もちろんでございます、確りしっかり代金を頂きましたこと、主から申し付けられておりますので、へへへ! 何卒なにとぞ、今後ともよろしくお願いしますね、アイアンシールド伯爵の奥様、へへへ」

「良かったですわ! では皆、村の人達にご説明に回って下さいな! ちゃんと移住先の状況や税額をお伝えするのですわ! 無理強いむりじいもダメでしてよ! オッケイ? 」

『デストロイッ! 』

彼女の言葉に返事を返した騎士たちは十数軒の農家に散っていった。
 その場に残った二人の騎士に、貴族っぽい女性は丁寧に頭を下げてから言葉を掛けた。

「さあ、お師匠様達もご家族の皆さんへご帰還の挨拶をどうぞ」

「ありがとマリア」

「いい加減、お師匠様はやめてよ」

「うふふ、駄目ですの、エマ様にきつく申し付けられていますの」

村のはし一際ひときわ質素な一軒の農家の前に立った白い鎧の騎士は隣に立つ赤い鎧の騎士と頷き合ってから大きな声で家内に告げた。

「叔父さん叔母さん、お迎えに来ました! 私達の領地で一緒に暮らしましょう! 」

おずおずと入口から顔を出した夫婦は驚きの声を上げるのであった。

「お、お前、フローラ! それに狩人のバルク、か? その恰好は一体? 」

「フローラあんた逃げたんじゃなかったのかい? それに、領地ってなんなんだい? 」

赤い鎧に身を包んだバルクが答えた。

「結婚したんです! それに領地も貰いました! アイアンシールド伯爵領の中に騎士爵領を! どうですか? 凄いでしょう! 」

「「??? 」」

白い鎧に身を包んだフローラは美しい笑顔を浮かべて続いた。

「冒険者になって、薬草や毒消し草をたくさん集めて、ゴールド冒険者になって、仲間も沢山出来ました! それにこの国の王太子様と侯爵令嬢様の師匠にまで、ふふふ、それでお迎えに来たのよ! 」

「何を言っているんだい? フローラ? 意味が分からないよ」

「ちゃんと説明しておくれでないかい? おうたいしさま、なんだいそれ? おいしいのかい? 」

 パニクる夫婦と笑顔の騎士、フローラとバルクにマリアと言われた貴族女性が声を掛ける。

「まあ積もる話は移動中の馬車の中でゆっくりされれば宜しいですわ、さあ、参りましょう、我が領地アイアンシールド、その中央に位置する新たな騎士爵領、レッドホワイト家の地へ」

 後々の世までアイアンシールド辺境伯家を支えたレッドホワイト伯爵家、その始まりの物語である。

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