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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
507.永遠の命 (挿絵あり)

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

「カルラ、わらわの横に来てくれるかい?」

「? はい、分かりました」

 バアルに話し掛けられたカルラは、薄らとした姿のまま首を傾げながらメンバーの前に立つのであった。

 前に出た事で多少は見やすくなっている筈であったが、ほとんどのメンバーが目を瞬かせたり擦ってみたりして必死に姿を捉えようとしている。

 カルラは気まずそうな声で自分の横に腰を掛けているバアルに聞くのであった。

「バアル様、何か皆大変そうなんですけど…… やっぱり私下がった方が良くないですか?」

 バアルはニヤリと笑ってから見えない筈のカルラの目をキッチリ見つめてから言うのであった。

「大丈夫だよ、君がスキルを停止すれば良いだけなんだから、サッサと姿を現さないと知らないよ? 妾が怒っても良いのかな?」

「っ! これは失礼しました、これで宜しいですか?」

 バアルが言った通り隠匿いんとくか認識阻害のスキルを停止したのだろう、カルラの姿は誰の目にもはっきり映ったが、今度は全身から発せられる炎の様な光が眩く輝き、直視する事が出来ない程であった。

 とは言え先程と比べれば余程見やすくなった事で、火の鳥の様な全身に人間の女性っぽい顔が付いたキメラ的な姿が、見ている面々に対してどこか神々しい印象を抱かさせていた。

「ふん、久しぶりだな、友よ」

「シヴァ、インドラよ、友である君にまで正体を隠していた事を許しておくれ」

「カルラ、いやガルダよ、とっくに気が付いていたさ、大方女房にした事でも気にしていたんだろう? まだ余っているのか? アムリタは」

「そうだよ、それに君の想像通り、アムリタは後、一人分だけ残っているんだよ、身を潜めていないといつナーガに奪われるか分からないからね」

「ふん、この俺より百倍強いお前があの舌割れ共に不覚を取る事も無いだろうに…… まあ良い、後で話そう、今はバアル様の言う事を聞く方が先決だろ?」

「ああ、そうだね」

 どうやらシヴァとカルラは知り合いらしい、それもかなり親しい間柄の様であった。

 二人の会話が一旦途切れるとバアルは横に立つカルラを指さしながらその他のメンバーに語り掛けたのである。

「さて、ここにいるカルラはね、他者に永遠の命を与える事が出来る数少ない存在なんだけどね、君達にとって永遠の命って何なんだろうね?」

 突然の問い掛けに数人がざわつき始める中で、堂々とした声が上がった、吹木悠亜の物である。

「人間で永遠の命とか言ったらやっぱりノアとその家族が有名だわね、ギルガメシュ叙事詩なんかでも出て来たわよね?」

 この言葉には医師である丹波晃が答えた。

「そうだなぁ、案外人間が永遠の命、不老不死とか物語でも残っていないんだよね? 探し求めた権力者は多いんだろうけどさ…… 竹取物語の最後に出て来る霊薬とか、後は吸血鬼とかかな? あ、これじゃあ人間の話じゃ無くなっちゃうのかな? いや、もとはワラキアのヴラド三世、人間なのかな? どう思う、コユキさん?」

 コユキも悪くはない頭を高速で働かせて答えた。

「そうね…… でもかぐや姫は月の都人で、ドラキュラとか言っちゃったらもう、お馴染みの悪魔やモンスターに近い感じじゃないの? 神や悪魔、精霊やモンスター、竜なんかについても死ぬってイメージは無いわよねぇ、倒されて害される事は有るんだろうけど……」

 次に話し出したのは科学者、正確には物理化学を生業にしている光影である。

「ふむ、やはり命の定義のあやふやさが原因なんだろうな? 寿命って言う意味では永遠の命を有している種族もあるだろう? エビとかプラナリアだって広義では不死と言えなくはないだろ?」

 この問いには医師の丹波では無く、ある意味、逆の立場の命の専門家である善悪が答える。

「んでもエビは単体が大きくなってくるとリセットの為の脱皮で大概死んじゃうのでござるし、プラナリアの無性生殖だって単細胞生物の細胞分裂だって、元の個体が生き続けているのとはちょっと違うのではござらぬか? クローンを作っても同じ人間とは言えないでござろ? 考え方や経験が全く違ったりしたら、『良し、自分のクローンが出来たぞ! じゃあ安心して死のう! 永遠の命だぜ!』とはならないのでござるよ」

「そうですね善悪さん、経験や記憶が全くの別物ですから当然他人ですね、生まれた時のDNAは同じでもRNAはかけ離れていますから、動的に変化するRNAはDNAに反映されるし…… オリジナルとクローン、両者を同一個体と呼ぶ事は一卵性双生児を『ほぼ同じ人間』だと断じてしまう事と同じですよ、酷く乱暴な言い方です」

 独りよがりで勝手に敵だと思っていた丹波晃が自分の意見に同意した事と、丁寧な接し方に多少狼狽している善悪の隣でコユキがハッとしながら声を上げる。

「あれ? それってリヅパさんとお婆ちゃんの場合と逆の関係じゃ無いのっ? だってそうでしょ? お婆ちゃんとリヅパさんて全く別の体なのに記憶とか経験は共有しているんでしょ? あ、でも全く同じじゃなくて二人分って事になるのか…… あれ? あれれ? あっ! それってぇっ! 悪魔達が依り代使って顕現する時の『馬鹿』と同じじゃないのおぉっ!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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